レベルアップした日米関係:トランプ大統領国賓訪日

松川 るい

1週間前に大体書いたものですが、男性の育休義務化議連立ち上げなどで忙しく中断してしまいました。読み直したけれど、そんなに問題ないと思うので、また、放置したままにならないうちにアップしておきます。古いところがあったらごめんなさい。

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はや6月ということで、なんだか既に大分前のような気がしてしまうが、5月26日から28日の日程でトランプ大統領が訪日し、12時間もの時間を安倍総理と過ごして帰国した。

天皇皇后両陛下との謁見に加え、ゴルフ外交、相撲外交、居酒屋外交、「かが」乗船と充実した日程で、内外に、日本と米国の首脳の間には信頼関係があり、日米同盟が強固であるということを、これ以上ないぐらい明確に示した訪日だったと言って良い。

官邸サイトより:編集部

折しも、先週末は世界のハイレベル安保担当閣僚が集まるシャングリラ・ダイアローグもあったので、「かが」乗船などはカレンダーも読んだ上での素晴らしい内容だったと思う。

が、私が日米関係がもう一つ新しい段階に入ったなと感じたのは、イラン問題の対応である。イラン問題について状況を打開するため安倍総理がイラン訪問をすることについては、日本外交もここまできたかと感慨深い。内容が余り明らかではないので、一概には言えないが、一時期の米英の関係にも似たパートナーシップと独自性の融合のような関係に日米関係はレベルアップしたような感を覚える。

おもてなし外交が過ぎるとか、貿易での密約疑惑など批判もあるようだが、日本を取り巻く国際環境(特に、米中冷戦)と日本自身がおかれている状況についての認識が甘いのじゃないか。日本一国で日本を守ることはできない。というか、この世界に1国だけで自国を防衛することができる国など殆どない(米中ロ印イスラエルぐらい)。そして、米中覇権争いは深刻なものであり決着がつくまで結構長く続く。

日米同盟が強固であり、日米両首脳間に信頼関係があることは、現下の日本外交の最大のアセット(資産)でありレバレッジ(梃)だ。

日中関係は確かに改善しておりそれは喜ばしいことだし、これまた安倍外交の成果といってよいと思うが、それが可能になったのは米中関係が悪くなったために反射的に日本が利益を得ている面が相当ある。

別に南シナ海における中国のアグレッシブな行動が変わったわけでもければ、尖閣諸島に対する野心が変わったわけでもない。むしろ、尖閣諸島をめぐっては中国公船が57日も連続してやってくるなどプレッシャーは順調に増している。引き続き安全保障上の最大の脅威であることに変わりない。

朝鮮半島についても、北朝鮮は不透明な情勢であり、日韓関係は最悪である。直近で言えば、G20議長国として采配を振るう必要もある。欧州も英国のブレグジットから諸国内で第三局の台頭など不透明な情勢にある上、イランやパリ協定やNATOに対する米国の態度などで、欧州主要国も対米関係は必ずしも良好とはいえない。

そのような流動的な国際情勢にあって、日米関係が強固であり、安倍総理がトランプ大統領と信頼関係にあり、もっと言えば、トランプ大統領は安倍総理の言うことに耳を傾けるのだ、そして、結構言い分を聞くのだと、思われることは、対中でも対北朝鮮でも対韓国でも、日本のポジションを向上させているし、対欧州でも対イランでも日本の価値を高めている。日本に一目置き、日本をテコにして何とかアメリカに対処しようということも考える。

実際、世界の首脳を見回してみても、まともにトランプ大統領と話せるのは安倍総理だけなのである。これは、日本の外交に大きなレバレッジをもたらしている。

「かが」に乗船した両首脳(官邸サイトより:編集部)

日米両首脳の「かが」乗船で一番ショックを受けたのは中国だろう。対北朝鮮でも良かった。トランプ訪日後にシャングリラ・ダイアローグがあることも見越して日程を組んだのだろうか。ちゃんとカレンダーを見て外交をする政権は本当に安心できる。

対照的なのがムンジェイン大統領である。全く、トランプ大統領に相手にされていない、つまり、ムンジェイン大統領を通じて何か米国にお願いしても、ムンジェイン大統領がそういうのだったら聞いてあげよう、とトランプ大統領が思うという関係になく、外交的レバレッジがない状況である。

米国に対するレバレッジを持たないことが、そのまま、北朝鮮からも「韓国は使えない」と足元を見られることになっているし、中国からも、韓国は圧力をかければこちらになびくだろうと思われることになっている。

実際、韓国は、米中双方の顔色を窺いファーウェイについての態度を決めかねているが、米中冷戦の深刻さをわかっているのだろうか。ファーウェイは、米国にとっては経済問題ではない、これは覇権、生存戦略に関わる問題だ。トランプ大統領が訪韓するのももしかしたら、ファーウェイはじめ中国に関する態度につき物申したいということなのかもしれない。

確かに韓国経済における半導体や携帯関連産業は大きいので気持ちはわかるが、米韓同盟が揺らぐことは、韓国が中、露、北朝鮮という非情な国の間にあって、独りぼっちで自国を守ろうという徒手空拳にならないかと懸念する。そこに日本との関係は最悪ときているる。とはいえ、日本にとっては、韓国に対しては、本来言うべきことを全部言い、なすべきことをなすチャンスともいえる。かつてなら韓国に対して配慮せよという力が日本国内でも働いたと思うが、今ならそのような圧力は国内にない。

唯一というわけではないかもしれないが、米国にべったりで大丈夫か、米国の戦略に無理やり巻き込まれるのではないか、といういわゆる「巻き込まれ」に対する懸念は正当な指摘だと思う。これは、明確なポジションを取る場合に常に付きまとう危険だ。けれど、私には、米中の覇権争いは、明確にポジションも決めずに上手く両者の間を立ち回ることができるほど緩やかなものではないと思うし、また、イランに対する対応やTPP11を日本独自で米国を置いて作ったこと、日米同盟とインド太平洋戦略にコミットしながら対中関係を改善してきたことなど、日本外交は、米国との信頼関係を維持しながら独自性のある外交を展開できるように成熟してきたように思う。

そして、畢竟、最終的にどのような世界になれば良いと思っているのか、ということなのだろうと思う。河合正弘教授によれば、2050年においても、中国は米国・EUという西側所得の経済規模を上回ることはできない、中国は日本に対して領土的野心があるが米国はない、米国は自由民主主義国だが中国はそうではない(集団エリート指導体制の下の監視国家)。

このことを考えても、日本にとっては、米国が覇権を持つ世界の方が日本にとって住みやすい世界であるように思う。