なぜ中国旅行者は欧州市民から愛されないのか

長谷川 良

スウェーデンで今、中国とのいがみ合いが起きている。そしてスウェ―デンだけではない。中国旅行者が訪れる欧州の観光地でさまざまな衝突や不祥事が起きている。旅行者は本来、欧州の観光地の住民から歓迎され、愛されてもいいのだが、中国旅行者の場合、行く先々で問題を起こしているのだ。

中国観光客が殺到するスイスの観光地ルツェルン(スイス・インフォから)

スウェーデンの場合、中国との外交問題にまで発展し、ネット上ではさまざまな意見が発信されている。多くの読者は既にご存知だろう。

中国旅行者が今月初め、ホテルで宿泊を申し出たが、チックインの時間ではないことから、ホテル側がやんわりと断ったところ、中国旅行者は暴言を吐き、他のホテル客にも迷惑をかけ出したので、ホテル側が警察に通報。ホテルから外へ放り出された中国人は「殺される」、「助けてくれ」とわめいていたという。

スウェーデン国営放送で今回の中国旅行者の振る舞いをちゃかした風刺劇が報じられると、駐スウェーデン中国大使館が動き出し、「わが国民への不当な人権蹂躙」、「中国を中傷・誹謗している」と批判、事態はスウェーデンと中国両国間の外交問題にまで発展したという話だ。

欧州の観光地にとって、アジアからの団体客は大歓迎だが、中国旅行者に対しては余りいい評判を聞かない。そこで今回、「なぜ中国旅行者は欧州市民から愛されないのか」を考えてみた。

中国旅行者が殺到し、彼らが使う外貨は観光地にとって貴重な収入源だ。中国旅行者に感謝こそすれ、批判できる立場では本来ない。にもかかわらず、中国旅行者の評判が良くないどころか、時には、町の秩序を破壊する不法者のように受け取られているのだ。

例を挙げてみる。スイス中央部の観光地ルツェルンの白鳥広場は毎日、観光客でにぎわう。人口8万1000人の都市に年間約940万人の旅行者がくるが、中国人旅行者を含むアジアからの旅行者が圧倒的に多い。スイス・インフォによると、観光客密度ではイタリアのベネチアを凌ぐという。2030年には観光客数は1200万人から1400万人になると推定され、パリの年間1500万人の旅行者数に近づく。

静かに本を読み、散策を好むスイス国民にとって中国の大都市のようなラッシュアワー状況は考えられない。観光客が少ないと嘆く観光地にとって、贅沢な嘆きだが、数が多すぎるため、町がそれを消化しきれなくなる、という状況は生まれてくる。ルツェルンの状況はそれに当たるだろう。落ち着きと秩序を愛する住民にとって中国旅行者の殺到は耐えられなくなってきている。すなわち、中国観光客が欧州の観光地で余り評判がよくない第1の理由は、中国旅行者の数が多すぎることだ。もちろん、それは中国観光客の責任ではない。

もう一つの理由は、率直にいえば、中国旅行者のマナーが良くないことだ。オーストリアの景勝地ハルシュタット(Hallstatt)を訪問した友人夫妻が中国旅行者の団体に遭遇した。彼らは市中でもレストランでも大声でやかましい。路上にツバを吐く姿を見た友人の奥さんは「いやね」と軽蔑する顔をしたという。土産物屋の会計の場所では順番を無視して割り込んでくる。異なる文化の衝突ともいえるが、中国側のマナー不足は明らかだ。ネット上には中国旅行者の不祥事を撮った動画が無数配信されているほどだ。

欧州の観光都市、音楽の都ウィーンに住んでいると、多くのアジア人、特に中国旅行者によく出会う。中国旅行者の群れを見るたびに彼らに笑みを見せる。「よくここまで来られましたね」という思いが自然と湧いてくる。若い時少し学んだ中国語で挨拶してみる。彼らは異国で友達を見つけたように嬉しい顔をして喜ぶ。

オーストリア宣伝市場機関(OEW)によれば、同国では今年1月から7月の間、54万2000人の中国旅行者がオーストリアを訪問、前年同期比で8・2%増を記録した。延べ宿泊者数は78万1000人で、前年同期比で11・5%急増だ。2010年以来、中国旅行者数は5倍に膨れ上がった。参考までに、中国旅行者に次ぐのは韓国旅行者で、延べ宿泊者数は昨年約50万人、それを追って日本約40万人、インド30万人、台湾20万人となっている。

ちなみに、中国国民で海外旅行をする者は年間約1億3500万人といわれ、2025年には2億人になると推定されている。中国の人口を考えれば、どこに行っても中国人にぶつかるのは当然かもしれない。その行く先々で現地住民と衝突する姿を見るにつけ、同じアジア人として少々悲しい。

中国旅行者のマナー向上には多分、時間が必要だろう。中国国民の海外旅行者数は今後、飛躍的に増加するだろう。今のうちに「海外旅行の快適な過ごし方と海外でのマナー」などを中国政府側がイニシャチブをとって啓蒙すべきだろう。繰り返すが、アジアの同胞、中国旅行者のマナーの悪さを聞くことは本当に辛い。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年9月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。