パワハラ防止法施行へ:やっぱり社内相談窓口が重要なワケ

来年から法施行  パワハラ防止が企業に義務付け

企業にパワハラ防止を義務付ける女性活躍・ハラスメント規制法は、今年の5月に成立し、早ければ、大企業においては来年の4月にもパワハラを防ぐための措置などパワハラ対策の義務付けられることになります。中小企業は2022年4月の見通しとなっています。

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パワハラについては、労働施策総合推進法において定められることになりますが、法律に従わない企業には厚生労働省が改善を求め、応じなければ、企業名を公表する場合もあります。わが国で初めて法制化されたいわゆる「パワハラ法」について具体的にどのような対処が必要なのか見ていきたいと思います。

どんな内容か?4つのポイント

まず、制定された主な内容は、①パワハラの定義、②企業のパワハラ防止義務、必要な体制を整備する義務、③不利益取り扱い禁止、④違反した企業は国が公表可能 —の4つになります。

①職場におけるパワハラの定義(いわゆるパワハラの3要素)

ア.優越的な関係を背景とすること

イ.業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動であること

ウ.労働者の就業環境が害されること

ここで言う「優越的な関係」とは、業務上の地位のほか、専門知識、経験などからくる優位性も含まれます。そのため、部下が上司より優越的な関係になることもあります。

また「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」とは、適正な指導とパワハラの線引きとして、業務上正当な目的のない指導や、人格攻撃の内容を含む指導などを指しますが、具体的には、厚生労働省が指針を示すことになっています。

これまで厚生労働省が示していたパワハラ6類型(ⅰ 身体的な攻撃、ⅱ 精神的な攻撃、ⅲ 人間関係からの切り離し、ⅳ 過大な要求、ⅴ 過小な要求、ⅵ 個の侵害)に絡めた指針になるものと予想されています。なお、法律が制定されても、パワハラか否かの境界線の明確な線引きは難しいところがあるため、従来と同様に個別的な判断になるでしょう。

②企業のパワハラ防止義務、必要な体制の整備する義務

これについても具体的には、労働政策審議会の意見を聴いた上で厚生労働省が指針を示すことになっています。セクハラ・マタハラと同様に相談窓口の設置等が示されるものと予想されています。

③不利益取り扱い禁止

事業主は、労働者が職場におけるパワハラに関する相談を行ったことまたは事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益扱いをしてはならないものと規定されています。他のセクハラ・マタハラ法規でもみられる当然の規定といえます。

④違反した企業は国が公表することも

一部報道で罰則がないザル法等と揶揄されていますが、公表制度が実際に機能すれば、インターネット上で風評も広がることで企業の売上低下や人手不足等を招くことにもなりかねず、企業にとっては罰則以上の痛手となります。企業としては待ったなしの対策が求められることになります。

 

対策への課題:経営者側と従業員側とのギャップ

かっちゃん/写真AC(編集部)

これまでもパワハラ対策は多くの企業で行われており、特に社内相談窓口を設置しているケースが多いですが、実際には残念ながら多くの企業で機能していないのが実情といえます。

「職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書平成28年度版」(厚生労働省)によれば、「パワハラの予防に向けて実施している取組」として実に82.9パーセントの企業が「相談窓口を設置した」と回答している一方で、従業員が把握していると回答した割合は45.5パーセントでした。

また、労働者が「パワーハラスメントを受けたと感じても何もしなかった理由」として「何をしても解決にならないと思ったから」と回答した割合が68.5パーセントを占め、「職務上不利益が生じると思ったから」と回答した割合も24.9パーセントを占めています。

まさに経営者側と従業員側とのギャップが浮き彫りとなっているといえます。

それでも社内相談窓口設置が重要な理由

社内相談窓口設置は、悪質なパワハラに対して被害者を迅速・適切に救済するために有効であることはもちろんですが、それと同時に大きな役割として、パワハラに至る前の段階で企業が事態を把握し、パワハラを未然に防ぐことが期待できるといえます。

すなわち、社内相談窓口を設置することによりパワハラの初期段階やグレーゾーン段階で早期に事実を把握し、悪質なパワハラを未然に防ぐことも可能となります。さらに、相談窓口の存在を社内に周知することでパワハラ行為に対する心理的な抑止効果も期待できます。

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また、コーポレートガバナンスの観点からは、自社内で自主的に問題を解決できる機会を設けることは非常に重要であるといえます。最近は保険会社でも、AIG損保などが労災の上乗せ保険のサービスの一環で労務トラブルの相談窓口を設けているのは、危機管理上、重要と認識されている部分もありそうです。

パワハラ対策として社内相談窓口を設置することはパワハラ防止措置の柱として十分に機能させる必要があるといえます。経営者側と従業員側とのギャップを埋め社内相談窓口をいかに運用していくかは企業にとって待ったなしの課題といっても過言ではないでしょう。

社内相談窓口設置のうまく運用させるには?

相談窓口の設置・運営にあたってまず重視すべきは、①労働者ができるだけ初期の段階で気軽に安心して相談できる相談窓口にすることです。

具体的には、

  • 相談者のプライバシーが確保できる部屋を準備していること
  • 相談内容の秘密が守られること
  • 相談方法を面談に限らず、メールや電話、郵便等複数の相談手段を用意すること
  • 相談を行ったことにより不利益な扱いを受けないことが保証されていること
  • 他のハラスメント相談窓口と一本化する等が考えられます。そもそも相談者のプライバシーや秘密が守られなければ安心して相談できません。また相談を行ったことにより不利益な扱いを受けるのではないかという不安を多くの労働者が感じているのでその不安を除去する必要があります。更には、セクハラからパワハラ、マタハラからパワハラへと繋がっていく事象も散見されますので、相談内容をパワハラに限らないで他のハラスメント相談窓口と一本化しておくこともポイントとなります。

次に、②社内への周知。相談窓口の存在、相談手続、そして相談者のプライバシーや秘密が確保され、相談を行っても不利益を受けないことが保証され、他のハラスメント相談窓口と一本化している旨が社内報、パンフレット、社内ホームページ、イントラネット等あらゆる手段を用いて従業員に対し啓発がされていることが重要です。従業員に相談窓口の存在と機能を知ってもらい気軽に利用してもらえなければ意味がありません。

更には、③相談窓口が十分に機能するための工夫をすることが重要です。

具体的には、

  • 相談担当者には、公平中立で秘密の守れる信頼の厚い人物を選任すること
  • 相談担当者に対しては予め研修を行い、ハラスメントや人権問題に対する理解を深めたり、ヒアリング技術のスキルアップを図るようにすること、
  • 可能であれば、男女とも含めた複数の相談担当者を選任すること等が重要となります。

近藤 敬(こんどう たかし)弁護士(東京弁護士会、レイ法律事務所所属)
大学卒業後、東京地裁で事務官、書記官として十数年働きながら弁護士を目指し、司法試験合格。現在は東京弁護士会に所属。書記官時代から労働事件を多数手がけてきた経験を生かし、厚生労働省の「職場におけるハラスメント被害者等に対する相談対応マニュアル」や「労働条件相談ほっとライン」の検討委員会」委員も務める。レイ法律事務所公式サイト


この記事は、AIGとアゴラ編集部によるコラボ企画『転ばぬ先のチエ』の編集記事です。

『転ばぬ先のチエ』は、国内外の経済・金融問題をとりあげながら、個人の日常生活からビジネスシーンにおける「リスク」を考える上で、有益な情報や視点を提供すべく、中立的な立場で専門家の発信を行います。編集責任はアゴラ編集部が担い、必要に応じてAIGから専門的知見や情報提供を受けて制作しています。