安倍首相が金正恩に何を与えられるかが焦点になる

八幡 和郎

ホワイトハウスFBより:編集部

米朝首脳会談の決裂だが、①金正恩に決断をするだけの権力がなかった②金正恩とその一族の安全をトランプには保証できない、という2点がポイントと思う。

どうして、甘い見通しをもって金正恩がハノイへ出てきたかだが、それは、トランプが金正恩がドタキャンして気が変わらないように、期待を持たせたのだろう。マスコミがトランプは外交で得点を稼がねばならないから安直な妥協をするのが心配だと囃し立てたが、それをトランプ側はあえて放置した。

会談はテタテ(二者会談を意味するフランス語)で始まったが、ここで、トランプは一気に「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)を約束することと引き替えに、2国間の平和宣言や連絡事務所の設置、金剛山や開城に限定した制裁解除などを約束したのではないか。

そして、金正恩はそれを肯定的にとらえて機嫌良く側近を交えた会談をすませたはずだ。ところが、宿舎に帰ったあと、団員と相談した金正恩は寧辺(ニョンビョン)の核関連施設の廃棄だけですべての国連の経済制裁を解除を求めることにした(本当の意味でのすべてでなくとも北の要求は実質上の解除放棄である)。欲が出たのか、部下から「軍などがそれではおさまらない」といわれたのかは分からない。

しかし、そんなものを持ち出したことでトランプの顔色が変わった。しまったと金正恩は思ったかもしれないが、こういうときに、「すみません。わかりました」といえたものでない。

トランプは、今回の話し合いで金正恩と最終合意に達するのは無理だと悟って、頑なな態度で、「私のいうとおりしますといえる準備ができないようだね」と冷たく言い放って会談は決裂したはずだ。

朝鮮中央通信、官邸サイト:編集部

トランプは、安倍首相とも綿密に打ち合わせたはずだ。前回の轍を踏まないように、安倍首相も約束してもいいこととダメなことを分かりやすく解説しているだろう。

今回の金正恩の失敗の一つは、トランプと安倍のあいだにくさびを打ち込めるとおもったことだ。だから、安倍首相に対する非難を繰り返していた。そうしたとき、これまでの総理なら慌てるが、安倍首相はそんなことでジタバタしない。

おそらく、金正恩にしてもその“代理人”たる文在寅も安倍抜きで朝鮮半島を動かすのは難しいことを思い知ったのではないか。それが分かると変わり身の早い民族だから、いまからしばらく、安倍首相を懐柔してトランプと折り合いを付けようという方向での動きがしばらく盛んになると思う。

そうなると、日本側は南北朝鮮が少し擦り寄ってきたときに、代償を与えられるかどうかが問われる。とくに北に対してどうなのか。私は金正恩を守る守護神に安倍首相がなるくらいのつもりなら、さまざまな交渉はうまくいくのでないかと思う。そのときに、プーチンと安倍首相の良い関係なども生かせるはずだ。