英独のせい⁉︎ スペイン観光業が世界2位から転落危機

白石 和幸

英国でボリス・ジョンソンが首相になったことで英国の合意なきEUからの離脱「ハードBrexit」が起きる可能性が一段と強まっている。スペインにとってそのマイナス影響を受けるひとつに英国からの観光者の減少の可能性がある。

Mallorcadiario.comより引用:編集部

スペインは観光者の訪問ランキングでフランスに次いで世界2位に位置している。昨年は外国から8,300万人がスペインを訪問した。訪問者の1位に当たるのが英国人で、年間およそ1,850万人がスペインを訪問先として選んでいる。その次にドイツ人そしてフランス人となっている。(参照:elpais.comvozlibre.com

スペインの観光産業はGDPの11%を占めている。スペインの地中海沿岸地方は平均して年間で300日が太陽の日差しを浴びることが出来るということから「灼熱の太陽とビーチを満喫できる」ということを謳い文句にスペインが観光国として発展して来た。

特にヨーロッパの中央部から北部の国々の人たちにとってスペインでバケーションを過ごすのが人気となった。しかも、当時のスペインは物価も比較的安価であった。またトルコやエジプトといった新興の観光国も存在していなかった。

そして1992年のバルセロナ・オリンピックとセビーリャの万博がスペインを観光立国として確固たる地位を築くことに貢献した。

スペインの高速列車AVEも万博の開催に合わせてマドリードとセビーリャ間で初めて開通させた。スペインの2大都市マドリードとバルセロナ間を最初に繋ぐのではなく、首都から最初はセビーリャまでを繋いだというのは一つの理由があった。

当時の政府は社会労働党の政権で同党の最大の基盤はアンダルシア地方であった。しかも、首相はセビーリャ出身のフェリペ・ゴンサレスだったということで最初に高速列車を走らせるのはマドリードとセビーリャ間というのは当然の成り行きであった。

2000年に入ると訪問客は年間で5,000万人を越えるまでに成長した。そして2011年から毎年観光客は上昇の一途を辿り、2017年には遂に8,000万人を越えたのであった。その柱になったのが英国、ドイツ、フランスからの訪問客で、彼らが全体の半分近くを占めている。

それが今回のボリス・ジョンソン首相の誕生で英国の合意なきEUからの離脱「ハードBrexit」が起きる可能性が一段と強まっていることからスペインの観光業者の間では英国からの観光者の大幅な減少を懸念しているのである。

「観光ホテル及び宿泊先スペイン連盟(CEHAT)」のファン・モラス会長によると、英国からの訪問者は前年比で15%減少する」と見ているそうだ。それは「270万人がその影響を受けることになる」と指摘している。

今年1月と2月の英国人の訪問はコスタ・デル・ソルは5%、コスタ・ドラダは6%でそれぞれ上昇するという現象が起きたそうだ。これはハードBrexitを控えて、落ち込む寸前に起きる上向き現象だと見られている。

ところが、バレアレス諸島の場合はイビサ島とメノルカ島が9%の減少、マジョルカ島は6%の減少になったそうだ。現地のホテル側では「この減少はBrexitによるものだけではなく、観光維持のための税金を徴収することが影響している」と指摘している。というのは、バレアレス諸島自治政府が今年から観光者に対して観光維持費として税金を徴収することを決めたのである。

今年のこの税収は1億2800万ユーロ(153億円)を見込み、この先4年間で3億3000万ユーロ(396億円)の税収を見込んでいるという。この税収は環境改善、文化遺産の保護などに充てるとしている。しかし、ホテル業者はこの税金は「スキャンダルものだ」として自治政府を強く非難している。(参照:mallorcadiario.comhosteltur.com

英国人観光者と同様に訪問の減少が懸念されているのがドイツ人である。今夏のドイツからの予約が減少しているという。パルマ・デ・マヨルカが州都のバレアレス諸島とアフリカの北西沿岸からおよそ100キロ沖合のラス・パルマスを州都にしたカナリア諸島はドイツ人観光者がこれまで好んで訪問して来たが、バレアレス諸島では予約が30%落ち込んでいるというのだ。

カナリア諸島のASホテルのファン・パブロ・ゴンサレス社長は「ドイツ人は旅行の決定を遅らせているか、または貯蓄の方に回している。というのはドイツの景気後退を懸念しているからだ」と語って、経済が後退の様相を呈しているドイツからの観光者の減少は当然の成り行きだと見ているようだ。それを如実に示しているのが5月に同諸島の2番目に大きなテネリフェ島へのドイツ人の訪問が11%減少したことである。これから先、数か月で回復できる期待は薄いとされている。(参照:elconfidencial.com

例えば、バレアレス諸島には2011年には56,472人の外人が在住していて、その内の18573人はドイツ人だったそうだ。しかし、その後経済危機などからそこを去って2017年にはその数は半分にまで減少したという。また、在住はしているが永住者としてではなく観光者として在住して税金逃れをしている者が結構いると見られている。同様の現象は英国人にも言える。同年23,698人在住していたのが14,854人まで減少している。
(参照:ultimahora.es

その一方で、この5か月間にロシア人の訪問が9%伸びたそうだ。ロシアからの観光者は2010年から2013年に掛けて急激な上昇を見せてピークの2013年には160万人の訪問があった。その後2015年まで減少を続け、2016年からまた上向きになっているということだ。そして次にポルトガル人の12.8%、米国人の10.8%とそれぞれ伸びを見せている。
(参照:hosteltur.com

しかし、英国人とドイツ人それにフランス人を加えてのスペイン訪問者が全体のほぼ半分を占めていることから、この3か国以外の他の地域からの訪問者が増えても、それは絶対数から見てこの3か国には当然かなわない。とはいうものの、北欧4か国ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマークの観光者数を合わせると4番目に位置するようになり重要なお客で今後の彼らの動きが注目されている。

また、観光者の旅行するスタイルも変化している。英国の大型旅行代理店トーマスクックが経営不振に陥ったように、観光者が旅行代理店のセットした旅行パックを選ばなくなっている傾向にあるということ。それぞれ個人がインターネットで自分の好みに合わせて訪問先や宿泊先を決める傾向が高まっているということ。その為、ホテル業者も従来の旅行代理店に依存したお客の獲得からネットを専門にした旅行予約業者とのコネクションが重要になっている。

更に観光新興国トルコ、エジプト、チュニジアなどがどこまで影響するかということも注目点の一つになっている。例えば、トルコは2016年のテロ事件以後観光者が戻っている。8,300キロのビーチが魅力だ。価格は幾分上昇しているが、トルコ・リラがドルの前に65%の切り下げとなっていることから観光者にとっては実質的には値上げを感じることがない。今年4か月間に200万人の訪問を受けて昨年の記録を破っている。昨年は年間で1,300万人の訪問を受けたということで、今年は1,600万人の訪問を予測しているそうだ。

エジプトは2010年の1,400万人をピークにテロなどが影響して観光者は減少していたが、一昨年から回復の兆しを見せ、昨年は1,100万人の訪問を受けた。チュニジアもエジプトと同様にテロなどで2011年から観光者は減少していたが、昨年は830万人という記録を達成した。この3か国を訪問する観光者にとっての魅力は価格の安さである。
(参照:elpais.com

現在のスペインは安全な国というのを前面に出して灼熱の太陽とビーチを満喫できる以外に歴史遺産、内陸地の観光、食文化、芸術文化など幅広い材料を提供できる。それを支える48,000軒のホテルを始めインフラもさらに充実させている。(参照:elpais.com

白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家