【GEPR】トリチウムの処理は韓国に学べ

池田 信夫

日韓関係の悪化が、放射能の問題に波及してきた。 このところ立て続けに韓国政府が、日本の放射能について問題提起している。8月だけでも、次のようなものが挙げられる。

  • 8月8日 韓国環境部が、ほぼ全量を日本から輸入する石炭灰の放射性物質の検査強化を発表
  • 16日 韓国環境部が、日本からのリサイクル用廃棄物を輸入する際、放射性物質と重金属の検査を強化することを発表
  • 19日 韓国外交部がソウルにある日本大使館の公使を呼び、福島第一原発のトリチウムなどを含む処理水について説明を要求
  • 20日 韓国オリンピック委員会が、東京オリンピック選手村の食事に福島の食材を使うことに懸念を表明
  • 21日 韓国環境部が、日本から食品を輸入する際の放射性物質の検査について、17品目の検査を強化すると発表

韓国のねらいは明白である。 日本が半導体材料の輸出管理を強化したのに対して、韓国は通商問題で有効な反撃のカードを持っていないため、日本の弱点である放射能の問題をねらっているのだ。

これは世界貿易機関(WTO)の成功体験があるからだろう。今年4月、WTO上級委員会は、福島県の水産物輸入を規制している韓国の措置を不当とした一審判断を取り消し、科学的には安全性に問題ないとしながら、韓国の輸入規制を容認した。

このパターンは、慰安婦問題でアメリカ議会や国連人権理事会が「性奴隷」を非難する決議をしたのと同じだ。韓国が「女性の人権を守れ」という(それ自体は正しい)スローガンを英語で繰り返すと、事実と違っていても英語圏では通ってしまう。

そのとき外務省は「今まで十分おわびした」と反論し、事実誤認に反論しなかった。今回の処理水の問題でも「現況や今後の処理計画について国際社会に誠実に説明する」という表現を繰り返し、韓国に正面きって反論しない。

これは放射能が、国内でもタブーになっているからだ。たとえば柏崎刈羽原発6・7号機は、原子力規制委員会の OK が出たのに、地元の合意が得られないため、いまだに再稼働できない。こういう法令を超える過剰なコンセンサスを求めることが日本人の弱点だということを、韓国は知っているのだ。

しかし経産省の調べによると、世界中の原発からトリチウムは排出されており、韓国の月城原発や古里原発からも毎年、数十兆ベクレルの処理水が排出されている。

福島第一原発では、1000基のタンクに100万トン近い処理水が貯まっているが、このまま貯水を続けると2022年には敷地が足りなくなる。この解決法は簡単である。韓国もやっているように、トリチウムを環境基準以下に薄めて流せばいいのだ。

国内の過剰なコンセンサスを外交に持ち込むことが、日本が韓国に負け続ける原因である。安倍政権は今回の問題を契機に、科学的データと法令にもとづいて処理水を海洋放出し、その安全性を世界にアピールすべきだ。