こんにちは、都議会議員(北区選出)のおときた駿です。
昨日は都議会最終日。各会派からの最終討論が行われ、私も会派を代表して討論に立ちました。
その後の議決の山場は、やはりもっとも注目度の高い「人権条例(東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例」。
過去記事:
全文が明らかにされた「LGBT条例」に浮かぶ多くの論点・懸念点
結局、代表・一般質問や委員会質疑を通じても上記で述べた疑問点はほとんど解消されることはなく、採決態度をどうするか最後の最後まで悩みました。
総務委員会では継続審議を求める動議が自民党から提出され、我々も「継続」がもっとも適切であると考えていました。
もしくは、立憲民主・民主クラブが提出した「表現の自由に配慮する」「明確な基準を定める」ことを求めた付帯決議案は妥当なものであり、この付帯決議が付けば賛成もありえました。
(総務委員会に提出された付帯決議案)
しかしながら、総務委員会では継続審議・付帯決議ともに否決されたため、委員会に席がなかった我々が本会議場で示すことができる議決態度は、賛成・反対のどちらかしかありません。
とりわけ国に法令がなく、東京2020大会を控えた東京都が性の多様性(LGBT)についての独自条例を制定する意義は大きいと思います。
一方で、先述のブログで指摘した通り、本条例案が抱える「表現の自由」侵害の恐れは、これもまた看過できないレベルで大きいものです。
LGBT政策と表現の自由、どちらも私が重点政策として取り組んできた分野です。本当に最終最後まで判断に迷い、最終的には「棄権」という選択を取りました。
「議決するのが議員の仕事なのに、職責からの逃亡だ」
「結局、どちらにも良い顔をしているだけではないか!」
というご批判はあると思いますし、それらは真摯に正面から受け止めなければならないと思っています。これまで私は「決める」となれば賛成・反対のどちらかを選択してきましたし、私自身が都議会で「棄権」を選択する日が来るとは思ってもいませんでした。
それくらい、本条例案はその意義と懸念が拮抗したものであり、それに比してあまりにも審議時間が短いものだった。その点をご理解いただきたい、と言うことはできませんが、ぜひこの場でお伝えさせていただきたいと思います。
この間、あさの克彦前都議会議員がニコ生で言っていた。議会の採決の棄権はよくない手段だが、棄権を選択するのには理由がある。なぜ棄権する人がいるのかを考える有権者が増えると、政治がもっとよくなる。と。
— なんじょう (@nnanjoh) 2018年10月5日
詳細な理由については最下部に掲載する討論の当該部分、および幹事長談話などもご一読いただけますと幸いです。
(退席する音喜多、上田の両都議)
当事者団体・個人の多くが歓迎した、歴史的な条例制定の際に賛成できなかったことは、個人の感情としても非常に残念な思いです。
しかしながら、性的マイノリティの差別解消のために取り組んでいく姿勢は変わりなく、討論終盤でも「根源的な差別解消に臨むのであれば、都独自のパートナーシップ制度導入を急ぐべき」との意見を表明させていただきました。
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私たち少数会派の議決態度は、残念ながら結果を左右するものではありません。
しかし、議会制民主主義における議決は、「とりあえずの結論」を出すものに過ぎません。一定期間の後、過去の決定を再び見直すことができるのが民主主義です。
また、民主主義の冥利は多数による決定ではなく、少数意見の留保にこそあります。我々がここで表明した意見と態度は、必ずや、将来の議論に資するものになると、私は信じます。
今後も何者にも囚われない立場から徹底した情報公開・情報交換に務め、声なき都民・組織なき都民の声を議会に届け、改革の灯火を決して絶やさぬことを誓い、精進していきたいと思います。
それでは、また明日。
■以下、討論の「人権条例」部分(全文はPDFにて)■
最後に、第169号議案「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例」について申し上げます。大前提として、LGBT等の性的マイノリティに対する差別や、ヘイトスピーチは許されるものではありません。とりわけLGBTについては、国の法律制定が遅れを取る中、オリンピック・パラリンピックを控えた東京都がまず、先駆的な条例を制定する意味は極めて大きなものであると考えます。努力義務として差別禁止に踏み込んだこと、対象が事業者のみならず都民に及ぶことについては、若干の懸念と議論の余地が残りますが、当事者からの切実な想いを受け止めた対応であると評価いたします。本条例案が適切な名称の元、第一章と第二章から構成され、また表現の自由に対する留保がつけば、我々としても積極的に賛成したい内容でありました。
しかしながら、この条例案全体を見た時に、これはあまりにも問題の多い内容であり、議論が不十分であると言わざるを得ません。
まず大きな問題の一つは、第二章と第三章の内容が、その成り立ちから効力まであまりにも違い過ぎることです。第二章のいわゆるLGBTに関する部分については、法律に基づかない独自条例であり、強制力を持った罰則規定などはありません。一方で第三章には、条例の根拠となる上部法令が存在し、いわゆる「ヘイトスピーチ」に対して公的施設の利用制限を命じることができるなど、強制力を持った内容になっています。これほどまでに性質の異なる内容を一つに条例にすることは極めて不適切であり、都民の混乱を招かないためには、それぞれを独立した重要課題として、個別の条例として、成立させなければならないものです。条例制定に精通しているはずの都庁から、なぜ最終的なアウトプットとしてこのような条例案が出てきたのか、率直に言って理解に苦しみます。
そして第三章においては、公共施設の利用制限、拡散防止措置・公表といった強制力を伴う措置が定められておりますが、その基準がまったく明確ではなく、条文上はほとんど知事の裁量に委ねられています。この条例が抑制的に運用され、また審査会が設けられているとしても、これは憲法で定める集会の自由と、地方自治法で定める施設利用権の保証に抵触する可能性が否定できません。インターネットの書き込みなどに適用される拡散防止措置についても、表現の自由の観点から懸念が残り、表現活動の萎縮を招く恐れがあります。ヘイトスピーチは許されないものである一方、こうした点については十分な審議が尽くされ、明確な基準が公表されることが条例制定の絶対条件であると考えます。
ところが本条例案については、全文が明らかになったのが都議会告示日であり、結論を出さなければならない本日までに与えられた時間は、一ヶ月にもはるかに満たない短期間でした。加えて執行機関が条文を作るプロセスにおいて、通常であれば行われる有識者による審議会がなかったことについても、問題が残ると言わざるを得ません。
さらに根源的な問題としては、「人権」という概念は多岐に渡るにもかかわらず、オリンピック憲章に定めるものに限定すること、具体的な対象がLGBTとヘイトスピートという、2つに絞られていることは大きな疑問点です。この点には委員会質疑でも各委員から質問が集中しましたが、都から納得の行く説明がされたとは思えません。
他にも細かな課題は多々ありますが、主には以上のような観点から、本条例案については審議を継続し、条例案の構成・内容を再考すべきと考えます。しかしながら、本会議における議決では、継続審査という態度表明が存在しません。また総務委員会では、継続して慎重審査すべきとの意見があったにもかかわらず、顧みられることはありませんでした。同様に、表現の自由に配慮すべきという付帯決議も否決され、この場に上がることはありませんでした。よって、条例制定の意義は十分に認めながらも、現時点での条例案には賛成することができない我々は、やむを得ず退席し、議決に参加しないことを表明いたします。
なお、LGBTなど性的マイノリティに関する最大の問題は、性的マジョリティーが持つ「結婚する権利」を持っていないことにあります。根源的な差別解消に取り組むのであれば、各種啓発に取り組むと共に、都独自のパートナーシップ制度を確立し、その権利を早急に確保すべきであると意見を申し上げます。
編集部より:この記事は東京都議会議員、音喜多駿氏(北区選出、かがやけ Tokyo)のブログ2018年10月5日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はおときた駿ブログをご覧ください。