カリスマの賞味期限

岡本 裕明

日経に興味深い記事の一節があります。

側近を相次いで排除していった結果、実務が滞り「    」氏の思った通りの成果を上げられなかった。それがまた焦りを生み、意にそぐわない幹部を次々と入れ替える「独裁」につながっていった。

試験問題風に「  」の中に入る適切な人物名を入れよ、と問いてみましょうか?

これを日本の試験でやると必ず答えは一つなのですが、よく考えるとこの「  」に入る名前はたくさんあるように感じます。記事ではゴーン元会長が正解なのですが、トランプ大統領と入れてもフィットしそうです。更にこの記事にはGEのジェフイメルト元CEOやフォルックスワーゲンのオーナー家、フェルディナント ピエヒ氏も入りそうだ、と指摘しています。

カリスマ性をもった経営者人生や政治家人生等を最後まで全うするのはなかなか困難なことです。そんな中、マレーシアのマハティール氏が昨年、首相でカムバックしましたが、現在御年93歳であります。氏は81年にルックイースト政策を打ち出し、日本では知名度も高いカリスマ政治家でありますが、これほど高齢になって首相に返り咲くのは並大抵のことではないと察します。

経営者の立場に立つと大きな会社でも小さな会社でも共通する責務があります。それは会社という組織を永続、成長させ、そこで働く従業員やその家族に安定した生活の基盤を提供し、地域と共生し、顧客に喜びを届けるという判で押したような回答でありますが、私も16年社長をやっていてその意味は歳を取るごとによく身に染みてくるものです。

世にいうトラブルを起こした独裁者的カリスマは金銭的欲求が非常に高いことはあるでしょう。生活に関する費用は結果として会社の経費でまかなわれることもあり、もらった多額の報酬を使う時間すらない経営者は多いものです。そのために蓄財された財産を個人資産運用会社を介して更に増やすといったことをしている人も案外多いと思います。

ゴーン氏の場合も記事を読む限りかなりお金に執着していたことがうかがえますが、私の顧客や周りにいる富豪をみてもおおむねお金にものを言わせるような似たタイプが多いのは事実です。

カリスマにお金という武器があれば怖いものなし、ということなのでしょう。ただ、蓄財を突き詰めると必ずグレーな話が出てくることも事実です。パナマ文書を通じてみんなこんなにいろいろやっていたんだという話は氷山の一角に過ぎないのです。

一方の私はどうも金銭的欲望があまりないらしく、給与も社長在任16年で2度か3度上げたぐらいで今の給与も多分5-6年前と変わっていないはずです。(気にも留めてないのでいつ変わったかすら記憶にないのです。)カリスマに至るには普通の人では達成できないような経営を通じて多額の報酬を受け取り、自分を神格化するようなものかもしれません。そういう人の発言が時折、メディアで話題になり、社内のみならず、世に旋風を起こしたりするわけです。

とすれば私はカリスマにはならないのですが、そんなつもりもありません。私の会社の経営状態をMBAを出た優秀な方が見れば「ボロ会社」で成長余力がもっとあるのにそれを使い切っていない失格経営者と言われるかもしれません。ですが、大きくすることだけが経営ではありません。私は顧客やスタッフ、さらには取引先などに自分で目くばせできる地に足がついた経営で十分なのです。なぜならば私の経営理念は会社経営を通じた幸福の拡大であってお金ではないからです。故に、私はまだ当分は経営者としてリーダーシップをとるつもりですが、無理もないし、背伸びもしないから賞味期限が長いのかもしれません。

山高ければ谷深し、という言葉があります。相場の格言とされますが、私は人生模様でもある気がします。圧倒的カリスマ性を長く、最後の一日まで維持するのはそれだけのための強大なエネルギーが必要でしょう。ゴーン氏もトランプ氏もそれと戦っています。権力と資金力という武器があればある程度の期間は戦えます。しかし、無敗の王者はそう現れるものではないということも肝に銘じるべきなのでしょう。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年1月16日の記事より転載させていただきました。