北朝鮮が求める「段階的非核化」米国が容認の兆し

鈴木 衛士

ロイター通信が9日次のように報じた。

米国務省は9日、今月に再開される見通しの米朝協議に先立ち、北朝鮮が非核化に向けたプロセスの初期段階として核プログラムを凍結することに期待を示した。

もし、この国務省のコメントがトランプ大統領の意思に基づく内容を伝えたものだとしたら、トランプ大統領は2回目の米朝首脳会談で示した全面的かつ完全な解決を意味する「ビッグディールの原則」という方針を転換し、北朝鮮が今まで一貫して求めてきた「段階的非核化」に応じる決断をした、ということになる。

ということは、今後は北朝鮮がこれに応じて要求してくるであろう「核プログラムの凍結」の見返り、即ち制裁緩和の有無や程度などの交渉が焦点となり、この成り行きが近く行われる予定の4回目の米朝首脳会談における成果に反映されることになるのだろう。

朝鮮中央通信より:編集部

そもそも、3回目の板門店における電撃的な米朝首脳会談において、トランプ大統領と金正恩委員長が手を取り合って軍事境界線を(南から北に)超えるというパフォーマンスを演じた時から、トランプ大統領は多少の譲歩をしても「北朝鮮を抱き込んでしまおう」という腹積もりを決めていたのではないだろうか。これは、現在の国際情勢を俯瞰すると十分に理解できるものである。

つまり、現在米国は中東地域においてイランと一触即発の状況にあり、最悪の場合は戦争に至る事態も予期しなければならない局面にある。一方で、東アジアにおいては今年1月に発表された米国防情報局(DIA)の報告書で記されたように、「中国が台湾の統一を視野に東アジア全域での覇権確立に関心を抱いている」状況にあって、台湾への軍事挑発や南シナ海及び東シナ海における軍事的示威行動が常態化している。

端的に言えば、今の米国にとって最大の敵は「イランと中国」であって、当面はこの対応に戦力を集中志向しなければならない。体制の維持と経済的協力関係を求めてすり寄る北朝鮮を「ビッグディールの原則」を固持して再び核・ミサイル開発の道へと追い込み、中国と親密な関係を構築させるより、多少譲歩してでもこの際北朝鮮を取り込んだ方がどう考えても米国にとっては得策なのである。

問題は、米国がどこまで譲歩するかであろう。

「段階的非核化」とは言いながら北朝鮮は巧みに時間稼ぎをし、結局はすでに保有しているとされる核弾頭の破棄はうやむやなままに、核施設の無力化や長距離弾道ミサイル(ICBM)の破棄及び関連施設の破壊などに応じて、北朝鮮と米国(国連軍)は和平条約を締結して休戦状態を終焉させ、国交を正常化するかもしれない。一方で、残存している可能性のある核弾頭は、その気になれば中距離弾道ミサイルには搭載可能であろうから、わが国に対する核の脅威は消滅しない。

これは、言い換えれば現状と変わらないということである。しかし、北朝鮮が米国と国交を正常化することによって、わが国に対して攻撃する意図を持たない国となれば、その意図が変わらない限り脅威とはならなくなる。

この脅威の無力化を担保するためには、わが国自体も北朝鮮との国交を正常化して友好関係を構築するのが最も現実的な選択肢であろう。しかし、このような関係を築くためには、何としても日朝間の懸案である「日本人拉致問題」を解決させなければならない。そのためには、日朝首脳会談の実現こそが喫緊の課題だ。

昨年3月の拙稿「米朝首脳会談の開催場所を日本へ誘致せよ」の内容を、今ここで改めて提起したい。次なる「米朝首脳会談を日本で開催する」というような離れ業で、一挙に日米朝の関係を進展させて拉致問題の解決へ結びつけることを検討してはどうだろうか。平昌オリンピックを契機に北朝鮮が対話路線へ舵を切ったことを踏まえると、来年の東京オリンピックはさらに日朝関係をドラスティックに変える機会となるかも知れない。

わが国と北朝鮮の関係が好転すれば、韓国はほっといても日米朝に与することになるであろう。

鈴木 衛士(すずき えいじ)
1960年京都府京都市生まれ。83年に大学を卒業後、陸上自衛隊に2等陸士として入隊する。2年後に離隊するも85年に幹部候補生として航空自衛隊に再入隊。3等空尉に任官後は約30年にわたり情報幹部として航空自衛隊の各部隊や防衛省航空幕僚監部、防衛省情報本部などで勤務。防衛のみならず大規模災害や国際平和協力活動等に関わる情報の収集や分析にあたる。北朝鮮の弾道ミサイル発射事案や東日本大震災、自衛隊のイラク派遣など数々の重大事案において第一線で活躍。2015年に空将補で退官。著書に『北朝鮮は「悪」じゃない』(幻冬舎ルネッサンス)。