ホンダの英国工場撤退の衝撃

思った以上に大きなニュースになっているのがホンダの英国工場撤退の発表でした。テレビなどではこぞってトップニュース扱いになっていますし、今後も続報がいろいろ出てくるかと思います。ホンダは英国のEU離脱とは無関係と言っていますが、間接的にはトリガーとなった可能性は否定できないでしょう。同社はあわせてトルコの工場の閉鎖も打ち出しています。

今回の発表にはいくつかの切り口がありそうです。一つはただでさえ揺れる英国内の経済界や労働界からの声。一つにはホンダそのものの経営、最後に自動車産業経営の行方でしょうか。

英国は世界の名車を多く輩出してきた伝統国であり、自動車へのプライドは特段高いものがあります。ロールスロイスやマクラーレン、ローバー、ジャガーなど誰でも一度は名前を聞いたことがある方も多いでしょう。ただ、それら名門会社もロールスロイスは自動車というより航空機のエンジンに活力を見出し、マクラーレンは高級スポーツカーに特化し、ローバー、ジャガーはインドなどに売却されています。

英国の自動車工場はジャガー ランドローバー(JLR)の工場の規模が全部合わせれば最大になりますが、単体では日産のサンダーランド工場が44万台以上の生産能力を持ち、圧倒しています。今回発表したホンダのスィンドン工場は工場単体の規模としては4番目に位置し、ただでさえ将来を見据えられない英国の一般労働者を中心に連鎖反応を含めた懸念が広がっていることと察します。

英国離脱の行方がもう少しはっきりする3月29日まであと1カ月強となった今、なぜ、このタイミングで工場閉鎖を発表しなくてはいけなかったのか、このあたりにホンダの経営方針との兼ね合いがあったのでしょうか?

ホンダは海外生産型経営をしており、日本からの輸出台数、比率は他社に比べ極端に少ない自動車会社であります。ただし、4輪車工場の場所は割と偏りがあり、日本以外では北米3か国、および中国が主力となります。欧州では英国工場を閉めると生産拠点はなくなり、ラインアップからすれば中国あたりからか、EUとFTAのあるカナダからの輸出もありかと思います。

閉鎖の理由は欧州での販売力が弱いの一言だと思います。ドイツメーカーなど競合がひしめく中でホンダを際立たせることができなかったのだろうと思います。

同社は自動車メーカーの連合、連携化が進む中で基本的に独立独歩を進めています。最近GMと自動運転部門で提携を結びましたが部分提携はしても全面提携はしない方針を貫いています。その中でトヨタですら自動車業界の将来を見通せない中でホンダの経営が効率主義という名の縮小均衡を目指しているように見えなくもありません。小さくまとまる、ということでしょうか?

一方、記者会見で八郷隆弘社長が「欧州での電動化への対応を鑑みて、欧州での生産は競争力の観点から難しいと判断した」(日経)とあります。これは自動車作りの根本フレームが変わりつつある中で今までの仕組みをガラガラポンするための布石と考えれば5年、10年後を見据え、新たな自動車づくりをするための先手を打ちやすくする方策と考えらえなくもありません。

ところでブルームバーグにカナダメーカーが生産する「ソロ」という一人乗り電動自動車が大きく売れ、GMが閉鎖予定のカナダ、オシャワ工場救済の可能性も、と報じています。この車はたまたま近くの住民が乗っていることもあり、2年ぐらい前から目にしていましたが、奇妙なスタイルながらも価格は170万円程度。同社社長が「4万5000ドルや10万ドル、25万ドルの車を生産するのは素晴らしいことだが、大衆車としてはいかがなものか。ガソリンを使わずにすむ1万5000ドルの車こそクリエイティブだ」と発言しています。

ホンダを含め、自動車メーカーはこのような小さな、しかし想像力たくましい会社と戦わねばならない時代に突入したということでしょう。新たな戦国時代に突入した自動車業界で生き残る方策は大資本、連携、独創性、はたまた政治力など実に難しくなったと言えそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年2月20日の記事より転載させていただきました。