「原子力損害の賠償に関する法律」第十六条の意味

「原子力損害の賠償に関する法律」第十六条は、第一項において、政府による原子力事業者に対する「必要な援助」の義務を定めるものの、その内容については、第二項において、「国会の議決により政府に属させられた権限の範囲内」としているだけである。これでは、法律適用の事前の予測可能性は全くない。

福島の事故のとき、民主党政権は、この援助の意味について、東京電力の責任が主で政府責任が従であると解し、東京電力に第一義的責任があると宣言したのだが、実際には、第二項に基づいて「原子力損害賠償支援機構法」(今の「原子力損害賠償・廃炉等支援機構法」)を制定したときは、賠償責任を政府が一時的に肩代わりする措置をとったわけで、事実上、政府責任を主とする構成にしたのであった。

なお、政権交代の直後、安倍総理大臣は、福島を訪れ、政府が前面にでると宣言し、端的に政府責任が主であることを認めている。

以上の経緯からして、「原子力損害の賠償に関する法律」を抜本改正するなら、政府による「必要な援助」の具体的内容を明示しておくべきであろう。具体的には、東京電力に対してなされた措置を大筋で追認すればいいのではないか。

なお、東京電力に対する措置については、当時も今も、政府による救済という見方が根強くあるが、それは全くもって不当な理解である。法律に基づく政府の義務の履行としてなされたものであること、このことを法律改正において明らかにすべきなのである。

要は、現行法制定時の議論に戻り、本来のあり方にすればいいのだ。現行法の欠陥は、政府責任を事前に明確にすることを避けたことなのだから。背後には、当時の事情として、経済的な責任を負い得ないという国家財政の脆弱性と、民間事業者の債務を政府が肩代わりすることは不適切であるという形式的論理とがあったわけである。

しかし、当時から既に、国策遂行において、被害者の賠償について直接に政府が責任を負うことは当然であるとの有力な意見もあり、法律案の検討段階においては、政府が賠償責任を負ったのち、原子力事業者に求償するという案もあったのである。

いずれにしても、福島の事故の後、この論点を蒸し返すのは不毛である。もはや、政府責任を不明確にしたままで原子力事業を継続することは不可能である。このことは誰の目にも明らかだ。

 

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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