韓国で青木理氏の本が…「ベストセラー製造機」チョ・グク(曹国)

崔 碩栄

韓国でベストセラー1位になった『反日種族主義』という本が日本のニュースにも数回紹介された。慰安婦、独島(竹島)、徴用工、朝鮮人志願兵…などなど日韓の間で衝突と葛藤の原因になっている問題について韓国側の通説を批判した本がベストセラーになったことは韓国でも異例中の異例。日本のメディアが注目するのも当然だ。

その話題を紹介するあるテレビ番組でもう一つの面白い情報が紹介された。ベストセラーランキングで1位、2位があまりにも違う性向の本だったからだ。

1位は、韓国の反日主義を批判した『反日種族主義』
2位は、日本の保守派を批判した『日本会議の正体』(青木理 著)の韓国語版だった。

この時、ちょうどコメンテーターとして出演していたのが青木氏は少し照れながらベストセラーになった理由について次のように述べた。

今の韓国のデモは反日デモというより反安倍デモの様相になっている。そこで政府高官が安倍政権の背後関係を知るにはこの本が良いと勧めて、メディアも取り上げた結果らしい。

ここでいう韓国の「政府高官」は誰だろうか。
それは、いまや日本でも有名人になった曹国(チョ・グク)法務長官だ。

『日本会議の正体』韓国語版(左)と日本語版(右)

曹国氏+メディア+書店が大々的に宣伝

それは今年の7月22日、まだ曹氏が青瓦台の民情首席として働いていた時期。つまり、不正疑惑がまだ発覚する前で、大衆的人気も高かった時だ。その時、彼が首席・補佐官会議に青木氏の本『日本会議の正体』を持ってきて他の秘書官、議員らに紹介する場面がメディアのカメラに撮られたのだ。

私の個人的な感想ではあるが、カメラに偶然撮られたというより、事前に約束でもしたように曹氏が持っている本をクローズアップし、韓国メディアが大々的に記事にした。そして、それはテレビ局、大手全国紙に同時多発的に紹介された。

正直、これは偶然というより露骨的な宣伝に近いという印象だ。あまりにも「押し」が強かったからだ。それを報じた韓国メディアの記事例を見て欲しい。

Channel Aの報道:曹氏と本を一緒に紹介

KBSの報道:「日本会議に関する本、曹国首席によって知られるようになったが…」

MBNの報道:「安倍批判の本を持ち出した曹国」

SBSの報道:「克日で通じる、文と曹」

YTNの報道:「曹国氏、会議に日本の極右派を分析した本を持参」

テレビ局だけでも大盛り上がり。
しかし、全国紙も負けてない。

京郷新聞

東亜日報

毎日経済

ソウル経済

朝鮮日報

中央日報

韓国日報

保守紙、リベラル紙問わず、この本を大々的に宣伝(?)してくれたのだ。
そして大手ネット書店は「曹国首席が推薦した本!」というキャッチコピーで宣伝を行った。
正直、ここまで政府高官、メディア、書店によって宣伝されたら、ベストセラーにならないのがおかしいくらいだ。ここまで宣伝してくれたら、著者として感謝しなければいけないかもしれない。

ネット書店の広告バナー「曹国首席が推薦した本!」

 

曹氏は『反日種族主義』については「吐き気がする」と批判し、『日本会議の正体』については自らメディアに露出させることで間接的な宣伝を行った。それでも前者が1位、後者が2位だったのは面白い。

韓国では「人生はタイミング(が大事):인생은 타이밍」という表現をよく使う。能力があっても、実力があってもチャンスを逃してしまったら成功するのは難しい。逆に実力が無くてもチャンス、運によっては成功することもあるという意味だ。

そういう意味では、青木氏の本はいいタイミングを掴んだといえるだろう。なぜなら、もし不正疑惑が次々と発覚した法務長官任命の前後のタイミングで、曹氏がこの本を持ち歩いてる場面が韓国メディアに取り上げられていたら、逆にマイナスイメージがついた可能性が高いからだ。

やはり人生はタイミングだ。

Nikkan Watch」2019年9月21日の記事に一部加筆。

崔 碩栄   フリーライター

1972年、韓国ソウル生まれ。高校時代より日本語を勉強し、大学で日本学を専攻。1999年来日し、関東地方の国立大学大学院で教育学修士号を取得。大学院修了後は劇団四季、ガンホー・オンライン・エンターテイメントなど日本の企業で、国際・開発業務に従事する。その後、ノンフィクション・ライターに転身。ツイッター「@Che_SYoung