近年、パワハラを恐れ、部下に言いたいことを言えない、言わない上司が増えている。
本来注意されるべきことを言われない部下や後輩は、何が問題なのか把握できず、改善のしようもないため成長もできない。上司や先輩は、その尻ぬぐいもしなければならずストレスをためる悪循環に陥ってしまう。
今回は、『一人でも部下がいる人のためのほめ方の教科書』(かんき出版)を紹介したい。著者は、中村早岐子さん。監修を、西出ひろ子さんがおこなっている。西出さんの主な実績は、28万部のベストセラー『お仕事のマナーとコツ』(学研)があり、「NHK大河ドラマ・龍馬伝」のマナー指導など多岐にわたる。著書累計100万部を超えている。
さて、「ヨイショ」「ゴマすり」と聞くと、一般的にはネガティブな印象を持つ人が多いかもしれない。実はそんなことはない。むしろ、普通の人が嫌がったり、恥ずかしかったりしてなかなかできないことにこそ価値があるものだ。
筆者はこれまで、「絶対にこの人にはかなわない」という人に出会ったことがある。その人のやることなすこと、わかりやすすぎるくらいの「ヨイショ」「ゴマすり」。ゴマすりも極めれば嫌味にもならない。むしろ尊敬に値する。
その人はH社に勤務する「ゴマすり男」(仮名)さん。「すり男」さんはどちらかというと、カッコ悪い容姿。背は低く中年太り、髪は薄くファッションセンスも微妙。しかし、ゴマすりの腕前は天下一品である。
「社長!そのネクタイ、すばらしいセンスでいらっしゃいますね」ネクタイをほめるのはゴマすりの代名詞のようなもなもの。しかし、「すり夫」さんは臆面もなく、堂々とゴマすりの王道をいく。所作やトークは磨きがかかり簡単には真似できない。
「社長、いまのお言葉、すばらしいですね。大変恐れ入りますが、お言葉を書にしたためていただくことはできませんか?」。そういって、さっと懐から毛筆ペンと高級手帳を差し出す。「こんなところに書いちゃっていいのかね?」と社長。「いいんです。ぜひ、お願いします」と、「すり夫」さん。もはやパーフェクトである。
筆者が社会人の頃、「ヨイショ」「ゴマすり」は当然のスキルとされていた。いまの若い人はあまりしない(むしろ嫌う)と聞く。仕事を潤滑にすすめたいなら「ヨイショ」「ゴマすり」は必要である。本書は、部下・後輩指導に悩める上司や先輩の立場に立ち、良好な人間関係を築くための方法を紹介している。
しかし、できることならば、部下の人に読んでもらいたい。上司が何に葛藤し悩んでいるかを知ることは部下にとってムダではないはずである。
[本書の評価]★★★(75点)
【評価のレべリング】※標準点(合格点)を60点に設定。
★★★★★「レベル5!家宝として置いておきたい本」90点~100点
★★★★ 「レベル4!期待を大きく上回った本」80点~90点未満
★★★ 「レベル3!期待を裏切らない本」70点~80点未満
★★ 「レベル2!読んでも損は無い本」60点~70点未満
★ 「レベル1!評価が難しい本」50点~60点未満
星無し 「レベル0!読むに値しない本」50点未満
※2019年に紹介した書籍一覧
尾藤克之
コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員
※14冊目の著書『3行で人を動かす文章術』(WAVE出版)を出版しました。