厚労省はなぜ勤労統計のサンプルが増えたことを隠したのか

2019年01月26日 12:00

このVlogだけでは意味がわからないと思うので、補足しておく。2004年に厚労省が毎月勤労統計調査のサンプルを減らしたことが国会でも問題になっているが、これは間違いである。このときサンプル数は増えたのだ。これは特別監察委員会の報告書の次の記述でわかる。

[担当係長は]「2004年からこれまでの集計方法をやめることとしたが、それだけだと都道府県の負担が増えてしまうので、その調整という意味でも(東京都の規模500人以上の事業所に限り)抽出調査とすることとしたように思う。」旨述べている。[…]

これまでの集計方法とは、規模30人以上499人以下の事業所のうち、抽出されるべきサンプル数の多い地域・産業について、一定の抽出率で指定した調査対象事業所の中から、半分の事業所を調査対象から外すことで、実質的に抽出率を半分にし、その代わりに調査対象となった事業所を集計するときには、抽出すべきサンプル数の多い地域・産業についてその事業所が2つあったものとみなして集計する方式であり、全体のサンプル数が限られている中、全体の統計の精度を向上させようとしたものである。

非常にわかりにくいが、こういうことだ:2003年まで勤労統計のうち中小企業は抽出調査だったが、その調査の負担が大きいので、対象企業を半分に間引いてサンプルを減らしていた。これを2004年から本来の抽出率に戻したが、これによって都道府県の負担が増えるので、東京都の大企業のサンプルを減らした。

毎月勤労統計を調査する自治体や対象企業の負担は大きい。厚労省のデータによれば、調査対象は(特別調査を除いて)全国で約190万社。サンプルは約3万3000社もある。調査票は企業が手書きで記入して郵送することになっており、従業員29人以下の企業は調査員が出向いて記入させる(!)。こんな非効率な方法で毎月調査したら、膨大な負担が発生する。

日本の企業の99%は中小企業である。2003年まで中小企業を半分に間引いていたとすると、サンプル数は1万5000社ぐらいだろう。2004年からこれを3万社に増やし、その代わり東京の大企業のサンプルを約1400社から約1000社減らしたとしても、大企業と中小企業を合計したサンプル数は1万社以上増える。

抽出率は産業ごとに違うので一概にはいえないが、2004年からサンプルが大幅に増えたことは間違いなく、特別監察委員会も認めたように統計的安定性は向上した。だから去年6月から厚労省は、神奈川県・愛知県・大阪府も抽出調査に変えようとしたのだ(のちに撤回)。ではなぜ2004年に厚労省は、この変更を総務省に報告しなかったのだろうか?

ここから先は私の推測だが、厚労省は2003年まで「半分の事業所を調査対象から外す」という操作を行っていた。これは調査計画に反するので、総務省に報告するわけには行かない。それを改善したことをいわないで、東京都の大企業のサンプルを減らすことだけを統計委員会で審議すると、「手抜きだ」と批判されると思って隠したのではないか。

だとすると問題は、2003年まで行われていた中小企業の間引きがいつ始まったのかである。これは報告書には書いてないが、統計法違反の疑いがあるので、かなり昔に遡って幹部まで責任を取らされる可能性がある。そこで2004年以降の違反に限って今の幹部が責任を取り、泥をかぶったのではないか。

この仮説が当たっているかどうかはわからないが、2003年までどうやって調査していたのかは、第三者委員会で追及する必要がある。これを機に手書きでやっている統計調査をウェブで直接記入する方式に変え、COBOLのレガシーシステムを廃棄してオープンシステムに変えれば、雨降って地固まるかもしれない。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 学術博士(慶應義塾大学)

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