ドゥテルテ大統領の衝撃の「告白」

長谷川 良

フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は21日、会合で「自分が子供の時、一人の神父によって性的虐待を受けて以来、自分はカトリック信者であることを止めた」と述べ、「自分はキリスト者で神を信じているが、カトリック信者ではない」とはっきりと答えている。

ドゥテルテ氏(公式Facebookより:編集部)

同大統領が未成年時代、カトリック教会の聖職者によって性的虐待を受けたという告白は今回が初めてではない。同大統領は2015年12月、初めてカミングアウトしている。翌年6月にはカタール国営衛星放送アルジャジーラとのインタビューの中でも答えている。その意味で、大統領が聖職者の性犯罪の犠牲者の一人だったという今回の告白はまったく新しいわけではないが、興味深い点は、バチカン・ニュース(独語版)が26日、初めて報じたことだ。

もう少しドゥテルテ大統領の話を聞いてみる。

「自分は神を信じているが、カトリック教会の馬鹿な神ではない。カトリック教会では全てが金だ。信者の会費から結婚、葬式の時も金を支払わなければならないし、洗礼代は高い。そんな教会が良い宗教といえるか。そんな神は自分の神ではない。自分が信じる神はもっと健全な知性を有している。自分は公平で正義の価値観に基づいた神を信じている」

世界のローマ・カトリック教会では今日、聖職者による未成年者への性的虐待事件が次から次と暴露され、教会側はその対応に苦慮している。最近は“ペテロの後継者”ローマ法王のフランシスコ法王がアルゼンチンのブエノスアイレス大司教時代、聖職者の性犯罪を恣意的に黙殺していた事実が明らかになったばかりだ。

そして今、フィリピンの現職大統領が「子供の時、一人の神父によって性的虐待を受けた」と告白し、カトリック教会の神を「自分の神ではない」と主張している。

大統領の告白に対し、同国のカトリック教会司教会議はこれまでのところ何も答えていない。フランシスコ法王が聖職者の性犯罪を隠ぺいした容疑に対し、口を閉ざしているように、司教会議も沈黙している。ただ、同国ソルソゴン州のバステス司教は、「大統領は自分の願うことを決められる。誰も大統領に宗教を信じるように強制できない。各自は自由意思に基づいて信じ、それを実践できるからだ」と述べているだけだ。

フィリピンでは、ドゥテルテ大統領とローマ・カトリック教会との関係は険悪な状況が続いてきた。国民の80%が所属しているカトリック教会に対し、ドゥテルテ大統領は厳しい政策を実施し、あからさまに批判してきた。大統領は公式の演説の中でカトリック教会の「神」を「売春婦の息子」、「馬鹿」と誹謗してきた。

フィリピンでは8000万人のカトリック信者がいる。アジア最大の信者数を誇る。フランシスコ法王は2015年1月15日から19日までフィリピンを訪問し、マニラでの野外ミサには600万人の信者が集まった。歴代最高記録だった(ドゥテルテ大統領はその翌年16年6月30日に大統領に就任した)。

一方、カトリック教会はドゥテルテ大統領の非情な麻薬政策に対し、非人道的な政策として批判を繰り返してきた。人権団体によると、同国で既に2万2000人以上が麻薬関連の犯罪で処刑されたという。

すなわち、フィリピンでは大統領の「アンチ・カトリック政策」に対し、カトリック教会の「アンチ麻薬戦争キャンペーン」が対峙しているわけだ。

フィリピンのカトリック教会はドゥテルテ大統領と直接の対話を願っている。同国司教会議の広報担当者によると、「大統領と司教会議議長のロムロ・バレス大司教は直接対話しなければならない。対話の内容が後日、間違って通達されたり、大統領の発言が誤解されないために」という。一方、ドゥテルテ大統領は4人から構成された委員会の設置を提案し、教会と政府間の問題を解決すべきだと強調している、といった具合だ。

参考までに、欧州のチェコでもアンチ・カトリック主義が強い。同国では民主化後、教会離れが更に進み、無神論的傾向が広がってきた。チェコの宗教改革者ヤン・フス(1369~1415年)が当時のカトリック教会によって火刑に処されてことから、チェコ国民はそれ以後、カトリック教会に対し一定の距離を置きだした。カトリック教会に対し、フィリピン大統領は個人的に、チェコ国民は歴史的、民族的に、消すことが出来ない痛みと恨みを抱えている、といえるだろう。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年9月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。