英与党・人権委員会「中国の孔子学院は深刻な脅威」

英与党・保守党の「人権委員会」は今月18日、同国内にある中国の「孔子学院」について、「中国共産党政権のプロパガンダ機関(中国共産党統一戦線部の出先機関)であり、学問の自由と表現の自由の脅威となっている」と指摘、「孔子学院」と英国内の研究機関との間で交わされた全ての合意内容について再考を求める19頁に及ぶ報告書を公表した。英国与党が「孔子学院」問題を議会で追及するのは今回が初めてのことだ。

英国与党保守党「人権委員会」発行の中国の「孔子学院」調査レポート(2019年2月18日)

同報告書では、中国共産党プロパガンダ責任者の李長春 (第17期中央政治局常務委員)が2007年、「孔子学院は中国海外プロパガンダ機関である」と述べたこと、共産党文部省幹部の徐琳「孔子学院」事務局長が2010年、「孔子学院はわが国の影響を世界に拡大するための重要なソフトパワーの一部」と語ったことを紹介し、「世界で『孔子学院』を閉鎖する大学が広がっている」と指摘し、少なくとも27の大学や学校で「孔子学院」との協力関係を破棄しているという。

例えば、ストックホルム大学、コペンハーゲン・ビジネス・スクール、シュトゥットガルト・メディア大学、ホーエンハイム大学、リヨン大学、シカゴ大学、ペンシルバニア大学、ミシガン大学、 マックマスター大学、トロント・スクールボード 、ノースカロライナ州立大学、イリノイ大学、テキサスA&M大学などで既に閉鎖、ないしはその方向に進んでいる。

中国共産党政権は欧州では動物園へパンダを贈る一方、「孔子学院」の拡大を主要戦略としている。「孔子学院」は2004年、海外の大学や教育機関と提携し、中国語や中国文化の普及、中国との友好関係醸成を目的とした公的機関だが、実際は一種の情報機関だ。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)のクリストファー・ヒュース教授は、「孔子学院は中国当局の宣伝機関だ」と断言するなど、欧州知識人の間では「孔子学院」の拡大に懸念の声が高まってきている(「『孔子学院』は中国対外宣伝機関」2013年9月26日参考)。

問題は、「孔子学院」では検閲が行われ、自由な討論が制限されていることだ。特に、3つのテーマ、「天安門広場虐殺事件」、「チベット」そして「台湾問題」はタブーとなっている。同時に、「孔子学院」のカリキュラムは独立性、包括的、全体的な視野に欠けているという。また、「孔子学院」で働く職員が中国共産党の方針に批判的な場合、差別されるなどの迫害を受けていることも懸念という。

保守党人権委員会は過去、「孔子学院」の調査を開始し、学者や元外交官、人権活動家たちなどから多くの証言を集めてきた。同時に、孔子の名で発表された文献を調査し、専門家たちのパネル討論会なども実施した。今回公表した報告書はそれらの調査結果であり、人権委員会が行ってきている「中国の人権問題」、「強制臓器移植問題」などに続くものだ。

人権委員会は報告書の最後に、10項目の勧告を発表し、「英国の大学、研究機関は『孔子学院』に関する調査が完了するまで更なる連携を停止するように助言する」と記述している。

「人権委員会」委員長のフィオナ・ブルース議員( Fiona Bruce )は「われわれは言語学習や文化交流の促進は大歓迎するが、『孔子学院』が学問の自由、表現の自由、基本的な人権、そして国家の安全を脅かしているかを評定する必要がある」と指摘し、「われわれが入手した証拠は『孔子学院』が英国の大学や研究機関に大きな影響を与えていることを証明しており、深刻な懸念がある」と述べている。

なお、海外中国メディア「大紀元」によると、世界に525の「孔子学院」があり、英国には29カ所あるという(エディンバラ、リバプール、マンチェスター、ニューキャッスル、ノッティンガム、カーディフ、ロンドンカレッジなど主要大学に設置されている)。そのほか、高校には148の孔子課堂(クラス)がある。中国共産党政権はイメージアップのため、海外で「孔子学院」を積極的に展開し、2020年までに世界で1000の開校を予定しているという。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年2月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。