豪州の移民政策が日本に示唆する「地獄の釜」 --- 江川 純世

2018年11月06日 06:01

オーストラリアは国民の数を増やし、高齢化を防ぐために移民政策を積極的に使い、特定分野の労働力不足を補いながら順調に人口とGDPを増やしてきた。いま日本では経済界の要求に基づく自民党の入管法改正案が十分な議論を経ずに推し進められている。この日本政府の移民拡大策推進に戸惑っている日本人の多くは、豪政府の絶え間のない移民政策改善の努力、抜け穴ふさぎのためのあがきを知らない。

オーストラリアの移民政策を裏打ちしている社会的な仕組みのいくつかを紹介することにより、やり方次第では国を壊しかねない移民政策にとって何が必要なのか、警鐘を鳴らしたい。

シドニーの中華街(Wikipedia:編集部)

1. 移民政策で一旦入れた外国人の数は鼠算的に増える

海外移民達の目的は母国から抜け出して移住目的国で暮らすことであり、職業の選択は2の次である。仕事は生活の手段であり、滞在ビザが何であれ、家族と共に合法的にそこに住めれば、仕事の種類は眼中にない。

外国人就労拡大を旗印とする現法案の問題は主に2号にある。技能が高い就業者には滞在年限を定めず、つまり永住権を付与し、家族の帯同も許すとある。ここオーストラリアでは永住権の審査は年々厳しくなっているが、取れればオーストラリア人と同じ福利厚生を受けられる。当然母国に配偶者や子供がいれば呼び寄せビザ申請を行い、高齢の父母がいれば同様に申請が可能である。ひとり移住すれば100人になると言われる所以であり、抑制するのは困難だ。

2.  移民のマジョリティは中国人である。中国人対策を移民政策の中心に

日豪の累積移民の数で最も多いのは中国からの移民であり、中国人を意識した法制でなければならない。中国人は順法精神が低く、ばれなければ何でもやるという考え方である。安保上の対策としては中国の「国民動員法」対策が中心となるだろう。 

3.  移民も人間、日本人とは異なる語学・文化教育、福祉政策、離職・再就職を前提とした移民向け就労支援システムに投資が必須。居住エリアの限定政策の検討も

健康保険、失業手当/生活保護、無料語学教育など広範囲にわたる移民の生活支援ための社会インフラを作る必要がある。オーストラリアの例を説明する。

1)健康保険は永住者でない限り民間保険に各自加入。現在の日本では国民健康保険に加入させているようであるが、オーストラリアの国民健康保険(Medicare)に加入できるのは国民と永住者のみである。移民申請の際重要視されるのは、指定病院での健康診断である。シリアスな既往症があったり、患っている場合は不合格、ビザは却下され療養目的に乗り込んで来る人をシャットアウトする。

2)移民の就業に際しては、政府機関Centrelinkに登録した後、就職支援会社で週1回のオフィスでの就活と面談が実施されている。種々の理由で離職し、同じ民族の集団に潜ると移民の存在が把握できなくなる。なかなか就職できない移民が犯罪に走る可能性も大きい。週1回の面談は、失業率を低減させるためであるが、犯罪に走る移民の動きを抑制し、監視する役割も持つ。現在のハローワークで対処できるだろうか。

3)就労に必要な英語力がない場合は英語教育プログラムへの参加、ITに詳しくない場合はPC操作の教育プログラムに参加することができ、メンタルヘルス、DVなどの問題についても専門家が無料でカウンセリングを行っている。これも大きな財政負担となる。

4)英語が話せない移民は政府のサービス(TIS:Translation and Interpreting Service)を無料で受けられる。通訳可能な言語は160か国語以上。日本でこの種のサービスが可能とは思えない。

4.  移民のビッグ・データ管理、不法滞在者への対応は具体的に

移民政策設計の基本は性悪説である。2025年までに移民50万人増を目指すとなれば、不法滞在者用の隔離施設と母国への送還予算の計上も必要となろう。

オーストラリア内務省は外国人や二重国籍者を含めた92万人余(2017年)が登録されている「要注意人物リスト」を作成した。危険区分の中で最も多いのは「国家の安全に対する脅威」。対象者は全体の約45%を占め、次に多いのは「重大・著名事件の犯罪者」で全体の約12%。日本でもこの種のデータベースの作成とそれを実施できる法的環境の整備が必要となろう。

豪政府統計では各種ドラッグ使用経験者は国民の1/3に達している。ドラッグの使用に対する禁忌意識の低い国や犯罪発生率の高い国からの移民は日本の犯罪発生率を確実に高める。

豪州政府のオンライン・サービス・アカウント(MyGov)を作成すると各種のデータ(下記)にアクセスができる。これを見ればCentrelinkに登録した居住者の各種のデータが一元管理されていることがわかる。日本ではマイナンバーの活用もままならないと聞いている。現状では移民のデータ管理など夢のまた夢か。


5.  中国には偽造できない証明書はない。移民の申請内容のチェック・システムの整備が必要

豪州では中国人の各種申請添付書類に偽造が多いことが知られている。そのため豪政府はその書類の真贋を判定するいくつかの仕組みを使っている。

6.  家族帯同の許可についての家族の範囲の設定、家族関係の確認システム、離婚/再婚に際しての滞在ビザの発給ルールは厳格に

移民の受け入れに伴い鼠算的に外国人居住者が増え、社会負担が増える背景には、家族呼び寄せ制度がある。一旦受け入れた配偶者が離婚した場合のビザの扱い、養子で子供が増えた場合の扱い、介護が必要な両親の呼び寄せなどについても細かいルールを設定し抜け穴をふさがなければならない。

日本にこれらができるのだろうか?

江川 純世 AJCN(オーストラリア ジャパン コミュニティ ネットワーク)事務局長

 

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