「請求権問題」を蒸し返す韓国の歪んだナショナリズム

2018年11月02日 11:30

戦時中に日本で働いた韓国人が「強制労働させられた」と主張して新日鉄住金に賠償を求めていた訴訟で、韓国の大法院(最高裁)は10月30日、原告の主張を認めて賠償を命じる判決を出した。これは1965年の日韓基本条約で「完全かつ最終的に解決」したと明記されている請求権の問題を白紙に戻すものだ。

日本政府は「断じて受け入れることはできない」と韓国政府に抗議したが、同様の訴訟は80件近くある。戦後70年以上たって、条約で決着した戦時中の問題がなぜ出てくるのか。この背景には、日本人にはわかりにくい韓国のナショナリズムがある。

韓国人は「徴用工」だったのか

そもそも今回の訴訟の原告は「徴用工」だったのか。彼らは「強制労働させられた」と主張しているが、戦時中に日本政府が強制的に「徴用」した労働者は、終戦時の厚生省の統計によると245人しかいなかった。これは戦時労務動員計画で「半島人の徴用は避ける」という方針だったためだ(同じ理由で徴兵された兵士もほとんどいなかった)。

多くの朝鮮人労働者は「官斡旋」という形で募集され、日本の炭鉱や工場や建設現場で働いた。内地の賃金は朝鮮半島の2倍ぐらいあったので、何倍もの朝鮮人が応募した。今回の原告も政府の徴用令で強制労働させられたのではなく、募集に応じて労働したのだろう。国会で安倍首相は「4人はいずれも募集に応じたものだ」と答弁した。

こういう問題は日韓条約と同時に締結された日韓請求権協定で決着した。これは「賠償」ではなく、韓国に無償3億ドル、有償2億ドルを供与する「資金協力」だったが、戦時中の請求権については日本政府が韓国政府にまとめて支払うことになった。個人請求権は残るが、それは韓国政府に対して行われることになった。

ところがこの政治決着をくつがえしたのが、1990年代に始まった慰安婦問題である。これについて韓国政府は当初「日韓請求権協定で慰安婦は想定していなかった」と主張したが、一般の労働者は請求権協定の対象だった。ところが慰安婦問題が泥沼化する中で、条約で決着がついた労働者の問題まで蒸し返されたのだ。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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