OYO(オヨ)のビジネスモデルは本当に「型破り」なのか?

高幡 和也

インド発のホテル運営会社OYO(オヨ)がヤフーと合弁会社を設立し、日本で賃貸住宅ビジネスに参入する。OYO LIFE(オヨ ライフ)というブランド名でスタートするこのサービスは、スマホひとつで入居から退去までが簡単に手続きでき、礼金や敷金はもちろん仲介手数料も不要で、さらには家具・家電付き、光熱費も賃料(共益費)に含まれるという。

OYO LIFE Japanツイッターより:編集部

賃貸物件の入居者の立場から見るとまさに「至れり尽くせり」だ。

今のところ同社のサービスは本格的に始まっているわけではないので、その詳細については評価できる段階にないが、ただ、同社のプレスリリース(2019年2月20日付)や東洋経済オンラインの記事(2019年3月10日付『インドから上陸「不動産業界のアマゾン」の正体』)などをみると、同社の基本的なビジネスモデルは、既存の賃貸物件を借り上げて転貸する「サブリース」であることが分かる。

たしかにサブリースならOYO LIFEが貸主となり、借主と直接契約すれば仲介手数料が発生しないのは当然だし、貸室の月額賃料を市場より高めに設定したり、退室時の清掃費用を予め領収すれば礼金や敷金などの金銭的担保の徴収(預かり)も省ける。

なにより物件の借り上げにより自らが貸主となったOYO LIFEが入居募集業務や契約業務を直に行えば、面倒で煩雑な「宅建業法」の適用を受けなくて済むのである。

ここまでを見て正直な感想をいうと、「スマホを使って」というフレーズ以外、このビジネススキームは既存のサブリースビジネスと変わり映えしない。

名称や詳細は控えるが、昨今、サブリースの問題点などが浮き彫りとなった一連の騒動も記憶に新しい。あのサブリース事業者も「礼ゼロ敷ゼロ、仲介手数料ゼロ、家具家電付き」を売りにしていた。

つまり、OYO LIFEの一連のビジネススキームを「型破りだ」と言われるとなかなか同意しきれないのである。「スマホひとつで入退去手続可能」とは、言い換えれば、単に「現地を確認せずに賃貸契約を結ぶ」ことであり、「退去の連絡をスマホで行う」だけのことだ。

しかし、OYO LIFEの取り組みが日本社会に根付いている「賃貸住宅に対する概念」について、変化や再考を促すきっかけになることは歓迎すべきだろう。

例えば、国内外のホテルを予約するとき、賃貸住宅を借りるときのようにわざわざ「下見」に行ったり、部屋を事前に「内見」したりしない。ホテルの予約なら自宅のパソコンやスマホで予約から精算までもが可能だ。住宅に求めるクオリティに対する個人差(どうしても現物を確認したい等)もあるが、この仕組みがそのまま賃貸住宅に用いられれば、これまでかなりの労力を要していた賃貸物件探し及び入居手続きがかなり楽になるのは間違いない。

さらに、「スマホひとつで賃貸物件の入退去手続可能」というフレーズは、不動産業界のみならず、民泊を含む旅館・ホテル業界においても少なからず影響を与えるだろう。

これまで、法や商慣習により規制されていた商取引が、時代ニーズやイノベーションによって多様な商取引を生んでいくことは常に必要だ。

しかし同時に、商取引の変革期には「新形態の商取引がもつ脆弱性」についても大きな警鐘を鳴らしていくことも肝要である。

例えば今回、OYO LIFEが行うサブリースは先述のとおり「宅建業法」が適用されない。つまり、取引において様々な規制や義務を課せられた「宅建業者」はそこに存在しないのだ。

さらに、通常の賃貸借契約(普通型・定期型問わず)には旅館業法も、住宅宿泊事業法(民泊新法)も適用されることはない。

様々な規制緩和は歓迎すべきだが、同時に、トラブル発生時の公的なガイドラインや最低限の法整備については「個人 対 事業者」という商取引の構図があるかぎり、どの業態でも求められるはずだ。

いずれにせよ、ひとつの概念に対する再考の是非や、規制緩和の要・不要が論じられなければパラダイムシフトは起こりえない。

OYO LIFEのビジネスモデルが「既存のサブリースビジネスの延長線に位置するもの」なのか、それとも「パラダイムシフトを起こすイノベーションたるもの」なのか、しばらくは注目していきたい。

高幡 和也
宅地建物取引士 プロフィール