無慈悲なプロパガンダ戦は韓国に学べ:日本が陥った6つの錯覚

田村 和広

池田信夫所長の「【GEPR】トリチウムの処理は韓国に学べ」(アゴラ、9月3日)は痛快な正論であり、日本の課題の一つを明確にしている。

日本の課題

上記論考から当該部分を引用させて頂くと以下の通り。

(福島第一原発では)このまま貯水を続けると2022年には敷地が足りなくなる。この解決法は簡単である。韓国もやっているように、トリチウムを環境基準以下に薄めて流せばいいのだ。
(上記論考より一部抜粋、括弧書は筆者)

法令を超える過剰なコンセンサスを求めることが日本人の弱点(上記論考より抜粋)

簡潔明瞭だ。巨額の経済効果が見込まれる。

科学的な知識に基づいて考えるならば全く異論がない。しかし現在の日本では、マスメディアも政治家もこれを表明・実行するのは、“日本人の弱点”のせいで困難である。

確かに思い当たることが多い。原発に限らず、例えば東京都の市場移転問題でも、小池都知事が「安全だが安心ではない」旨発言して科学的根拠とは別の事情からメディアが大騒ぎしていたことなども、池田所長が一般化して表現された「過剰なコンセンサス」に該当するだろう。

なお、市場移転問題の詳細は「安全と安心と築地と豊洲-「安心神話」というケイオス」(藤原かずえ氏、2017年4月10日、アゴラ)が解り易い。

韓国は日本の課題を知っている

そして池田所長の論考では同時に、日本の重要な課題もさらりと描き出している。

(過剰なコンセンサスを求めることが)日本人の弱点だということを、韓国は知っているのだ。(中略)国内の過剰なコンセンサスを外交に持ち込むことが、日本が韓国に負け続ける原因である。
(上記論考より一部抜粋、括弧書及び太字は筆者)

深い洞察だ。

歴史戦では、日本は残念ながら韓国に連戦連敗である。このままではこれからも負けるだろう。

将来韓国が、例えば「対馬はわが領土」「古朝鮮では日本列島がそもそもわが領土」などのような荒唐無稽な主張を始める危険は十分に考えられるが、今の日本では守り切れるかどうか心もとない。「歴史ロンダリング(歴史洗浄)」の剛腕ぶりでは日本は到底勝ち目がない。

本稿では対韓プロパガンダ戦に特化して、日本が連敗する原因を明確にしたい。

「猛獣国家」の支配下でも滅亡しなかった朝鮮民族

朝鮮半島は陸続きであり、滅亡を逃れるためには、その時々の強国に服従せざるを得ない歴史が続いた。その忍従の歴史は民族の思考方法や文化に強い影響を与えたことだろう。一方日本海という障壁があったおかげで、日本への大陸からの蹂躙は元寇など限定的なもので済んだ。立地に恵まれて、日本は独自の文化と歴史を形成してきた。

朝鮮民族の存亡をかけた争いで磨かれた生存技術は、現代日本では太刀打ちできない水準のものである。歴史ロンダリング、告げ口外交、嘘のつき方、罪や責任の擦り付け方といった「プロパガンダ戦の具体的戦術」の数々では、大人と子供の格差がある。

韓国は日本外交の欠点をあぶり出してくれている

韓国の反日行動はやり過ぎだが、実は日本外交の、以下に列挙するような欠点を鮮やかにあぶり出してくれている。日本は、国際社会における現実的な外交の要点を対韓外交の失敗から学び今後の日本外交にフィードバックすべきであろう。

韓国の「NO安倍」デモを伝えるKBSニュース:編集部引用

日本外交の欠点:錯覚

具体的には次の様な錯覚が日本外交の欠点である。

錯覚1:「全ての国は国際法と条約を順守する」

具体例を列挙すればきりがないが、常々約束を守っては痛い目を見ている。「法や約束を守る」という意識は国によってまちまちであることを認識していない。

錯覚2:「国連が世界各国に正義と秩序をもたらしてくれる」

「United Nations」がいつのまにか「国際連合」と翻訳されるようになって、「世界政府」のような平和と秩序を維持してくれる存在と誤解している日本人は少なくない。実態は、戦勝国による利害関係の衝突現場であり、日本だけは未だに世界の「敵国」である。

お人よしの日本人は「敵国条項はもう死文化されているから」という甘い言葉にだまされているが、仮に常任理事国との間で利害関係の対立が激しくなれば「文言にある通り」に一瞬で敵国認定されるリスクがあることは忘れてはいけない。

錯覚3:「嘘をついてはいけない」

個人として生きる上で大切なモラルであるが、国家間では通用しない。日本人には、嘘に対する後ろめたさがあってどうしても克服できないが、東アジア諸国は特に「騙される方が弱い・悪い」という価値観である。日本人が“idiot”と形容されることがあるのもこのあたりであろう。

錯覚4:「国家の歴史は、真実を追求すべき」

学問としては理想である。しかし現実の国家運営では、「歴史とは自国の過去を正当化するためのストーリー」である。日本人は朝鮮半島を「植民地」にしていたと表現するが、では同時期に強引に併合したハワイのことをアメリカは「植民地」と呼ぶだろうか。

過酷な移動も日本がやれば「バターン死の行軍」だがアメリカがやれば「涙の旅路」である。あるいは、愚民化や奴隷政策など数々の非道を実行した英国もフランスも、「植民地に対して我々は良いことをしてあげた」というスタンスで歴史をつづるのはなぜか。日本人の多くは考えたこともない。

錯覚5:「全ての新聞やテレビは日本のために存在する」

著名なジャーナリストの門田隆将氏による『新聞という病』(産経新聞出版)がベストセラーである。徐々に覚醒しつつあるが、まだジャーナリズムに対する誤解は深刻なレベルである。

特に、激烈な反日教育を受けた諸外国の記者がニューヨーク・タイムズなどで反日記事を配信するだけでなく、日本の新聞でも反日記事や番組を配信しているふしがある。人権保護や表現の自由の観点から放置状態だが、高い公益性を有する報道機関への反日外国人の就職や、外国からの資金支援を背景とした論調統制に歯止めはかけられないものだろうか。

錯覚6:「謝罪は完結する行為」

8月29日の韓国臨時閣議で文在寅大統領は、「一度反省を言ったので反省は終わったとか、一度合意したからといって過去の問題が、すべて過ぎ去ったのだと終わらせることはできない」と述べたが、これこそ現代韓国らしい思考方法であり、日本人が理解できない考え方である。

理解し難い訳は、「謝罪」の意味が日本と韓国で違うからである。日本人にとって「謝罪」は「罪や過ちをわびること」である。つまり謝罪した時点で完結する「行為」である。一方、韓国が日本に「謝罪」せよというときは、「謝罪」とは「過ちを認めて永久無限の犯罪国という劣後した国際関係を受け入れること」であり、一時(いっとき)で完結する「行為」ではなく永久に続く「状態」である。

従って、「一回謝ればそれで終わり、明日からは対等に付き合いましょう」とはならず、「一回認めたならば、その日から我に跪き道徳的に下の身分として振る舞え。ことあるごとに反省を表明し続けよ」となるのである。

まとめ

池田信夫所長や藤原かずえ氏のような、本当の識見を持った真の識者が国政に助言する制度は作れないものだろうか。だがそれはすぐにはできないので、下策だが、せめて緊急避難として、「厚い面皮と不屈の闘志で数々の荒業を繰り出し続ける韓国」に戦術を学んでドローに持ち込むべきであろう。このままではプロパガンダ戦連戦連敗記録が止まらない。

田村 和広 算数数学の個別指導塾「アルファ算数教室」主宰
1968年生まれ。1992年東京大学卒。証券会社勤務の後、上場企業広報部長、CFOを経て独立。