「札仙広福」政令市比較 〜 広島市の将来像を展望する(中)

画像はWikipediaより:編集部作成

広島市政を目指して安佐南区から挑戦予定のむくぎ太一(椋木太一)です。

「札仙広福」政令市比較 〜 広島市の将来像を展望するの第2回です。前回は、「札仙広福」のうち、今や「地方都市最強」の呼び声高い福岡市と、私、椋木の地元・広島市を、交通インフラを中心に比較してきました。

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今回は、行政や観光などソフト面を比較し、福岡市が飛躍した要因と広島市の課題等をあぶり出していこうと思います。

福岡市行政の特徴に、市長の発信力の高さが挙げられます。福岡市の高島宗一郎市長は、地元福岡の民放アナウンサー出身の44歳。2010年11月に市長に初当選し、現在3期目となっています。私が読売新聞記者時代、福岡市政を担当しました。

その時、取材を通じて感じたことは、高島市長の言葉には、必ずと言っていいほど、「見出しになる言葉」が入っていることです。今風に言い換えれば、「キャッチーな言葉」で記者の心をつかみ、ニュースとして取り上げられやすくしているのです。そこはさすが、民放アナ出身者だなと感心させられることが多々ありました。

高島氏ツイッターより:編集部

首長による定例記者会見はたいてい、どこの自治体でも行われているものですが、よほど目新しいトピックがなければニュースとして住民に届きません。高島市長のキャッチーな言葉は紙面に乗り、はたまた電波に乗り、多くの住民に届くのです。福岡市政に対する注目度は上がり、市職員のモチベーションもおのずと高まります。

そうなれば、ニュースになりやすい最先端の政策をばんばん提案するという雰囲気ができ、部署間や職員同士での競争意識も出てきます。こうしたことから、「日本初」「政令市初」といった新たな取り組みが次から次へと飛び出し、イケイケの福岡市が形作られていくのです。自ら考え、切磋琢磨し、全体が底上げされるという民間的な発想が支えているといえるでしょう。

一方、お世辞にも広島市は広報活動が積極的だとは思えません。私が広島市に戻って来てから半年以上がたちますが、地元紙でも定例会見が紙面を大きく飾ることはまれです。報じないというより、新聞業界的に表現すれば「見出しが立たない」のだと思います。官僚出身の市長ですので、地道な仕事ぶりなのだと思いますが、そのことが住民に届いていないとなると、実にもったいないことだと思います。これでは、なかなか市職員のテンションも上がらないのではないかなと心配してしまいます。

次に「県民性」を見てみましょう。あくまで、県域全体をとらえての印象になってしまいますが、広島市民は全体的に「熱しやすく、冷めやすい」とされています。そうしたことから、新商品の市場調査で、広島市が試験場になることが多いようです。つまり、冷めやすい性格の住民たちにも売れ続けることが、商品化へのゴーサインとなるのです。

広島東洋カープにしても、Bクラスに低迷していた時代には「連勝しているときは客入りがいいが、負けだすととたんにガラガラになる」なんて言われていました。

他方、福岡市民は、やはり「祭り好き」でしょう。博多どんたくが代表的です。そして、びっくりするほどの「負けず嫌い」。平然と東京、大阪と張り合っていきます。一丸となって、トップを目指す。現在のイケイケの福岡市は必然なのでしょう。

写真AC:編集部

ここまで見ると、実に分の悪い広島市ですが、「札仙広福」だけでなく、どの政令市も持ちえない宝を持っています。唯一の被爆国の中で長崎市とともに、被爆地であるという歴史的事実です。恒久平和を全人類に発信できる都市なのです。

その象徴が「原爆ドーム」であり、平和公園です。この地には、海外からも多くの観光客が訪れます。中でも、欧米人の多さに特徴があります。大きなリュックサックのバックパッカーたちが平和公園のいたるところにいて、平和を祈願していくのです。2016年5月にオバマ大統領(当時)が広島を訪れて以降、特にこの傾向は強まっていると言います。

広島市ではありませんが、近隣の宮島(厳島神社)にも多くの外国人が訪れます。広島市内にずっと暮らしていると、その価値を忘れがちなのですが、グローバルな視点で見ると、世界的な遺産が近場にあることは大きなアドバンテージだと思います。

他方、福岡市ですが、実のところ観光名所はそれほどありません。東京などから友人が福岡市に遊びに来た際、いざ出かけようとすると頭を悩ますことが多かった記憶があります。ただ、食べ物のクオリティーが高いため、出張者の満足度は高いのは間違いありません。それはあくまで、「夜の部」の話なのです。

福岡市を拠点に、熊本や大分の温泉に入ったり、鹿児島に足を延ばすといったことが多いようです。ですから、天神や博多駅周辺では大型ホテルの建設ラッシュに沸いています。いまさら、観光地を作ることはムダだと認識しているのです。

おぼろげながら、広島市の将来像が見えてきたような気がします。

(下)へ続く。

むくぎ(椋木)太一  ジャーナリスト、元読売新聞記者
1975年、広島市生まれ。早稲田大学卒業後、出版社勤務などを経て2006年、読売新聞西部本社に入社。運動部記者時代はソフトバンクホークスを担当し、社会部では福岡市政などを取材した。2018年8月に退職し、フリーランスに。2019年4月の広島市議選(安佐南区)に立候補予定。公式サイトツイッター@mukugi_taichi1