拳銃強奪男の親の責任を考える

2019年06月20日 19:00

社長候補の座を返上?

大阪吹田市の交番で起きた拳銃強奪事件の犯人は33歳の男でした。定職に就かず、心療内科にも通っており、両親は日々の生活や行動に頭を悩ましていたに違いありません。成人した息子が凶悪事件を起こした場合、親はどう責任を果たせばよいのか、果たせるのか、はらはらしている親は少なくないはずです。

関西テレビの本社社屋(Wikipediaより:編集部)

父親は関西テレビの常務(63)で、社長候補だったそうです。株主総会での留任が決まっていたのに、息子の事件で責任を感じ、辞任、退社しました。関テレは関西の上位テレビ局ですから、恵まれた家庭だったのでしょう。息子の凶悪事件で、親は出世の道を棒に振る。「辞任は本人の意思を尊重した」と、会社側はいっており、自発的な行動です。母親は事件に茫然としているはずです。

先日、引き込もりの長男(44)との諍いが絶えず、農水省の元次官(76)が思い余って殺害した事件があったばかりです。中高年の引きこもりが61万人、4分の3が男性だそうです。悠々の余生のはずが死ぬまでの刑務所暮らしに暗転するのでしょうか。恵まれているはずの家庭で、このような事件が続くのは、社会の断面図でもあります。

他人事ではない思う親たち

これから出世の仕上げ段階に入ろう、あるいは余生を楽しもうという矢先に、家庭内の深刻な問題が事件となって暴発する。こうした問題のすそ野は広がっており、他人事ではないと感じている家庭や親は多いはずです。私が友人、知人たちと交わす会話では、「平凡な人生でいい。息子や娘が精神的に病んでいさえしなければいい」が支配的な感想です。

事件が起きた時、成人した子の犯罪に親としてどう責任をとるか、とれるかも重大な関心事です。責任には「法律的な責任」「監督義務者としての責任」「道義的な責任」「社会的な責任」など様々な側面があります。また、親が公人、著名人、芸能人かなどによって、対応の仕方も異なってきます。

未成年の親の場合の責任とは違って、基本的には「成人した子の犯罪に,親は法的な責任を負わない。親の責任を追及しようとする社会の批判は感情論であり、冷静になるべきだ」でしょう。「加害者になった子が責任無能力者(精神障害などによる)である場合はどうなのか。「家族に監督義務があり、子の事件に責任を負うことがある。損害賠償責任も伴う」(民法)となり、判例もあります。

責任無能力者ではなさそう

拳銃強奪事件では、これまでの報道よると、「容疑者は同級生の実家の住所を使って、虚偽の110番をし、警官をおびき寄せ、交番を手薄にさせようとした」「コンビニ、量販店で逃亡用の買い物をしている」。となると「犯行は計画的で、責任無能力者とはいえない。親に法的責任はない」ですか。

テレビ局の役員だった父親に話を戻しますと、「防犯カメラの画像は、自分の息子に似ている」と、警察に通報しています。息子の逮捕後は「警察官の方、ご家族に心よりお詫びします。地域の方々に不安を感じさせ、申し訳ありませんでした。警察の捜査に全面的に協力します」というコメントをだしました。さらに会社に役員の辞任を申し出るなど、「社会的、道義的な責任」を痛感しています。

親としての責任を感じ、逃げ回らず素早く対応しているという印象を受けました。「報道番組も扱うテレビ局だから視聴者から抗議が殺到しかねない」「CMスポンサーの出方も懸念される」「役員を続けていても、事件への対応で仕事どころではなくなる」などとも、考えたのでしょう。

それでも、「なぜそのような子に育ててしまったのか。大学卒業後も、定職に就かせるなど、親としての指導が不十分だったのではないか」という問題は残ります。そうした批判は当たっていても、「親ができることは、もう限界に達していたのではないか」と、私は思います。

33歳男の親を批判するどころか、「この事件は他人事ではない」と、ぞっとしている高齢者の親が多いに違いありません。家庭内に内包されている問題の根の深さに多くの人が衝撃を受けているのです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2019年6月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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