セブン・イレブンの7 payはnanacoの進化形でしかない

有地 浩

セブン・イレブンが、7月からQRコード決済の7payを始める。同時にPayPay、LINE Pay、メルペイのほか、中国系のAlipayとWeChat Payもセブン・イレブンで使えるようになる。

セブンイレブン社サイトより:編集部

これまで大手コンビニチェーンでありながら、セブン・イレブンではQRコード決済ができなかったが、これでファミリーマートやローソン並みになる。

セブン・イレブン・ジャパンのニュース・リリースによれば、「2019年10月を目途に外部加盟店への利用拡大や、2020年春以降にはセブン&アイグループ各社のアプリとの連携も予定」とのことなので、いよいよセブン・イレブンもPayPay、LINE Payなど多数の企業が鎬を削るQRコード決済市場に参入するように見える。しかし、私はそうではないと見ている。

もし7 payがPayPay、d払い、LINE Payなどと競争をするとなると、新規利用者獲得のための高率のポイント還元キャンペーンなどに莫大な費用が掛かる一方、加盟店獲得の面でも、手数料の一定期間無料化、人海戦術での営業、LINE Payとメルペイの加盟店相互開放といった他のネットワークとの連携など、半端ない経営資源の投入が必要となる。セブン・イレブンの店舗がいくら全国に約2万1000店あると言っても、現状でもLINE Payの加盟店数とは何倍もの隔たりがあるし、今後LINE PayやPayPayなどが競い合いながら加盟店を増やしていく中で、中途半端な取り組みではこの差は開くばかりだろう。

こうした状況を頭に置いて上記のニュース・リリースを読むと、セブン・イレブンが腰を据えてQRコード決済市場に参入しようとしている姿は見えてこない。むしろセブン・イレブン・ジャパンも、今更戦国時代のQRコード決済市場に入るのは無理があると判断した上で、決済以外の面でQRコードの利用価値を見出そうとしているように思われる。このニュース・リリースで「グループのアプリ・CRM戦略(顧客管理)を推進すべく…」と言っているのは、まさにこうした考えの表明であり、nanacoを進化させた7 payで顧客の囲い込みを一層高度化すると宣言しているのだ。

現状nanacoは、プラスチックのカード形式のものが多いが、これがスマホ・アプリの形式の7 payになれば、セブン・イレブンから利用者のスマホに様々なキャンペーン情報や広告を送信することが出来るようになり、より高度なCRM(顧客管理)が可能となる。

この意味でセブン・イレブンは賢明な判断をしている。しかし一方で、顧客の側から見た場合、QRコード決済の取り扱いを始める以上は、顧客の利便性向上にも配慮してもらいたいと思うのは当然だろう。

例えば、将来的にはすべてのQRコード決済に対応するのかもしれないが、7月の時点でセブン・イレブンでは、PayPay、 LINE Pay、メルペイ、Alipay、We Chat Payしか取り扱われず、楽天ペイ、d払い、Origami Payなどは使えない。これでは幅広い種類のQRコード決済ができるローソンに比べて不便だ。

次に、やや細かい話になるが、大手コンビニでは、セブン・イレブンはnanacoポイント、ファミリーマートはTポイント、ローソンはPontaポイントと一種のすみ分けができているため、セブン・イレブンでPayPay支払いをする場合に、ファミリーマートでPayPay支払いをするときのようにPayPayの還元ポイントと同時にTポイントを受け取ることはできない。

その分PayPayやLINE Pay等をメインの支払手段としている人たちにとって、セブン・イレブンで決済をする魅力が欠けることは否めない。

CRM(顧客管理)は大切だが、nanacoを進化させるだけでなく、顧客がQRコード決済によって、一層の利便性とお得感が得られるような工夫も必要だ。

有地 浩(ありち ひろし)株式会社日本決済情報センター顧問、人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)
岡山県倉敷市出身。東京大学法学部を経て1975年大蔵省(現、財務省)入省。その後、官費留学生としてフランス国立行政学院(ENA)留学。財務省大臣官房審議官、世界銀行グループの国際金融公社東京駐在特別代表などを歴任し、2008年退官。 輸出入・港湾関連情報処理センター株式会社専務取締役、株式会社日本決済情報センター代表取締役社長を経て、2018年6月より同社顧問。著書に「フランス人の流儀」(大修館)(共著)。人間経済科学研究所サイト