ベネズエラ:マドゥロ政権の命運を握るキューバ、さらに背後には…

ブラジルのエルネスト・アラウージョ外相は2月にワシントンを訪問した際に「キューバ政府の支援がなかったならば、ニコラス・マドゥロはもう既に政権を放棄していたはずだ」と記者会見の席で指摘し、更に「キューバはマドゥロに政権を維持させるという(我々にとって)不運な役目を担っている。将来、この問題にも触れるべきだ」と述べた。即ち、マドゥロの政治判断にキューバの存在が多大に影響しているということなのである。(参照:lavanguardia.com

マドゥロ大統領とキューバのラウル・カストロ前議長(caraotadigital.netより引用)

現在までベネズエラから1000人の軍人がコロンビアに脱出し,家族400人も同行しているという。36万5000人から成るベネズエラ軍の規模から見れば、脱出した兵士の数は微少である。しかし、その中でもチャベス前大統領の時から政府が最も信頼を寄せていた国家警備隊(GNB)から多くの脱出兵が出ているということにマドゥロは信頼を裏切られたという気持ちでいるようだ。脱出の一番の要因は、勿論、経済的な困窮からであるという。(参照:elheraldo.colibertaddigital.com

そこで、マドゥロの信頼は国家警備隊からキューバ軍の士官並びに警察の特殊部隊(FAES)、更に160万人とも言われている民間警備兵に移っているという。民間警備兵はチャベスが育成した組織で、それを構成しているのは特別に軍事訓練を受けたわけでもない市民でボリバル政権の親派である。その存在が価値あるのは160万人という数の多さで、彼らがチャベスそしてマドゥロを支持する親派となって市中で反政府派の動きに対抗しているのである。

キューバ軍がベネズエラで影響力を発揮するようになったのは、チャベスがキューバに接近したことが始まりであった。チャベスは社会主義の実現にキューバをお手本にした。そこで、チャベスはキューバから医師と軍人の派遣を要請したのである。

キューバの軍人の派遣を要請した理由は、ベネズエラ軍をチャベスに忠実な軍隊として育てる為で、それをキューバの士官によって養成させようとしたのである。最高時にはキューバから5万人の軍人がベネズエラに派遣されたという。

キューバから派遣された軍人はベネズエラ軍の養成と同時に諜報組織の発展にも貢献した。(参照:elnuevoherald.com

ところが、チャベスが亡くなると同時にキューバの軍人は鳴りを潜めるようになっていた。が、国家警備隊がマドゥロの信頼を失うようになると、彼はキューバの軍人を頼りにするようになり、ベネズエラ軍の司令部などにも駐在させるようにした。そして、彼らがベネズエラ軍に指令も出すレベルにまで発展させたのである。それは丁度ベネズエラ軍の内部で士官レベルでもマドゥロ政権への不満が増大していることと反比例するものである。

しかも、ベネズエラの諜報組織である内務司法省諜報局(SEBIN)と軍事諜報局(DIM)をマドゥロは統合させた国家安全保障戦略センター(CESPPA)から得た情報もキューバの軍人が掌握してベネズエラ政府の軍事面における中枢部を掌握するまでになっているという。そこで、政権に不満な軍人を摘発して拷問にかけることなども彼らが実行しているというわけである。

キューバがベネズエラの諜報活動を掌握するのが容易なのはキューバには元々グルポ・ドス(G2)という情報局が存在しているからである。G2は米国のCIAなどに匹敵する情報組織だという。その設立の目的は、当初キューバの組織内での外部への密告者などの摘発であったという。(caraotadigital.net

そのような事情から、マドゥロや大臣の一部の護衛はキューバの軍人が現在担当しているという。

その一方で、キューバがマドゥロ政権を守ろうとしている理由は明白だ。マドゥロ政権のベネズエラが倒壊すれば、キューバのGDPは10-15%落ち込むと推測されているからである。しかも、ベネズエラから特別安価な石油も手に入れることができなくなる。キューバの経済にとって深刻な問題に発展するからである。(参照:el-carabobeno.com

このような事情から冒頭で触れたように、マドゥロ政権におけるキューバ政府の影響力をブラジルのアラウージョ外相が指摘したのである。それを承知している米国政府はキューバに制裁を科そうとしているが、半世紀以上のキューバと米国の国交封鎖の影響もあってキューバ政府の指導層が米国に資金を預けているわけでもなく、商業取引も際立ったものがないため、制裁の対象として彼らの米国における資金の凍結や取引中断といった手段に訴える対象になるものがないのである。

更に、キューバの背後には特にロシアが積極的にベネズエラに支援の手を差し伸べている。ベネズエラの紛争の解決は容易ではない。