田口淳之介さん、あなたがすべきことは土下座ではない

昨日6月7日は田口淳之介さんが保釈されるらしいな…と思ってはおりましたが、まさかの土下座!
これにはショックを受けました。今後こんなパフォーマンスが常識とならないことを心から願います。

NHKニュースより:編集部

また、一般の方々に、土下座や丸刈りそういった精神論が、依存症に効果があるいといった、誤解が社会に広まらないで欲しいです。

第一、ファンの方が一番あんな姿を見たくないでしょうし、芸能界に復帰するのにあたっても、あの強烈な印象が国民に焼き付いてしまったことは、かえってマイナスじゃないでしょうか?

そもそも依存症者もしくは、アルコール・薬物・ギャンブルなどで問題を抱えている人間は、経験から言って、簡単に土下座します。
多くのギャン妻たちは、夫から土下座されて「頼む!この借金だけなんとかしてくれ!」と、泣きつかれた経験がありますし、アルコールや薬物なら「今度こそ絶対に止めます!」なんて言いながら土下座されています。
これはなんとかこの場を乗り切りたい!という強い気持ちの表れです。

第一、土下座とか丸刈りなんていう派手な謝罪のあり方の根底にあるのは、
「絶対に許して欲しい」「少しでも自分の有利にことを運びたい」「誠意があると信じて貰いたい」
という自分勝手な強引な感情ですよね。
そんなことをされて罪悪感をもたらされる、相手の感情などはお構いなしな訳ですからね。
我々のような依存症者に本当に必要な謝罪とは、そういう相手の感情を揺さぶろうとする計算ではなく、誠実な心からの「埋め合わせ」です。

つまり相手が許そうが許すまいがそこは受け入れ、それよりも迷惑をかけた人達に、借りた金を少しでも返すとか、きちんと治療に向き合うとか、悪い人間関係を断ち切るとか、必要なのはそういう具体的な「行動」なんです。

土下座、丸刈り、念書、誓約書そんな精神論は何の役にも立ちません。
私も、夫に土下座もされたし、念書も書いて貰いました。
けれどもそれでは止まらず、結局「自助グループ行く」という行動の結果依存が止まったんです。
土下座なんて簡単な誰でもすぐにできることで、依存行動が止まるなら我々こんなに苦労していません。

そもそも依存症は自尊感情と深く結び付いていますから、自分の自尊心がさがってしまうようなことはしないにこしたことはないのです。
自分を大事にできないと、平気でアルコール・薬物・ギャンブルにハマってしまいます。
自分を大事にしよう!と思うからこそ、自分に有害な依存行為から抜け出すことができるんですよね。

田口さん、あなたが今すべきことは土下座ではありません。
まずは治療に向き合うことです。その準備はされていますか?
ピエール瀧さんの情状証人にも立たれた、松本俊彦先生に是非コンタクトをとってみて下さい。
きっと力になってくれると思います。

それから私が思うに、あなたにとって最大の課題は、恋人との関係だと思います。
土下座などより、あなたにとってよほど大変な決断になるはずです。
お二人で回復を目指されるのなら、尚のこと外部の支援は必要です。
そして回復のセオリーとして、お二人でやり直すにしても、一度は別居するべきだと思います。

・二人は果たして健康的な結びつきだったのだろうか?
・大麻が取り持っていただけではないだろうか?
・二人でいるとまた再使用への欲求が湧きあがってこないか?

などなど、田口さんが本当に覚悟を持ってプログラムに正直に向き合うためには、1人でこのような課題に向き合うべきだと思うんですね。
こういう薬物繋がりだったカップルは、共依存関係にあったり、また弱味を握りあうことになりますから、足の引っ張り合いをしていたりします。
2~3年くらい別居していると、自分たちの関係が不適切だったと見えてくる場合がありますから、もしその時点で「病的な繋がりだったなぁ」と思うようでしたら、その時はきっぱりとお別れしましょう。双方のためです。

また、今回の土下座騒動で感じたのは、この田口さんを担当する弁護士さんに、依存症の知識がないんだろうな・・・ということです。
もし、依存症のことをご存知でしたら、土下座なんて絶対にさせるはずありません。
芸能人の方に伺うと、皆さん保釈時の謝罪について弁護士さんと打合せするようですからね。

芸能関係者の皆様には、タレントさんが薬物で捕まった時には、絶対に薬物問題に詳しい弁護士さんに依頼しましょう。
これは大げさではなくその後の人生がかかってきます。
どうか誠実に薬物からの回復を願い、回復ルートに繋げられる弁護士さんをつけてあげて下さい。
私たちにご連絡頂ければ、いくらでもご紹介いたします。

最後に田口さんにどうしてもお伝えしたい事があります。
田口さんはこれから先、沢山の困難が待ち受けていることでしょう。
でもあなたは一人じゃないし、助けてくれる人達もいます。

プライドが邪魔をするかもしれませんが、今は薬物問題に関わっている人達のコミュニティに繋がってくるべきだと思います。
「こんな奴らと一緒にされたくない!」
最初は誰しもがそう思います。けれども今あなたの一番の味方になってくれるのは、あなたが「こんな奴ら」と思っている、同じ経験をした人達なのです。
このコミュニティは、あなたに対するどんなバッシングからも守ってくれるはずです。

どうかプライドを捨て、心から安心できる場に身を置き、堂々と前を向き、仲間達に癒されながら回復に向き合って下さい。
そして誇り高き回復者となって下さい。

今日からがあなたの正直さと誠実さが試される日となるはずです。
「自分では止められなかった」と現実を受け入れ、心を開いてくれることを願っています。


田中 紀子
公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表
国立精神・神経医療センター 薬物依存研究部 研究生
競艇・カジノにはまったギャンブル依存症当事者であり、祖父、父、夫がギャンブル依存症という三代目ギャン妻(ギャンブラーの妻)です。 著書:「三代目ギャン妻の物語」(高文研)「ギャンブル依存症」(角川新書)「ギャンブル依存症問題を考える会」公式サイト