ベルサイユ、社長号…下世話なリークで日産は二度死ぬ

2019年04月12日 06:01

情報操作戦は、良くも悪くも検察・日産連合の圧勝

9日に鳴り物入りで公表されたゴーン氏の肉声ビデオだったが、具体性に欠けしかも予測範囲内の内容に終始しており、正直世間の認識を変えるようなインパクトに乏しかった。

一方で、引き続き毎日のように検察もしくは日産関係者のリークがネタ元と思われる、ゴーン氏の不正を印象づける報道は続いている。その内容は、怪文書的と言おうか下世話なほどに具体的である。一方のゴーン氏側は今後の裁判を見据え、メディアに対しての具体的な訴求は少なく、世間におけるゴーン氏不正の黒い心象形成は一方的に完成されつつあるように感じられる。

もしこの状況を情報操作戦ととらえれば、現状は検察・日産側の圧勝である。カミソリの異名をとる弘中氏を中心とする弁護団は情報操作の泥仕合を放棄し、あくまで裁判でのワンチャン勝負をかける基本スタンスであるように見受けられる。

一方の検察・日産側は、なかんずく特捜案件はリークによる世論誘導を常套手段とすると揶揄もされるが、今回は特に訴追の妥当性や拘留の長期化などに疑問の声が国内外に多かったこともあるのだろう。その正当性のアピールに躍起になっているようでもある。

今となっては、あまりに悪印象なベルサイユ宮殿での派手な結婚式

それにしてもベルサイユ宮殿である。ヨーロッパ絶対王政の絶頂期を代表する、人類の歴史上で最も象徴的な「奢侈」「贅沢」の館とも言える世界的アイコンである。太陽王ルイ14世により建造され、1789年のフランス革命ではルイ16世とマリー・アントワネットが民衆に捉えられパリに連行される舞台ともなった。

つまり、太陽に近づきすぎて翼が溶け墜落死したイカロスのごとく、人間の上昇志向と栄達、絶頂と傲慢、そしてその失墜までをベルサイユ宮殿は象徴してしまっているのである。

ベルサイユの城下町には、日産の欧州拠点がある。ベルサイユ宮殿の修復を日産が支援することは、その地元関係からも非常に自然であり、むしろ必ずしも強くない欧州市場へのコミットメントを表明する企業広報活動として非常に良い戦略であったように思われる。

その関係を生かして、当時日産CEOたるゴーン氏の豪華絢爛な結婚式が行なわれたとのこと。しかし今となっては、仮装パーティー風の装束を含めて、ゴーン氏夫妻の奢侈と享楽志向を象徴するかのような、あまりに悪印象なビジュアルとなってしまった。これは、ゲスな印象操作のためには絶好に訴求力のあるビジュアルではあった。

France 24より引用:編集部

この結婚式、そもそもはキャロル夫人の意向で企画されたとも言われている。しかし、この“夫人の意向”という点も印象が決して良くはないのである。フィリピンを追われたイメルダ・マルコス夫人は1000足以上高価な靴を所有していたことが、マルコス大統領自身の放埓とされた。

何よりまさにベルサイユ宮殿での、マリー・アントワネットが民衆の飢えについて語った「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」という発言は、実際には本人の言葉ではなかったとも言われているにも関わらず、革命で立ち上がった民衆の怒りの火に油を注ぎルイ夫妻の断頭台行きの運命を決めたのである。

つまり、世間の心象は配偶者の振る舞いを含めて非常に分かりやすい下世話な事象にこそ左右されやすい。

逆に言えば、今回の情報リークによる情緒扇動の手法の的を絞れていることには、舌を巻く他ない。性質としては、大組織の出世争いや派閥争いでまことしやかに発動される不倫や不正告発の紙爆弾や怪文書的ゲスな手法とも言える。

「社長号」「Shogun」「ビューティー・ヨット」…それにしても、香ばし過ぎるネーミングたち

それにしても、「社長号」「Shogun」「ビューティー・ヨット」と出るわ出るわ、香ばし過ぎるネーミングたち。ハリウッド映画の脚本家がゴードンゲッコー(映画「ウオール街」でマイケルダグラスが演じた強欲な投資家)を主人公に続編を書いたかのような、分かりやすく貪欲でダーティーな印象の言葉たち。

もともと今回の事件、「タックスヘイブン」「ペーパーカンパニー」「豪華ヨット」「プライベートジェット」「世界四か所の豪華住居」と「強欲」を象徴するかのようなキーワードで満載だったわけだが、ここにきてさらに豪華絢爛にピカレスク感を増した印象である。

突出した奢侈を嫌う、日本社会の機微をゴーン氏とて知らなかったわけではなかろうに

確かに、ゴーン氏に長年の絶対的権力の中での慢心が無かったとは言えないだろう。違法な行為があったかどうかは別としても、またゴーン氏が満足していたかどうかは別として、現実的に格段の高年俸をゴーン氏は得てはいたのである。

これはトップと平社員の収入差が比較的に小さい日本社会においては非常に突出したことであり、周囲にどういう印象を与えるか配慮が必要な状態であったことは間違いない。

実際に、日本人のサラリーマン経営者の多くは、十分な収入を得るようになっても課長時代程度の質素な生活を続ける人も非常に多い。彼らとてもう少しましな生活にアップデートしたいという本音はあるのだろうが、世間の目、特に社員の目を考えると、その質素さが結局身を守ることを熟知しているのだ。

田町の焼き鳥屋を普段使いしていた一面もあるゴーン氏のことである、そんな日本社会の機微を全く知らないわけもないはずなのだが。

これ以上の情報戦の先に、勝者はいない

とは言え、今回の検察・日産からの情報リークは質・量ともにちょっと異様なレベルではある。本来企業内で対処すべき案件を自ら公権に持ち込み、さらにゴーン氏から“陰謀”とまで指摘される日産現執行部側の後ろめたさのなせる業なのか。図らずも国際批判にさらされることになった捜査・拘留手法に対する検察側の焦りなのか。

いずれにせよ、彼らのゴーン氏を世紀の守銭奴にて不埒な輩にせずにはおかないという強い意思と強引さを感じさせる状況である。

ゴーン氏が有罪であるかどうかは、もはや裁判を待つ他ない。検察も現日産執行部も違法性への確信があるのならば、情報戦などしかけずに、粛々と公判の準備をすべきである。これ以上の情報リークは、何より醜悪過ぎる上に、日産という企業ブランドの価値を著しく棄損する。まして検察の感情的とも見える対応は、文明国としての日本の信認さえも脅かしはじめていると言える。

日産はかつて一度死んだ。自動車産業は極めて競争が厳しい世界である。世界のトップランナーは人類の英知を代表するようなレベルで進化した極めて優れた企業グループばかりであり、今この瞬間にも日々前に進んでいると考えるべきだ。

これ以上の情報戦の先に、恐らく勝者はいない。日産の将来に対する危機感が今回ゴーン氏を告発することの起点となったのであれば、今こそ全関係者で日産が負ったブランド価値の傷を癒すべく方向で取り組むべきである。

誰も、日産が二度死ぬ姿など見たくないのだから。

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秋月 涼佑(あきづき りょうすけ)
大手広告代理店で外資系クライアント等を担当。現在、独立してブランドプロデューサーとして活動中。

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秋月 涼佑
ブランドプロデューサー

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