8月2日の日韓各紙は米国政府高官が現地時間1日に、日本による韓国のホワイト国外しについて発言したことを一斉に報じている。共同通信の見出しは「米、日韓に仲介案受け入れ再要求 ホワイト国除外に懸念も」となっているので、菅官房長官が否定した30日のものとは別の発言だ。
そこで筆者は各紙報道の中から、元記事と思われるロイター(日本語版)と、それぞれ850文字余りの多くを割いている中央日報日本語版と朝日新聞を用いて、米国政府高官発言の引用部分を抜き出してみた。その結果、想像通りとはいえ恐るべき朝日新聞のフェイクぶりが明らかになった。
以下が3紙の米政府高官発言の引用部分だ。記事の記述の順に並べている。(太字は筆者)
- 韓国の行動は国内での反日感情をあおるために、政治的効果をさえ計算した上で行われているきらいがある
- こうした状況を米国は憂慮している
- 日韓の通商関係が悪化すれば、両国経済がともに阻害されるだけでなく、影響は負の連鎖とともに他に波及する恐れがある
- 韓国が政治的効果を狙って意図的に反日感情を助長すると見られて懸念される
- 米国はソウル(韓国政府が)が韓日両国間信頼を傷つけて反日感情を助長する措置を取る意思を見せて懸念される
- 一部ソウルの措置は政治的効果を目指しており、あるいは効果を計算して韓国内反日感情を刺激する行動に見える
- このようなことが、われわれが心配していること
- 韓国が1910~1945年日帝強占期の強制徴用被害者に対する補償をするために差し押さえた日本企業の資産を売却する場合、状況は悪化するだろう
- 日本が先端技術素材貿易で最小限の規制を受けるホワイト国リストから韓国を除外するという脅威を履行することを懸念する
- 韓日貿易関係の悪化は相互報復の悪循環につながる場合、両国経済はもちろん、その以上に悪影響を及ぼすだろう
- この戦いは北朝鮮の非核化合意を導き出すために必要な韓日連携も傷つけるだろう
- 韓日両国は北朝鮮とどの可能な合意であれ、必須的な役割を果たすということを考えると北朝鮮との合意導出を難しくさせる影響を及ぼすと言える
- 日韓関係にさらなる悪循環をもたらす可能性がある
- 事態がどう推移するか見守る
- 日本のあらゆる行為は、韓国側にとって非常に否定的なものと映る。日韓関係にさらなる悪循環をもたらす可能性がある
- 韓国内の日本企業の資産が差し押さえられている。もし、原告への支払いのために、差し押さえ資産が現金化されれば、日本にひどい影響を及ぼすだろう
- 同時にもし日本がホワイト国排除の決定を進めれば、韓国は非常に悪いサインだと受け取るだろう
- 米朝交渉において、日韓両国は非常に重要な役割を果たす。両国関係の悪化は、北朝鮮との合意をより困難なものにする可能性がある
- 米国は二国間の「仲介役」はしていないが、実務者以上のレベルで大きく関わっている
- 日韓の関係改善を図り、建設的な道を見いだせるための時間が持てるような助言をした。日韓が互いの立場を変えたり譲ったりすることなく、対抗措置を互いに取るのを避けるよう約束するものだ
- 協定が拒否されたというのは、まだ早い。事態がどう推移するか見守る必要がある
一目瞭然だが、ロイターと中央日報で筆者が太字にしている「韓国の行動は国内での反日感情をあおるために、政治的効果をさえ計算した上で行われているきらいがある」「こうした状況を米国は憂慮している」といった発言が、朝日の記事からは丸々すっぽり抜け落ちている。
中央日報の記事からは、米政府高官の発言趣旨は、韓国の反日感情をあおる政治的計算に基づく行動こそが米国の主たる憂慮であって、ホワイト国外しによって日韓関係がさらに悪化すれば、両国経済が阻害されるだけでなく影響が他にも波及する恐れがあることは従たる懸念と読める。
代わりに朝日にはロイターや中央日報にはない「日本のあらゆる行為は、韓国側にとって非常に否定的なものと映る」とあり、米高官がまるで日本だけを非難しているようだ。記事には(ワシントン=土佐茂生)と署名があるが、単独インタビューと書いていないので、ロイターと同じソースだろう。
中央日報が文政権への批判を込めて話しを盛った可能性も考えられなくないが、ロイターの記述を見る限りそれはない。とすれば、朝日新聞が日本を貶めるためか、はたまた日米関係を悪化させるために、わざわざ高官発言のうちの韓国を非難する部分をカットして報道したとしか考えられない。
捏造報道と断じはしまいが、実に悪質なミスリードだ。このような新聞が400万とも500万ともいわれる読者に毎日読まれているのかと考えると思わず背筋に悪寒が走る。朝日の読者諸兄姉には、是非ともできるだけ多くの他の報道に接することをお勧めしてやまない。
高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。