ジャカルタのアジア大会で公開競技となったeスポーツ。
サッカーゲーム「ウイニングイレブン」で日本チームが金メダルを獲得、日の丸がセンターに掲げられ君が代が流れました。
2022年、杭州でのアジア大会では正式競技となります。
熱を帯びるeスポーツ市場。昨年に続き開催された異業種産官学のAMDシンポジウム「激闘eスポーツ!:世界をめざすプレイヤー戦略、市場を生み出すビジネス戦略」に登壇しました。
まず、ぼくが語ったことをかいつまみメモします。
2017年9月のこのシンポでぼくは、eスポーツは日本は途上国で、大きな課題が2つ立ちはだかっていると報告しました。
1.規制。消費者庁による景表法の大会賞金上限10万円という規制をクリアすること。
2.プロ化。3つある関連団体を統一して国際進出の道を開くこと。
2018年の2月、その3団体が解散、統合し、日本eスポーツ連合JeSUが発足。
消費者庁とも規制問題をクリアすることが整理され、日本でも大型の大会が開けるようになりました。
産業界が安心して資金・人材を投入できる環境が整いました。
その際2018年は日本のeスポーツ元年にしたいと申し上げましたが、それは実現しました。
多くの企業が大型の大会を開催し始め、Jリーグや日本野球機構(NPB)もリーグをスタート。
吉本興業が本格参入するなど異業種からの参入も相次いでいます。
eスポーツは映像ビジネスで、収益の4割はメディア+広告。
ネット配信以外にも、日テレ、フジ、TBSなどテレビ局が番組にし始めました。
毎日新聞は高校eスポーツ選手権をスタートさせ、プロを育てる専門学校も現れました。
大学でのクラブも盛んになってきました。
ビジネス+教育のピースが揃ってきたように見えます。
しかしアメリカなど先進国との差は大きい。
大学の取組だけを見ても、全米大学eスポーツ協会によれば米国とカナダではeスポーツプログラムを持つ大学が80校以上。
米ユタ大学はLoL参加チームに学費全額免除。
公立カリフォルニア大学アーバイン校は325㎡のゲーム用アリーナを設置しています。
慶應にはありません。
スゴいのは韓国の取組です。
政府・ソウル市が産官連携で作り上げた町、ソウル・デジタルメディアシティDMCにCJメディア社が韓国最大のeSports専用スタジアムを設置しています。
650席の会場は毎日、試合が組まれ、ケーブルやネットで中継。
ソウル市が運営している、自治体の仕事です。
(と大井川茨城県知事に向かって。)
その建物に韓国政府コンテンツ振興院KOCCAが1552m²のeスポーツ展示館を作りました。
アーカイブや体験コーナーなどを設けています。
日本は住田事務局長のもとぼくも参加して作った政府「知財計画2018」にeスポーツを盛り上げることを記載したばかりですが、韓国は政府が直接事業を行っているのです。
(と住田知財事務局長に向かって。)
今後の課題は・環境整備と人材育成。
まず産業基盤となる環境の整備です。
オリンピック正式種目化と正式参加を進めるため、JOCにも認知してもらうべくスポーツ庁などにも働きかけて機運を盛り上げる必要があります。
メディア事業としての基盤も整えていく必要があります。
自分のやっているプロジェクトだけ紹介しておくと、ぼくは4K8K高精細のパブリックビューイング会場を全国整備するプロジェクトを進めています。
2020五輪はみんなで大画面に参加して騒ぐライブ型を定着させる。
そこにeスポーツも乗せたい。
港区竹芝にコンテンツとデジタル、ポップとテックの融合した特区を建設中。
ポップ・テック特区CiPと呼び、2020年に街開きするクールジャパン拠点です。
そうした場を産学連携で提供し、ソウルのDMCのような拠点にしていきたい。
そして人材育成。
慶應ががんばれよって話ですが、それより学校作ったほうが早い。
そこで大学を新設する計画を進めています。
「i大」という名前の、ITビジネス専門の大学、2020年に東京にオープンさせ、竹芝CiPにサテライトを置いて学長に就きます。
i大はITの大学なので最初からeスポーツに注力したい。
eスポーツ推薦枠を設けて奨学金をつけて、プロとオリンピアンを育てたい。
スターを生むことが大事。藤井聡太さんのようなスターを生みたい。
わかりやすいアイコンを得ることが大事です。
さて、パネルでは、大井川茨城県知事が今年の茨城国体でeスポーツ大会を開き、4月に各県内予選、10月に決勝戦を行うと表明。
国体が市場を広げる見通しを示しました。
経産省、マイクロソフト、シスコ、ドワンゴという経歴を持つ知事らしい見立てです。
「とはいえeスポーツはスポーツなのかという疑問があることも事実」(大井川知事)。
ようやく始まったが、まだこれから、です。
日本eスポーツ連合JeSU浜村弘一副理事長は、JeSUがIPホルダーの協力という世界に類を見ない体制でスタートし、プロのライセンスを既に119名に出したと言います。
eスポーツの認知度が17年9月の14%から昨年3月には35%に上昇し、人気も高まってきたとのこと。
eスポーツ選手を育てるSun-Gence梅崎伸幸CEOは、視聴者数が250万人まで増えてきた日本は未開のブルーオーシャンであり、海外がチームを買収にかかっている状況を伝えました。
日本は後進国であったがゆえに成長スピードが高く、有望な市場と見られているようです。
ゲーム選手の板橋ザンギエフさんは「プレイヤーにとって、オリンピックはウェルカム」と言います。
ただ、大リーグやNBAの選手がオリンピックを重視しない傾向を問う夏野さんに対する浜村さんの反応は「eスポーツはオリンピックの陸上よりアメフトに近く、エンタメビジネス的です。」
オリンピック路線で行くのか?プロレス路線で行くのか?
梅崎CEOは「その両方を狙う」と言います。
浜村さんは「eスポーツは多様であり、種目によって分かれるだろう」と。
ぼくもeスポーツは高校野球からプロまで一気に作ろうとする段階にあり、両にらみで行くんだろうと考えます。
国体で正式採用となれば「ウイイレが体育の授業になるかも」(夏野さん)。
大井川知事が「N高のサッカー部はウイイレのチームであり、その選手がアジア大会で金メダルを取った」とさすが元ドワンゴという解説を返しました。
教育との融和、eスポーツにとって重要課題です。
板橋選手「eスポーツの多くは反射神経より経験値が大事なので、それを活かそう。」
それは耳寄りです。高齢社会に適したeスポーツは日本にとって有望です。
経験を積んだシニアも活躍できる、裾野の広い市場を作ることが大事です。
ぼくも質問に答えました。
事業の広がりは?
「スポーツ事業・ゲーム事業。メディア・広告事業。ライブ・イベント事業。
それだけではありません。
PCなど機材製造もあれば、IKEAはeスポーツ専用の家具を作っているし、アディダスは専用ウェアを作っています。
コーチング教育、チームビルド企業研修、インバウンド観光。
裾野は広い。」
政府への期待?
「ゲームは民間主導です。放っといてください。
と言いたいところですが、韓国の戦略を見るとそうも言えません。
逆に、あれこれお願いしたい。
JOC/IOC対策を文科省・スポーツ庁に。クールジャパン支援を経産省に。5Gなど基盤整備を総務省にお願いしたい。
シニア対策は厚労省に、聖地化は観光庁に。
警察庁と消費者庁とも仲良くしたい。
でも縦割りは困りますんで、以上、知財本部様、よろしく。」
清水建設の井上社長、大和証券の松下副社長など、多彩な顔ぶれで開かれたシンポジウム。
eスポーツの広がりと期待感を共有しました。
昨年のシンポは「取り残された日本の挑戦」がサブタイトルで、どうなるどうするeスポーツという空気でしたが、まさに一変。
この盛り上がりを続けたく存じます。
参考
「政財界トップが「eスポーツ」で激闘する時代なのだ = AMDシンポジウム2018レポ」
「“日本esports元年”からつぎのステージに向けた選手・行政・企業の取り組みとは? AMDシンポジウム2018リポート」
編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2019年1月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。