ハンセン病家族裁判、やむを得ない国の控訴断念

2019年07月10日 14:00

ハンセン病患者の家族が差別を受けたことで国を相手取り損害賠償請求をしていた裁判で国側が控訴を見送り、原告の勝訴が確定しました。安倍首相の談話も重々しいものでしたが、新聞の見出しの「首相 異例の判断」というのがやけに印象的でした。

会見する安倍首相(首相官邸HPから:編集部)

会見する安倍首相(首相官邸HPから:編集部)

私が過去読んだ本の「これぞ10冊」の一つに松本清張氏の「砂の器」があります。悲劇小説は洋の東西を問わず、星の数ほどあると思いますが、この小説の背景であるハンセン病差別は読んだ時、あまりにも衝撃的でありました。(それぐらい私には無知無縁だったということです。)何度か同小説がテレビドラマになった際にはハンセン病差別を取り上げられないため、違うシナリオになっていました。

らい病とも称されるこの伝染病はそばによるとうつるという風評と共に政府の隔離政策がそれを後押しする形となりました。「無人島に押し込み、隔離しろ」という暴力的な発想もあったと聞いています。特に戦前戦後の話ですから情報網はほとんどなく、どこからともなく聞こえてくる話に尾ひれがつき、村の中でささやきあう、そしてそれは本人だけではなく、その家族も同類であるという冷たい仕打ちが控えていたのです。

日本には江戸時代、士農工商とさらにその下の穢多非人という身分がありました。明治になりそれをすぐに撤廃したものの人々の内心でそれが簡単に消去できるものではなく、そういう言い伝えを親から子、子から孫に繋いでいく中で何らかの印象が残ってきたことは事実でしょう。それ以外でも日本人は人種などを含めた差別意識があったことは事実です。このハンセン病患者やその家族においても同様でしょう。

もちろん、人間が持つ差別意識は日本人だけが持つものではありません。インドのカースト制度の名残もひどいものでカーストの最下級である「奴隷(シュードラ)」の下に不可触民(アチュート、ダリット)と呼ばれる人が2億人もいるとされています。もちろんカースト制度はすでに廃止されているものの現実社会ではそれは意識の中にあります。

100万部売れたレティシア コロンバニ氏の「三つ編み」はフェミニスト小説というカテゴリーでありますが、不可触民として生まれた女性の生き方は強烈な印象を与えてくれます。私もむさぼるように読みました。

日本の場合、ほぼ単一民族という括りが逆に微妙な差別意識を形成するようになります。現代における差別意識とは職業や子女の学校、居住地といった経済的、教育的差異を意識させるようなものであったり、学校のいじめといった形で表れます。それは「単一民族=皆同じ」という等式が当てはまらず、人は必ず、個性、境遇、宿命といった背景を持つ中で優勝劣敗や優越感のような意識を持とうとするところにあるのでしょう。

ではこのハンセン病家族の控訴断念がなぜそれほど意識せざるを得ないものだったのでしょうか?

ハンセン病に対する隔離政策はその伝染性はさほど強いものではなく、また、完治する手法もずいぶん前に確立されているにもかかわらず政府が長年その隔離政策を謳った法律を廃案にしなかった無策にありました。小泉首相の時、ハンセン病患者による同様裁判が起き、その時、国が裁判で敗れ、首相は控訴をしなかった経緯があります。

今回の裁判は患者のみならず、家族も同様の風評被害を受けていたことに関し、政府として争いをせず、賠償金を支払うという姿勢を見せたのであります。

これは日本に残る差別意識を解消する中でのステップであり、当然の流れであります。新聞の「首相 異例の判断」が厚労大臣と法務大臣の三者で控訴しないことを決めたことが異例なのか、国が裁判所の判断に不満であるのに控訴しないことなのか、国が勝訴している同様の裁判の最高裁判決を待つ中でその争いを放棄するような行為を異例とするのか、はたまたその全部なのかわかりませんが、私はこの裁判で国は争ってはいけないと考えております。

もちろん、あまりにも人権問題で寛容な姿勢を示すと似たような問題を次々と問題提起されるリスクはあるわけで政府として「特例的配慮」を強調しておく意味合いはあるのでしょう。

ある意味、ハンセン病差別問題がまだ残っていたということすら私には驚きであり、多くの方にとっては何だったのか、という話でしょう。若い方には親御さんや祖父母に聞いていただかないと分からない話なのかもしれません。日本の別の一面であります。一応の決着を見てよかったと思っております。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年7月10日の記事より転載させていただきました。

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