北区長選:音喜多駿、壮絶に散る

2019年04月22日 01:00

東京・北区長選は21日投開票が行われ、現職の花川與惣太氏(85歳)に挑んだ前都議の音喜多駿氏(35歳)は得票率で10ポイント近い差をつけられ、初当選はならなかった(敗戦の弁の動画は筆者のペリスコープより)

全国の現職市区長で最高齢、この日が誕生日だった花川氏を支える組織の壁は非常に厚かった。一見無謀なチャレンジに思われたが、政界関係者によると、3月下旬の時点で行った情勢調査では、音喜多氏が10ポイント弱のリードをし、こうした水面下の情勢は考慮していたとみられる。花川氏は高齢多選の批判もあり、地方議員としては異例の多数のテレビ出演を重ね、知名度のある音喜多氏の勢いがどこまで切り込めるか、統一地方選後半戦の目玉選挙となった。

しかし、音喜多氏本人も誤算だったと認めるように、花川陣営の組織戦が想像以上の結束を見せた。花川氏は前回の区長選で、自民との関係がギクシャクし、推薦が出なかったが、今回、前都議の高木けい衆議院議員がブログで明らかにしているように、政策協定を締結。自民党としての推薦こそ出なかったが、高木氏や区議など北区内の自民党組織が地元レベルで推薦を出す形となり、全面支援。

さらには公明党を支援する創価学会の動きも強力だったようだ。音喜多陣営はおそらく各種の情勢調査などから公明党支持層が多少は割れる可能性に期待していたかもしれない。しかし、北区を含む衆議院の東京12区は、公明党の前代表、太田昭宏氏を選出する「学会の牙城」だ。選挙プロの話をこれまで聞いたところでは、情勢調査で公明票は実態よりやや低めに出ることもよくある。数字的な「トラップ」というのは言い過ぎかもしれないし、今回のケースに当てはまったのかわからないが、音喜多陣営は、もしかしたら、初動の票読みを誤った可能性がある。

また、社民党が推薦を出し、連合東京も支援するなど非共産のリベラル層も区長サイドに回った。ここまでくると、大阪ダブル選の「維新VS反維新」を彷彿とさせる構図。しかし、それでいて維新と比べるまでもなく、所帯が脆弱なスタートアップ新党の若き党首はたちまち「四面楚歌」に陥った。

敗報に天を仰ぐ音喜多氏

いずれにせよ、選挙戦の蓋を開けてみると、期日前投票の出口調査の結果では、花川氏が中盤までリード。ただ、音喜多氏もブログで率直に苦戦を認め、ネットで積極的な発信をしたことなどから、支持政党なしの層や若年層に選挙戦のことが浸透していったとみられ、終盤にかけて猛追したようには思われた。投票日昼過ぎ時点で、ある報道機関の出口調査では、音喜多氏がわずかにリードしており、組織票以外の区民に支えられた構図がうかがえた。

しかし蓋を開けてみれば、1万票以上の差をつけられる完敗。当確が出る2時間ほど前、選挙分析のプロ、JX通信社の米重克洋CEOが述べたように、ここ最近続いている「期日前をミックスした時の新人の逆転負け」の典型的なパターンになった。

自民、公明に加え、立憲民主、社民、労組など組織側を向こうに、組織票のない若き候補者が真っ向勝負。音喜多氏と知り合って6年になるが、確かに彼は組織票はない。しかし、一つだけこの選挙で認識を改めたことがあった。

選挙戦最終日の20日、JR赤羽駅前の街頭演説会を観に行った。そこでは組織がなくても、学生時代からの仲間たちをはじめ、仕事や子育ての傍ら続々とボランティアが何十人もかけつけていた。その演説会、応援弁士は格闘家の青木真也氏のような著名人もいたが、ほとんどの弁士は一般の会社員や子育て中のママなど。若い世代に令和の時代の舵取りを任せてほしいと訴える真摯なもので、大政党の組織とは異なる熱量があったように思えた。しかし、物量差は否めなかった。

選挙戦最終日、聴衆と触れ合う音喜多氏

ただ、前向きに考えると、行政未経験の若さで飛び込んだ先に待ち受ける罠を乗り越えられたのかリスクは回避できた部分もあろう。仮に勝利していたとしても、ほぼオール野党の区議会とどう対峙するかの問題はあった。さらには選挙中に早川忠孝さんが指摘したように、小池知事と対立したまま都議会をやめたことを考えると、都政との連携が不可欠なインフラ整備などの分野で、小池知事が非協力的になり、機能不全に陥る可能性も否めなかった。

川松都議が選挙中のブログで過激な改革派首長が挫折した事例を挙げていたが、ある自民党関係者は選挙中、「音喜多氏が当選したとしても早晩うまくいかなくなる」と自信たっぷりに指摘していた。支援者に対し、票の見返りとしての予算獲得のメンツがかかっている組織政党にとっては、何を切り込むかわからないブロガー議員が首長になるとなれば、あの手この手で引き摺り下ろしにかかってくるのは間違いなかった。

落選後、政治活動の継続の意向は示した音喜多氏。それなりの健闘とはいえ、本人の去就、結党したばかりの、あたらしい党の運営の今後も含め、今はまだわからない。ただ、一つだけ筆者があえてお節介ながら意見したいのは、選挙中に柳ヶ瀬都議が個人の判断で応援した維新との距離だ。

維新と組むこと自体は悪いことではないと思う。また維新も夏の参院選東京選挙区で候補者はまだ内定していないとみられるが(間違ってたら柳ヶ瀬さん、ごめんなさい)、知名度に勝る音喜多氏を担ごうという話が、今後、万が一、出たとしても、ここは一回休んで、充電期間にあてた方がいいのではないだろうか。この地上戦の経験を生かして既存政党とは異なるタイプの「組織」を作り、政策を磨いていくのは一つの方向性かもしれない。

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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