ジュゴンの死と“天然記念物級”鳩山ルーピーの情報操作

秋月 涼佑

国の天然記念物で絶滅危惧種のジュゴンの死骸が、18日沖縄の縄県今帰仁村の沖合で見つかったとのこと。もちろん、誰もが残念に思うニュースだ。

しかしこの話、鳩山由紀夫元首相の20日のツイッターからまたまた珍騒動に発展した。

ジュゴンの死と、辺野古の埋め立ての因果関係を 速攻で断定する工学博士

鳩山由紀夫氏は、東京大学工学部計数工学科卒業、スタンフォード大学博士課程修了とのこと。氏は工学部で、透視術か何かを研究していたのだろうか。詳しい生態さえ解明されていない中で、どう考えても現時点で、ジュゴンの死と辺野古の埋め立てとの因果関係など分かるわけがない。

まず、辺野古と死骸の見つかった今帰仁村の沖合が地理的に離れている。辺野古に餌場の一つがあったとの話もあるが、それでもジュゴンの死と因果関係があるかの解明は簡単ではないだろう。そもそも辺野古の埋め立てよりはるか前から、沖縄のジュゴンの絶滅は危惧されてきたわけで、すでに三頭が確認されるのみだったとのこと。状況からは、辺野古の埋め立てに関係なく現在の沖縄近海はジュゴンが生き残るには厳しい環境であったことが分かる。

まして世界的にジュゴンの絶滅は心配されているわけだから、辺野古埋め立て以外の何らかの要因が主にジュゴンの死に影響していると考えるのが合理的だ。逆に言えば、仮に辺野古埋め立てを中止したところで、ジュゴンを絶滅から救う秘策にはならなかろう。

こういうのを典型的な「確証バイアス」と言うのではないだろうか。要は、自分の仮説に都合良く出来事を解釈する”思考の偏り”のことだ。いやいや、そんなかっこ良いものでさえないかもしれない。

笑点の大喜利よろしく、「“沖縄”“ジュゴンの死”と掛けてなんと解く?」、鳩山“邸”由紀夫「ハイ!」と威勢よく手をあげ、「“辺野古の埋め立て”と解きます」、司会の春風亭昇太さんが「で、どうしてだい?」と尋ねると。「とにかく“辺野古の埋め立て”が気に入らないからでございます!」オイオイ、全然おあとがよろしくないっての、座布団全部とっちまえ。

科学的な思考ができないのか、確信犯なのか。 どっちにしても元総理大臣の発言として残念極まりない

まあ今更、宇宙人とも言われる鳩山氏の言葉であるから誰もまともには取り合ってはいないかもしれない。とは言え、痛ましい動物の様と無関係のメッセージを強引に結び付けてアピールする手法は禁じ手だろう。湾岸戦争の際、油まみれの水鳥の衝撃映像が情報操作に利用されたとも言われている。確信犯とすれば、誰もが繊細な気分で接する動物の死やケガを利用して自説への情報操作を試みるのは、性根が汚すぎる。

「ルーピー」まさに的確な表現。

総理大臣時代の鳩山氏に「ルーピー」と国会でヤジを浴びせたのは丸川珠代氏だ。まさに、憲政史に残るクリーンヒットと言うべきであろう。「ルーピー(Loopy)」は読んで字のごとく、Loop(輪)からきている言葉だろうが、グルグル何をしたいのか意味不明な鳩山氏にピッタリな言葉であった。ワシントンポスト記事での鳩山評にインスパイア―されたようだが、さすがテレ朝時代にニューヨーク支局勤務の経験もあるという丸川氏、他に何とも表現が難しい鳩山氏のトンチンカンぶりを示すこれ以上に的確なニュアンスの言葉は、他に思いあたらない。

鳩山さん、ジュゴンも喜ぶ普天間の移転を実現できる 立場に唯一いたのは、他ならぬあなたなのでは?

そもそも辺野古の埋め立てからして、鳩山氏自身による普天間基地の移設についての「国外、少なくとも県外」というできもしない約束からの歴史的な大失敗に端を発するものだ。辺野古は、氏の空手形により、沖縄の人々や在日米軍との大きく傷ついた信頼関係を修復するために、曲がりなりにも現政権が必死に取り組む現実的な打開策ではあるのだ。危険な普天間を安全な場所に移設し、しかもジュゴンも喜ぶ画期的な施策がもしあったとしたら、実現する機会を総理大臣という最高のかたちで与えられたのは、鳩山氏その人に他ならいのである。何をかいわんやである。

それにしてもルーピーの面目躍如。こんな短いつぶやきにさえ、壊滅的な科学的思考の欠如もしくは確信犯的汚い情報操作、自己矛盾や欺瞞のエッセンスを込めるとは。魔術的な幻惑力ではある。

秋月 涼佑(あきづき りょうすけ)
大手広告代理店で外資系クライアント等を担当。現在、独立してブランドプロデューサーとして活動中。