「竹島の日」に日本海の危険な兆候を憂う

2019年02月22日 06:01

自衛隊統合幕僚監部の発表(防衛省HP報道資料31.2.15)によると、今月の15日にロシアの大型爆撃機(Tu-95)2機が日本海を南下して能登沖まで進出し、その後北海道最北端の稚内沖までわが国領空の西側を舐めるように北上した。同じく、この日は太平洋においても同型の爆撃機2機が、北方四島の国後島から太平洋を南下して北海道襟裳沖から房総半島沖を経て四国沖までわが国の領空東側を飛行した。

航空自衛隊が撮影したTu-95爆撃機(統合幕僚監部サイトより:編集部)

このような、ロシア空軍の爆撃機によるわが国領空付近での示威行動は、取りたてて珍しいことではない。過去にもロシアは、わが国との間で政治的ないざこざが起こった時や、クリミア半島併合に関連してわが国が欧米に同調して経済制裁を表明した時など、折に触れてこのような軍事的示威行動を実施してきている。また、このような軍事活動が政治的意図を持った示威行動であることをロシア側があえて公表する場合もある。

今回のロシア爆撃機による示威行動の主たる目的は、わが国との北方領土問題に関わる交渉が行われている過程において、「我々は決して妥協しない」というロシア側の意志を軍事的な形で体現することにあったものと考えられる。恐らく、今後も交渉の節目などにおいて、同様の軍事活動が行われるであろう。

しかし、何よりも今回の示威行動において注目しなければならないのは、その飛行形態から今までのような単純な示威行動とは全く異なる「危険な兆候」が現れているということである。これは、今後わが国の安全保障上極めて重要でセンシティヴな問題を含んでいると考えられることから、この軍事的シグナルの意味するところをしっかり読み解かなければならない。そして、これを読み解く鍵はこの日のロシア機の日本海における飛行にある。

2月15日のロシア機行動概要(統合幕僚監部サイトより:編集部)

この日、極東の母基地を飛び立ったと推定されるロシア空軍の大型爆撃機(Tu-95)2機は、ウラジオストック付近から朝鮮半島東方沖に日本海を南下し、韓国鬱陵島北方から東に針路を変えて竹島北方から能登半島沖に進出したと見られる。航空自衛隊のレーダーサイトでこれらの航跡を探知したのは竹島北東の地点であるから。それまでの経路はあくまで筆者の推測である。問題は、この竹島北東で探知した航跡が4機であり、大型爆撃機2機に加えてロシアの最新鋭戦闘機(Su-35)2機がエスコート(援護任務)で随伴していたということである。

航空自衛隊が撮影したSu-35戦闘機(統合幕僚監部サイトより:編集部)

日本海をここまで南下する爆撃機にエスコート・ファイター(援護戦闘機)が随伴することは、今までに殆ど例がなかったことである。この後も、爆撃機の北上に伴い、佐渡島北方の空域において新たに出現した同型戦闘機(Su-35)2機がエスコートを交代し、稚内沖から沿海州方面へ離脱するまで爆撃機に随伴していた。このような飛行パターンは初めてではないかと思われる。

日本海能登沖の空域までロシア機が南下すると、ロシアの地上レーダー・サイトの覆域外となることから、恐らく日本海の中部空域でロシア空軍の早期警戒管制機(AWACS)が空中哨戒してエスコート・ファイター(Su-35)の管制支援を行っていたのではないかと推測する。

つまり、この一連の活動は、戦略爆撃部隊による単体の活動ではなく、空軍が組織的に計画して実行した示威行動であるということを意味する。即ち、単なるデモンストレーションではなく、かなり実戦的な軍事活動だということである。

これを裏付けるように、航空自衛隊のスクランブル機による写真撮影から、爆撃機の外部には爆弾やミサイルの搭載は確認されなかったものの、戦闘機には空対空ミサイル(AAM)や電子戦(ECM)ポッドと思しきものが搭載されていることが確認される。

因みに、米空軍も「航行の自由」作戦と併行して、南シナ海や東シナ海などへ向けて戦略爆撃機(B-1)を飛行させることがあるが、これはあくまで爆撃機単体で実施されており、デモンストレーション的に行われている。なぜならば、エスコート・ファイターを随伴させることはエスカレーション・ラダーを上げることに繋がり、動きの速い空の世界では、挑発的行為が偶発事案を惹起し、一気に緊張が高まる恐れがあることから、無用な摩擦を避けようという思惑によるものである。

爆撃機のみが領空に接近するのと、これに戦闘機が随伴しているのとでは、その緊張度において格段の差がある。なぜならば、爆撃機のみで飛行している場合と異なり、航空自衛隊の戦闘機が容易に接近できなくなるからである。

例えば、爆撃機が領空に接近してきた場合は、通常なら無線による通警告を行い、さらに領空侵犯した場合には機体信号や信号(警告)射撃という手段を用いて領空から退去させるかまたは強制着陸させる手段を行使することになる。実際、航空自衛隊は、昭和62年12月に沖縄県領空を侵犯したロシアの爆撃機に対して信号射撃を行ったことがある。しかし、今回のように戦闘機が随伴している場合には、爆撃機がわが国領空に侵入してきた際に、爆撃機の側方または前方で機体信号や信号射撃を実施することは、後方からエスコート・ファイターによる攻撃を受ける可能性があることから、その対応が極めて困難になるのである。

今回、このような特異な示威行動がわが国のメディアによって大きく報道されていないのは何故なのだろう。日露首脳が領土問題を解決して平和条約交渉を進めようと努力している時期に、かかる威圧的な軍事行動を実施することがいかに交渉を阻害するか、国際社会へ向けて敢然とアピールすべきだったのではないだろうか。

さらに問題は、今回のロシア機が飛行した経路である。最初にこの4機編隊を確認したのは竹島北東であり、これらの編隊はさらに能登沖へと南東進してわが国に接近した。そして、まさにその眼下に広がる能登沖の海域こそが、先般韓国海軍火器管制レーダー照射事案が発生した、日韓双方が排他的経済水域(EEZ)としている「問題の海域」なのである。

実は、ロシアによるこの布石はあったと筆者は考えている。というのも、日本と韓国がレーダー照射事案で「やった、やらない」と批難合戦がヒートアップしていた時期の1月17日、ロシア海軍の哨戒機(Il-38)がこの「問題の海域」周辺を哨戒飛行していた(防衛省HP報道資料31.1.17)。この哨戒飛行の目的は不明ながら、海上自衛隊のP-1哨戒機と同様に、この周辺海域で活動する艦艇などの識別や行動の確認などを実施していたものと見られる。

つまり、ロシアはこの「問題の海域」における日韓の「揉め事」に関与し始めたと受け止められるのである。そして、この関与を誘引したのが現在の日韓関係だということに我々は気付かなければならない。

そして、もう一つ。この「問題の海域」への関与を窺わせる軍事活動があった。ロシアの爆撃機などによる示威行動が行われた同じ日に、中国の戦闘艦艇3隻(ミサイル駆逐艦ルヤンⅢ118、フリゲート艦ジャンカイⅡ547、同598:いずれも北海艦隊所属)が対馬海上を北上して日本海に入った(防衛省HP報道資料31.2.17)のである。その後の活動は不明ながら、必ずやこの「問題の海域」付近を航行するであろうと筆者は推測している。これらは、一体何を意味するのであろう。

昨年12月24日に掲載された拙稿「韓国海軍によるレーダー照射は敵意のあらわれ」の中で筆者は、「日韓の緊張は北朝鮮や中国を利することになる」と指摘した。残念ながら、今回はこれに新たにロシアを付け加えなければならない。「問題の海域」とは、本をただせば「竹島」という領土問題に端を発する日韓の対立が生み出した「海域」なのである。中国やロシアは「彼らが韓国に与(くみ)することの意味」を軍事的行動によってわが国に知らしめようとしているのではないか。

韓国もそれを承知で強気に出ている節がある。今後も、日韓関係が険悪になればなるほど、彼らはこれを煽って北朝鮮とともに韓国を取り込もうとするに違いない。それによって、これを阻止しようとする日米の狭間で日本海は益々「きな臭く」なることが予想され、結果的にわが国は安全保障上、極めて厳しい立場に追い込まれて行くことが懸念される。

2月27日にはベトナムで米朝首脳会談が開催される。この結果を受けてわが国は、改めて「東アジアにおける立ち位置」を見直す必要があろう。アゴラでおなじみの宇山卓栄氏が2月20日の記事「韓国国会議長の無礼発言、ナメたら日本がヤケドする」で提言されたように、わが国は憲法改正を含めて国防体系を抜本的に見直す時期に来ているのだと痛切に感じる。

少なくとも、「朝鮮半島における『完全で検証可能かつ不可逆的な非核化(CVID)』が実現しない場合は、わが国も核保有を選択肢として排除しない」程度のスタンスを採るべきではないのか。そもそも筆者は、文在寅大統領もトランプ大統領もこのCVIDを本気で実現しようとしている点について、とうしても懐疑的に思わざるを得ないのである。

今日「竹島の日」に改めて国の将来を憂うるものである。

鈴木 衛士(すずき えいじ)
1960年京都府京都市生まれ。83年に大学を卒業後、陸上自衛隊に2等陸士として入隊する。2年後に離隊するも85年に幹部候補生として航空自衛隊に再入隊。3等空尉に任官後は約30年にわたり情報幹部として航空自衛隊の各部隊や防衛省航空幕僚監部、防衛省情報本部などで勤務。防衛のみならず大規模災害や国際平和協力活動等に関わる情報の収集や分析にあたる。北朝鮮の弾道ミサイル発射事案や東日本大震災、自衛隊のイラク派遣など数々の重大事案において第一線で活躍。2015年に空将補で退官。著書に『北朝鮮は「悪」じゃない』(幻冬舎ルネッサンス)。

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