言うは易く、行うは難し:増税対策で行うクレカ手数料引き下げ

2018年10月21日 06:00

現在、政府は消費税率アップ対策として、クレジットカード等によるキャッシュレス決済をすれば2%程度のポイントをカード利用者に還元することを検討していると聞くが、これに関連して、先週末の新聞報道によれば、中小の小売店でのクレジットカード決済について、現在4~5%の手数料を3%台に引き下げるように、経産省と財務省がポイント還元策に参加するカード会社に要請するとのことだ。

確かに、日本でクレジットカード決済がなかなか普及しないのは手数料の高さに一因がある。例えば一か月の売上が100万円の店で、クレジットカードで払う人が4人に1人いて手数料が5%だったら、お店は1万2500円も負担することになる。したがって、手数料が安くなれば、クレジットカードの加盟店になろうというお店は増え、消費者もクレジットカード決済ができる場所が増えて、ポイント還元を受けやすくなるかもしれない。

しかし、これは言うは易く、行うは難しという格言そのものだ。

現在、クレジットカードの手数料は、お店の信用度や業態に応じて料率が決められており、クレジットカードのブランドにもよるが、大まかに言って、例えば居酒屋やスナックだと7~8%を超えるものも珍しくはなく、普通のレストランや食堂でも5~6%はしている。一方で衣服や雑貨を売る店だと4~5%だったりする。これをお店の信用度や業態を無視して一律に3%台に下げるというのは、乱暴に過ぎるだろう。

また、クレジットカード会社に加盟店が支払っている手数料は、「アクワイアラ」と呼ばれる加盟店を開拓・管理するクレジットカード会社が、加盟店の売上から差引く形で徴収するが、アクワイアラの手元に残るのはその一部で、残りは支払いに使われたクレジットカードを発行した「イシュア」と呼ばれるクレジットカード会社とVISAやMASTERといった国際ブランドに支払われる(なお、イシュアも国際ブランドに手数料を支払っている。)

仮にお店が4.5%の手数料を支払っていて、これを3.5%まで引き下げなければならないこととなった場合、引き下げ分の1%をこれら3者のうちの誰が負担するのか、特にアクワイアラとイシュアのどちらがどれだけ負担するのか、それぞれが経営にあまりゆとりのない中で、もめることは必至だ。

特に、大手カード会社のグループや傘下には、地方銀行等の子会社のクレジットカード会社が全国に多数存在しており、各地方を主たる営業エリアとしてイシュア業務やアクワイアラ業務を行っているが、これらの会社との負担調整も大仕事になる。特に地方銀行の子会社であるクレジットカード会社の中には、地方経済の衰退とともに必ずしも経営状態が良いとは言えないところもあり、今回の負担調整次第ではこうした会社が他社に身売りをしたり、廃業してもおかしくない。そうなると地方での新規加盟店開拓の力は大きくそがれてしまい、クレジットカードによるキャッシュレス化にブレーキがかかってしまうことになる。

また、以前アゴラの記事で述べたが、仮にイシュアが受け取るインターチェンジフィー(IRFともいう)を削るということになると、オーストラリアなどの先例に鑑みれば、イシュアは減収分を補うためにカード利用者の年会費を引き上げたり、イシュアが提供するポイントの付与率を引き下げたりすることがあり得る。この場合、報道されているように消費税率アップ対策としての政府によるポイント付与が1年限りであるならば、カード利用者にとってもこの手数料引き下げ措置がメリットとならず、むしろデメリットとなる可能性もある。

さらに、現在でもクレジットカード会社間の競争の激化によって、新規の加盟店獲得に際して、あるいは既存の加盟店でも手数料に不満があるお店の場合、3%台の手数料を提示しないと他社に加盟店を奪われてしまう状況にある。したがって、報道されているように3%台の手数料にしてもクレジットカードの加盟店が現状より急に増えることは期待できず、単に既存の加盟店である中小小売店の手数料をクレジットカード会社の負担で引き下げるだけとなるのではないだろうか。

これに加えて言えば、手数料の高さだけでなく、決済に使用される端末代が高いことや、カード売上票の保管義務などの事務手続きの煩雑さ、カード売上入金までのタイムラグが長いことなど、クレジットカード決済を中小の加盟店まで拡大するには様々な障害があるので、こちらも何とかしないと、クレジットカードによるキャッシュレス化の拡大は難しいだろう。

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有地 浩
株式会社日本決済情報センター顧問、人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)

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