イランの核合意停止は中東を戦火に

2019年05月16日 11:30

イランのロウハニ大統領は8日、2015年に締結した核合意が遵守されていないとして、核合意の一部停止、ウラン濃縮関連活動の再開を表明した。トランプ米政権は同日、イランに対し追加制裁の実施を警告したことから、米国とイラン間だけではなく、イスラエル、サウジアラビアなどを加えた中東地域で武力衝突の危険性が再び高まってきた。

国内外の圧力を受けるロウハニ大統領(2019年5月11日、イラン大統領府公式サイトから)

英、仏、独の3国と欧州連合(EU)の外相は9日、そして13日にはポンぺオ米国務長官を加えてイランの核問題への対応について話し合った。イラン側に核合意の堅持を要求する一方、事態の悪化を避けるために関係国が慎重に対応することで一致したが、具体策は明らかではない。

核協議はイランと米英仏中露の国連安保理常任理事国にドイツが参加してウィーンで協議が続けられ、2015年7月、イランと6カ国は包括的共同行動計画(JCPOA)で合意が実現した。イラン核合意は13年間の外交交渉の成果として評価された。

核合意の内容は、

①イランは濃縮ウラン活動を25年間制限し、国際原子力機関(IAEA)の監視下に置く。遠心分離機数は1万9000基から約6000基に減少させ、ウラン濃縮度は3・67%までとする(核兵器用には90%のウラン濃縮が必要)

②濃縮済みウラン量を15年間で1万キロから300キロに減少

③ウラン濃縮活動は既にあるナタンツ濃縮施設で実施し、アラークの重水製造施設は核兵器用のプルトニウムが製造出来ないように変え、フォルド濃縮関連施設は核研究開発センターとする

④イランがその合意内容を守れば、経済制裁を段階的に解消し、違反した場合、経済制裁を再度導入する、といった内容だ。

イラン核合意を検証するIAEAはこれまで「イランは核合意を順守し、不法な核関連活動はない」と定期理事会で報告してきた。

しかし、トランプ政権が発足し、トランプ大統領が昨年5月、「イラン核合意は不十分であり、イランの核開発を阻止できない上、テヘランは国際テロを支援している」として、核合意から離脱を宣言、同時に対イラン制裁を再開した。

米国の核合意離脱表明後、イランは、「EUを含む欧州3国がイランの利益を守るならば核合意を維持するが、それが難しい場合、わが国は核開発計画を再開する」と主張し、関係国に圧力をかけてきた。トランプ政権は8日、イランの鉄、アルミニウム、銅の各分野を制裁対象に加える大統領令を出したばかりだ。

イラン核合意を堅持したい英仏独は米国のイラン制裁で被る損害を可能な限り補填する「特別目的事業体」(SPV)を設立し、イランに投資する西側企業を支援する政策を実行してきたが、米国企業との取引を懸念する西側企業はイラン市場から撤退。イランから原油輸入は今年に入ってまったくない。

イランの国民経済は一段と厳しくなってきた。米政府の制裁再発動を受け、通貨リアルは米ドルに対し、その価値を半減する一方、国内ではロウハニ政権への批判だけではなく、精神的指導者ハメネイ師への批判まで飛び出すなど、ホメイニ師主導のイラン革命(1979年)以来、同国は最大の危機に陥っている。イラン国営通信IRNAによると、ロウハ二大統領は11日、国家の各分野の指導者を集め、結束を呼び掛けているほどだ。

イラン精鋭部隊「革命防衛隊」は米国に対抗するため中東の原油運輸の主要ルート、ホルムズ海峡のボイコットを示唆し、海峡周辺で対艦ミサイルを発射するなど強硬姿勢を崩していない。国防、外交を統括するイラン最高安全保障委員会は、「イラン側の要求が今後60日以内に満たされなければ、ウラン濃縮や重水貯蔵量に関する制限を遵守しない」と警告している。

戦争は関係国の「戦争宣言」で始まるということはない。関係国の一部の暴動、暴発が大きな紛争、戦争へと拡大するケースが多い。サウジアラビアの主要な原油パイプラインが14日、爆弾を搭載したドローンの攻撃を受けた。現地からの情報によると、イランの支援を受けるイスラム教シーア派のイエメン反政府勢力「フーシ派」の仕業と受け取られている。

ポンぺオ国務長官は14日、ロシアの南部ソチでラブロフ外相と会談後の記者会見で、「米国はイランとの戦争を願っていない」と強調。一方、イランの最高指導者ハメネイ師も同日、国営テレビで「イランは米国と戦争する考えはないが、米国との交渉は毒だ」と述べ、抵抗を続けていく意向を明らかにしている。参考までに、ニューヨーク・タイムズ紙は14日、「トランプ政権は12万人の兵力を中東地域に派遣する計画」と報じたが、トランプ大統領は否定している。

イランはシリア、イエメン、レバノンで軍事支援してきたことは周知の事実だ。ここにきて懸念されるのは、パレスチナ内のジハードだ。イスラエルとパレスチナのガザ地区を統治しているハマスは停戦で合意したが、イランから支援を受けるパレスチナのイスラム聖戦(PIJ)が停戦合意を破り、イスラエルにロケット砲を打ち込むシナリオだ。

イスラエルのテルアビブで14日から18日まで、ユーロビジョン・ソングコンテストが開催中だ。イスラエルがハマスとの停戦に応じたのは、同コンテスト開催中の停戦が不可欠だったからだ。ハマスもコンテスト中にイスラエルにロケット砲を発射すれば、イスラエル軍は総攻撃を始め、ハマスの壊滅を試みるだろう。ガザ地区の統治を失いたくないハマスはイスラエルとの停戦に応じざるを得なかったわけだ。もちろん、エジプト側からの説得工作もあっただろう。

危険要因はハマスとイスラエル側の停戦合意に関与しないPIJの動向だ。ガザ地区から700発以上のロケット砲が停戦前にイスラエル領土に打ちこまれたが、イランがパレスチナのジハードに武器を供給していたからだ。イラン側から武力支援を受けたパレスチナのPIJがユーロビジョン・ソングコンテスト開催中にテルアビブにロケット砲を打ち込めば、イスラエル側の猛烈な反撃が予想される。中東地域は今、イランの核合意停止表明を受け、非常に危険な時を迎えている。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年5月16日の記事に一部加筆。

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