GAFAへのデジタル課税が始まる

有地 浩

フランスのルメール蔵相は12月17日、下院(国民議会)での演説で、2019年よりグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン(頭文字をとってGAFAと略称される)などの巨大IT企業から、新たに売上の3%を税金として取ることを宣言した。黄色のベスト運動への懐柔策のために財政赤字の拡大を余儀なくされたフランス政府にとって、新税がもたらす5億ユーロ(約630億円)の税収は、干天の慈雨だ。

しかし、実はこの新税は黄色のベスト運動がもたらしたものではなく、以前からフランスがEU内部でこの新税(デジタル・サービス税)の導入を提案していた。ところが、EU加盟国の中でも、GAFAが欧州の拠点を置くアイルランドやオランダのほかデンマーク、スウェーデンなどの国々が反対した上、ドイツはアメリカとの貿易摩擦の拡大を懸念して腰が引けていたため、なかなか合意を得られないでいる。2018年中にEU内の合意ができず、議論が翌年3月に持ち越されたことに業を煮やしたフランスが、今回単独での導入を決定したものだ。

よく言われることだが、GAFAのような巨大IT企業は、利益を税金が安い国に移して、売上が生じている国ではあまり法人税を支払っていない。これは日本においても同じ状況にある。

なぜこのような状況が生じてしまうかというと、現在の世界各国の法人税制度が、製造業であればモノを製造・販売するための工場、サービス業であれば、ホテルやレストランや病院のサービスを提供するための建物、商業であれは仕入れ・販売をするためのビルや倉庫などと、収益を上げるための物理的な施設があることを前提に、そうした施設が所在する国が課税権を持つこととして、その利益に税金をかけているためだ。

GAFA等のようにインターネットを介してビジネスをする企業にとっては、工場やビルをどこに建てるかはビジネス上重要ではない。だからアイルランドのような国に欧州の拠点があっても支障がないのだ。また現在の利益を確保するのではなく、将来にわたって自社の独占的なマーケットシェアを維持・拡大するという方針の下に、膨大な研究開発投資や設備投資を行う結果、売り上げの大きさに比べて利益が大幅に小さくなり、法人税額も小さくなるのは、ある意味で必然的なものだ。

GAFAはこうして現在の法人税制度の欠陥を上手く突いて、節税をしているわけだが、これは企業としては合理的な行動であり、このことを課税当局が非難しても仕方ない。いわば21世紀型のIT企業のビジネスモデルに、20世紀型の法人税制度が合わなくなってきているのだ。

17世紀フランスの太陽王ルイ14世の財務大臣だったコルベールは、様々な税控除を乱用して税金を払おうとしない貴族に対して、間接税を増税することで、税収を確保しようとしたが、現代の税務当局も新しいビジネスの形に法人税の形を合わせて、税収の確保に努めることが必要だ。

GAFA等の巨大IT企業に対する課税の問題は、その性質上日本を含めた世界の多くの国と国民の利害にかかわり、また普通に法人税を課税されている旧来型の企業と巨大IT企業との公平の観点からも重要な問題である。このためEUから離脱することとなっているイギリスも、いち早く2020年からのデジタル課税導入を決定していたが、後を走っていたフランスに先を越されることになった。また、先進国の集まりのOECD(経済協力開発機構)やG20の場でも議論が行われている。

ただ、OECDやG20においてはアメリカを中心に抵抗勢力が強く、なかなか結論が出せない状況にあるが、GAFAのいわば「故郷」と言えるアメリカにしても、現在の財政赤字はいつまでも持続可能ではなく、早晩税収の確保の必要性に迫られる時が来ると思われ、そのときは、やはりデジタル税が税源として欠くことのできない選択肢となろう。2019年のG20の議長国となる日本は、この問題の早期解決が図れるようにリーダーシップを発揮することが強く期待される。

今回のフランスのデジタル税導入は、世界的に見ればまだ1国が導入しただけの小さな一歩かもしれない。しかしこれは、法人課税の発展の歴史の上では、重要な一歩となるのではなかろうか。