中国は決して民主化しない:ロックの市民政府論に見る本質

市民政府論 (光文社古典新訳文庫)
ジョン ロック
光文社
2011-08-10

 

第2次冷戦(米中冷戦)の過程で明らかになったのは、中国をはじめとする共産主義国家は、どのように取り繕っても、自由主義・民主主義国家にはなりえないということである。ベルリンの壁が崩壊した1989年以降、西側社会は共産主義国家が民主化されるのを忍耐強く待っていたが、その願いは単なるイリュージョンにしか過ぎないことが分かった。

我々西側の民主国家と共産主義国家と一体何が本質的に違うのかを考えるときに、約300年前に発刊された本書が、「本質」をズバリと指摘しているのは驚くべきことである。

法律が無ければ自由は無い

本書で定義される自然状態というのは、実のところエデンの園のような楽園では無い。現在で言えば、アフリカのソマリアやナイジェリアのような市民の殺戮が繰り返される無政府状態の地域。あるいは西部開拓時代のアメリカのように無法者が闊歩し、善良な人々が財産(生命・自由・資産)を脅かされる暗黒時代である。

だからこそ、人々は社会のルールを決め、そのルールに従って国民の財産(生命・自由・資産)を守る統治者の支配に従うことを望んだのである。

誤解されがちだが、(ロビンソン・クルーソーのように絶海の孤島で暮らさない限り)「(何をやってもかまわない)完全な自由」などというものは存在しない。集団の一員として暮らす限り、他人を無視できないが、その他人にも当然「完全な自由」が与えられる。したがって、その他人は、いつでも好きな時にあなたを殺す自由を持っていることになる。

だからこそ「殺人者は罰せられる」という法律があってこそ、あなたの自由は保障されるのである。無政府主義は、人間をとてつもなく不自由にするだけである。「法律」こそが国民の自由を保障するのである。

ロック(右)の理論で現代中国を考えると..(Wikipediaより:編集部)

政府の横暴どのように止めるか

法の執行機関である政府は本来国民の信託を得て成立し、法律によって制御されなければならない。しかし残念なことに、大部分の共産主義(独裁)国家は、国民の信託を受けずに、暴力で政権を奪い取っている。

例えば、民主主義中国=中華民国(台湾)から暴力で政権を奪い取った共産主義中国は、立法主義がきちんと機能していない(人治主義)国であり、国民の自由も保証されていない。天井の無いアウシュビッツ(ウイグル)の人々を中心に共産党員以外のほとんどの国民が圧政に苦しめられていることを見ても、法律の重要性は明らかである。

国民には政府を倒す権利がある

確かに、国民の信託を受けた政府が本来の目的を逸脱し、国民の財産(生命・自由・資産)を侵害するのは、何も共産主義中国だけでは無い。北朝鮮をはじめとする独裁国家は現在でも多数ある。

そのような、国民の信託を受けていない政府が国民の絶対不可侵の権利(自然権=生命・自由・資産)を侵害した場合には、国民と政府との信託契約は解除され、国民はその政府を打倒し、新しい政府と契約を行うことができるという<契約自由の原則>が本書の肝である。

つまり、<自然権>が犯された中国人民は共産主義政権を打倒す固有の権利(自然権)を持つということだ。

現在、少なからぬ中国人民がその自然権を行使しようとして立ち上がっているが、中国共産党の弾圧はゲシュタポ並みである。また、特に天井の無いアウシュビッツ(ウイグル)は、目も当てられない惨状である。

我々日本人は、このような惨状を直視し、アジアの民主化のために、勇気を持って立ちあがった人々を、応援・支援すべきである。

国家には自然権としての自衛権がある

もう一つ注目すべきなのは、自然権としての自衛権である。個人レベルで、ロックは次のように述べている。

  • 自分の家に誰かが侵入してきたら、即座に殺してもかまわない。被害者は、その侵入者が単なる物取りなのか殺人者なのかを判断する余裕など無く、自分の生命を守るための自衛行為として相手を殺害することは正当防衛(緊急避難)である。
  • しかし、例えば自分の親族が殺された場合、殺人者を自分の手で殺すことは認められない。その処罰の権限は、国民から政府に依託されたものであり、個々の国民が行使することはできないし、緊急性も認められない。

例えば欧州で死刑が廃止されているにも関わらず、容疑者を射殺することが認められているのもこの<緊急性>の要件を満たしているからである。容疑者の行動を抑制しなければ、他の市民の財産(生命・自由・資産)が侵害される場合には、緊急避難としての自然権の行使が許されるのである。

この考えを世界レベルで考えれば次のようになる。

  • 統治の最上位の形態は、現在のところ国家である。国連などの国際機関が存在するが、いずれも単なる「業界(国家)団体」であり、加盟社(国)に対して何ら強制力を持たない。つまり、国際政治というのはどれだけ立派なことを唱えても自然状態、すなわち西部開拓時代の無法地帯なのである。
  • したがって、憲法第9条にどのような文言があろうと、日本国民の自然権である<自衛権>は侵されない。自然法は、憲法を含むどのような法律よりも上位にある。

したがって、共産主義中国が日本の領海(領空)を侵犯(家に進入)すれば、自然権を持つ日本国民は憲法9条など関係なく、共産主義中国(侵入者、殺人者)を壊滅(殺害)する権利(自然権)を保有する。

特に、共産主義中国はウイグルを天井の無いアウシュビッツにした実績があり、日本国民はそのようなリスクを回避する緊急避難のために自然権を行使して共産主義中国を壊滅させることができるのだ。

★本文は人間経済科学研究所HP掲載の書評を加筆・修正・圧縮しました。

大原 浩(おおはら ひろし)国際投資アナリスト/人間経済科学研究所・執行パートナー
1960年静岡県生まれ。同志社大学法学部を卒業後、上田短資(上田ハーロー)に入社。外国為替、インターバンク資金取引などを担当。フランス国営・クレディ・リヨネ銀行に移り、金融先物・デリバティブ・オプションなど先端金融商品を扱う。1994年、大原創研を設立して独立。2018年、財務省OBの有地浩氏と人間経済科学研究所を創設。著書に『韓国企業はなぜ中国から夜逃げするのか』(講談社)、『銀座の投資家が「日本は大丈夫」と断言する理由』(PHP研究所)など。