小泉進次郎と丸山穂高の「おまいう」合戦

新田 哲史

さる6日、衆議院が丸山穂高衆議院議員に対する糾弾決議を「出席議員」の全会一致で可決した。「出席議員」と注記したのは丸山氏のほかに議場にいなかった議員がいたからで、小泉進次郎氏が採決を棄権したことが話題になっている。

先に丸山氏について述べておくと、筆者は事案発生当初、丸山氏の議員辞職には反対だった。現職の国会議員としては不穏当かつ迂闊な発言なのは間違いなく、いつまでも治らない酒癖の責任を含めて一定のペナルティは課すべきだとは思ったが、バッシング一辺倒の風潮には違和感を覚えたのが理由だ。

酒に酔っての暴言とはいえ、戦争をけしかけた訳ではなく、軍事的に奪われた領土を平和裡に取り戻すことが困難であるという見地からの指摘は、紛れもない国際政治の現実であり、さらに、議員辞職をすれば、国内的にはカタルシスになっても、ロシアには、日本の出方を今後軽んじられる危険を憂慮した。だから維新がロシア大使館に謝罪に行ったことは過剰な対応で、先々禍根を残すと思い、批判してきた。

“正論”や“法治”だけでは公人は務まらない丸山氏

丸山氏ツイッターより:編集部

しかし、その後、「女を買いたい」発言をはじめ、新たな不行跡が次々と発覚。訪問団に同席していた人たちの証言は生々しく、報じられた数々の言動は、内政か、外交かを問わず、公人としてあまりにも品位をかく行為だ。

その後は、酒癖の治療も含めて、潔く辞職した方がよいと思いつつ、その言動を注視してきたが、本人の行動は世論を硬化させるだけだった。

適応障害の治療を理由に公の場から姿を消すと、議院運営委員会に提出した弁明書(参照:産経新聞)で「刑事事件における有罪判決相当でもない本件のような言動にて議員辞職勧告決議がなされたことは憲政史上、一度もありません」などと反発した。糾弾決議後のツイッターでも「任期を全うし前に進んでまいります」と議員の職にとどまる意思を示した。

改めて丸山氏の出した弁明書を読み返すと、彼の言うように刑事事件を起こしたわけではなく、「懇親会での会話をもって直ちに憲法9条や99条違反だというのは飛躍しすぎ」という主張や、ほかに違法行為が明らかになった議員にけん責の決議がされたことがないというのは、間違ってはいない。

しかし、「法治」だけでは政治はできない。「徳治」というと語弊があるかもしれないが、少なくとも民主政治で人徳がなくなった人物が公職にとどまるのは困難だ。他の誰かが言うのであれば、まだ幾分か説得力があろうが、結局は「おまいう(お前が言うな)」となってしまい、政治活動の継続は困難になってしまうだろう。

三浦瑠麗氏が評価する陰で、事務所が広報テクニックを発揮した小泉氏

編集部撮影

そして、もう一人「おまいう」と思ってしまうのが小泉進次郎氏だ。

採決を棄権した後、「議員の出処進退というものは、議員一人ひとりが判断すべきことであって、多くの方が辞めるべきだなと、そう思う方が辞めなかった時に、その方のことを今後どうするかを判断するのはまさに選挙ですよね」などと“正論”を述べており、これについては「正しい判断をした」(三浦瑠麗氏)などと評価する向きもある。

日刊スポーツに載った全文掲載によれば、小泉氏は

丸山さんの言動はかばえるものではありませんが、国会としてどうするかは、冷静に判断すべきことがあるのではないか。

と述べたといい、丸山バッシングへの違和感を抱いた立場としては、同意できる部分もある。

しかし、だ。一報を聞いたときはどこか釈然としない思いもあった。昨年、300万PV近い反響のあったデイリー新潮の拙稿でも指摘したように、小泉氏は自身のPRセンスも抜群だが、彼の周りには名うての広報ブレーンたちが名を連ねている。メディアに向けてアピールするときは、自民党からどの程度の処分を受けるかも含めて、巧みな計算をしているからと、ついつい“邪推”してしまうのだ。

そのあたりは、名うての小泉父子のウォッチャーである常井健一氏は見逃していなかった。さすがだ。

常井氏がFacebookですかさず指摘していたのが小泉氏のブログだ。採決を棄権した報道の「切り取り」に不満とリスクを感じたようで、当夜のうちに、記者たちとのQ&Aを文字起こししてアップした。この鮮やかさ。常井氏が「事務所側が本人のブログに大急ぎで『全文書き起こし』を掲載した判断は、正しい」と指摘したように、小泉事務所の広報テクニックは相変わらず冴えている。

どうしても思い出す「名誉のブーイング」事件

事務所の今回の広報対応としては、報道によるミスリードを防ぐのが狙いだろうが、別のケースでは、スピン戦術なども行使して不都合な事実を出来るだけ目立たさないようにすることも重要な役回りだ。(今回はスピンの意図はないだろうが)小泉氏サイドとして、世間にできれば忘れて欲しいと思っているであろう「採決」がある。それが昨年7月、参院の定数6増を盛り込んだ公職選挙法改正案の採決。小泉氏は、それまで国会改革を党内で主唱し、法案にも明らかに反対の意思を持っていたが賛成。野党からブーイングが飛ぶと「名誉のブーイング」と開き直った。

このとき棄権したのは「現役プリンス」の小泉氏ではなく、「元プリンス」の船田元氏というハプニングがあったが、それはさておき、筆者が小泉氏に大いに失望した一つの転換点だった。ブログで“正論”を全文アップしても、「おまいう」の4文字が思い浮かんでしまうのは、どうしてもあの時の苦い記憶が浮かぶからだろう。

小泉氏や敏腕秘書のH氏は、アゴラのような零細メディアのことなど歯牙にも掛けていないだろうが、新潮の記事でも書いたように筆者は決して筋金入りの「アンチ小泉」ではない。遅かれ早かれ、宰相になる日が来るのだろうから、小手先のテクニックに溺れず、定数増の採決のことなど忘れさせるような「王道」を歩んでいただきたい。

新田 哲史   アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」