勤労統計の賃金上振れは「アベノミクス偽装」ではない

2019年01月31日 16:00

国会で毎月勤労統計についての審議が続いているが、政局がらみの話ばかりだ。データの誤りが2004年からなのに2018年のサンプル変更ばかり追及しているのは、民主党政権にも責任がある時期を避けているのだろう。欠陥の原因を追及しないで、それを是正したことを問題にしても意味がない。

朝日新聞によれば、野党が2018年のサンプル変更前の事業所に限って実質賃金を計算したところ、「増減率は8カ月で厚労省の発表より下がった」という。これを「アベノミクスの成果の偽装だ」と野党は騒いでいるが、そんなことはありえない。

朝日新聞デジタルより

図でもわかるように、明らかにおかしな数字が出たのは2018年6月だが、特別監察委員会の報告書によると、これを7月の統計委員会で追及されたとき「政策統括官Jは、東京都における規模500人以上の事業所について全数調査でなく抽出調査により実施していたこと、さらに復元という適切な統計処理がなされていなかったことを認識していなかった」ので説明できなかったという。

これは政策統括官が2003年から何度も出ている「東京都の大企業は抽出調査とする」という事務連絡を知らなかったことを意味するので疑問があるが、キャリアの実務についての認識はその程度かもしれない。もし彼がシステムの欠陥を知っていたら、こんな異常な数字をそのまま出さなかっただろう。

厚労省は当時これを「ローテーション・サンプリング」に変更したための異常値だと考えたので、親切にそれまでのサンプル(共通事業所)による「参考値」を出し、民間エコノミストはこっちを使った(野党の計算も共通事業所によるもの)。全数調査だったらサンプリングで数値が変わるはずはないのだが…

実際には2017年10月にシステムを更新してサンプルを入れ替えたとき、抽出率の逆数をかける復元を初めてやったために上振れが起こったのだが、厚労省は気づかなかった。これは統計委員会で日銀や民間委員が「元の処理システムがおかしかったのではないか」と粘り強く追及し、厚労省がソースコードを見て初めてわかったと思われる。

しかも厚労省は14年間にわたるデータの誤りに気づいたあとも、12月の統計委員会で西村委員長に「法令違反だ」と追及されるまで、問題を隠蔽しようとした。これが予算案を年明けに修正する前代未聞のドタバタになった原因だ。もし安倍政権が意図的にやったのなら、もっとうまくやるだろう。

したがって2018年の賃金上振れは、アベノミクスとは無関係である。そもそもこんな細かい統計処理に、政権が介入できるはずがない。むしろ深刻な問題は、統計委員会で追及されなかったら、誰もこの欠陥に気づかなかったことだ。政局がらみの騒ぎにする前に、統計処理システムのダブルチェックを徹底する対策を考えたほうがいい。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 学術博士(慶應義塾大学)

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