ダイバーシティマネジメントのすゝめ

加藤 拓磨

新聞・テレビ・教育を中心に情報を得てきたステレオタイプの時代においては社会全体が大きなひとつの価値観を共有し、豊かな生活を得ようという目標に向かって進んでいた。時代は進み、様々な情報をいつでもどこでも入手可能となった現代になった。

例えば、音楽においては1979年にウォークマンが発売され、80年代音楽は家族団らんではなく、個人で音楽を聴く時代に入り、1990年代にIT革命、情報化社会が推進され、今や個人が携帯電話・スマートフォンから様々な情報を得られる時代となり、現在では音楽はダウンロードができるようになった。

ICTの進展はこの流れを加速させ、多様な価値観に対して、多様なサービスが創出されてきた。個人の思想・価値観が多様化するのは極めて必然的なことである。ビジネスにおいては多様なニーズに応えられなくては今の時代においては立ち行かないものとなっている。もはやひとつの価値観を共有することは不可能である。

昨年2017年度、公益社団法人東京青年会議所総合政策委員会(委員長:菊池飛鳥)では「青年が挑むダイバーシティマネジメント推進~混沌とした時代で個性を輝かせるために~」という提言書をとりまとめた。私は提言書の筆頭著者として参画し、広く皆様に提言内容を伝えたいために提言書の概要を認めさせていただく。

我々、東京青年会議所は多様化するニーズに対して大きく分けて二つ問題があると考えている。

一つ目は、企業が目指すべき市場の変化である。先進国の市場の成熟化や人口減少に伴い、企業が従来これまでの経営を根本的に変えていく必要がある。高成長下において右肩上がりに市場の拡大が見込まれた時代から、現在、低成長で市場は成熟し、需給が飽和する時代に変化した。飽和状況下で新たな市場を作り出すには多様なニーズ・価値観を理解しなければならない。

二つ目は、労働市場の変化である。経済状況が激しく変化し、企業としても先行き不透明な中、終身雇用制度が当たり前である時代は去り、雇用の流動化が進みつつある。また、少子高齢化に伴い、労働力人口が年々減少し続けるという構造的な問題にも直面している。労働力人口が減少するということは、中小企業にとっては人材確保が難しい時代に突入する。企業は人材確保と共に市場の多様なニーズ・価値観に応えるべく、多様な人材の雇用を進めていかなくてはならない。

現在はICTの進展により、VUCAワールド(後述)という予測不能な世界に突入している。このような困難・諸課題に向かっていくためには一様の価値では解決できない。多様な人材・価値観を持って諸課題に向かっていく必要があるが、それを推奨・管理していくためにはダイバーシティマネジメントという概念が必要であるという観点から、提言書を作成した。

 東京青年会議所提言(概要)

混沌とした現代社会を生き抜くには、イノベーションを創出し続けられる環境として「ダイバーシティマネジメント」が必要不可欠である。個人・組織・地域のあらゆる立場・現場において率先してリーダーとなるダイバーシティマネージャーの必要性を提言する。

提言の確実な実行に向けて3つのステップ

①ダイバーシティマッチングの導入

②ダイバーシティポジションの相互理解

③ダイバーシティハイブリッドの構築

提言の解説

ICTによる爆発的な情報の広まりは、わずかな口コミからのヒット商品の誕生、ゲーム・SNSコンテンツの栄枯盛衰に見えるビジネスの大きな変動、世界における劇的な政局な変化などを説明できるとしている。この激動の時代において多様な価値観へ対応すること、「ダイバーシティマネジメント」が必要である。

しかし、アメリカのように多民族国家ではない日本人にとって、多様な価値観が併存する状況を受け入れづらい。欧米の概念をそのまま受け入れるのではなく、日本版ダイバーシティマネジメントには「和を以て貴しとなす」つまり、しっかりと話し合うことが肝要であると考える。ICT進展により、メール・SNS中心のコミュニケーションとなり、本当は当人同士が分かり合えていない、上司の意を勝手に汲むなど、悪い意味の忖度で物事を進むのではなく、互いに真に理解し合える方法を一から考えることで、現代版の“和”を創造する。その解決のためには3つのステップが必要であると考える。

3つのステップを進めていくことで、(1)それぞれの個性が協力し合い仲間を募り、(2)それぞれの位置関係を理解した上で意見を尊重し、(3)共通目標を設定し、スパイラルアップしていく。

イメージではあるが、組織においては議論の機会を増やすことで多様な価値観が生まれ、イノベーションの誘発すなわち企業収益が増加するようになっていく。地域においては例えば、多様な属性のグループがボランティアへの興味が上がるきっかけが上がれば、地域力の向上につながっていく。

各個人がこの提言、3つのステップを行うイメージをもちながら、組織・地域内外でダイバーシティマネジメントを推進し、先行き不透明な世の中において持続可能な経営・運営がなされることを期待する。

多様な個性を組み合わせることで新たなイノベーションを生み出す。行うべきことは価値観の共有ではなく、目標の共有である。

3つのステップをわかりやすく例示するとプロ野球のファンとでもいえよう。

STEP1は何となく野球に興味があるがどうすればいいか迷っている人、また球団のファンが仲間を集めようとしている。

STEP2は各々の球団のファンは敵でもあるが、そこはそれぞれの球団を応援するということを理解しあわなければならない。

STEP3はすべての球団が力を合わせてプロ野球全体を盛り上げる。状況によっては日本代表が世界と戦うのを応援することである。

技術革新などに例えれば、カーナビはGPS、オートジャイロ、マップマッチングと各個性の持った技術の融合の産物であり、単一の技術ではカーナビは精度を維持できない。精度を高めたいという目標が一致するとき、それぞれの個性と役割が見え、その多様な技術のハーモニーによって、素晴らしいモノが出来上がる。

3つのステップを進めていくことで、(1)それぞれの個性が協力し合い仲間を募り、(2)それぞれの位置関係を理解した上で意見を尊重し、(3)共通目標を設定し、スパイラルアップしていく。

イメージではあるが、組織においては議論の機会を増やすことで多様な価値観が生まれ、イノベーションの誘発すなわち企業収益が増加するようになっていく。地域においては例えば、多様な属性のグループがボランティアへの興味が上がるきっかけが上がれば、地域力の向上につながっていく。

ダイバーシティマネジメントの効果(組織におけるイメージ) [様々な属性に議論の機会を与えることでイノベーションを誘発させる]

図 ダイバーシティマネジメントの効果(地域におけるイメージ) [例えば防災に関して。様々な属性をボランティアなどに巻き込むことで地域力の向上につながる]

VUCAワールド

Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとったものであり、未来予測がとても困難な世界ということである。

情報の高スピード化とそれに伴う価値観の多様化により、世界規模で社会経済が極めて予測困難な状況として、VUCA(ブーカ)の時代に突入したという[Herausgeber: Mack, 2016]。VUCAはもともと1990年代にアメリカの軍事分野で用いられた言葉で、国対国の戦争からテロリストとの戦いへの変貌、戦術のあり方などが「予測不能な状態」となってきていることを示した。

現在においては経済用語としても用いられるようになった。ICTによる爆発的な情報の広まりや、様々な機械化によりビジネスのあり方は大きく変わった。また「この先10~20年の間で49%の仕事が機械に奪われる高いリスクがある」[野村総合研究所, 2017]と予測され、我々をとりまく社会システムは日々大きく変動し続けている。

予測不能な現象の一例をあげる。

・わずかな口コミからのヒット商品の誕生、

・ゲーム・SNSコンテンツの栄枯盛衰に見えるビジネスの大きな変動、

・イギリスのEU離脱・アメリカ大統領選挙など世界における劇的な政局な変化

・終身雇用制度の崩壊

・既存ビジネスモデルの崩壊・再構築

・気候変動などの大規模な自然災害や気候の変化

・シェール革命を代表する新エネルギーの台頭

このような突然として変化する先行き不透明な世の中において、対応策が求められる。

本提言書を作成する上で、大変お世話になった公益社団法人東京青年会議所2018年度卒業生に対して、本文を以て手向けとさせていただく。

加藤 拓磨   中野区議会議員 公式サイト