電力業界は金品受領の全面禁止の宣言を

中村 仁

信頼回復には荒療治が必要

関西電力の会長、社長ら20人が原発所在地の地元企業を資金源とする不透明な金品を受領していた問題で、調査報告書を公表しました。さらに詳しい調査をするために、社外の弁護士で構成する調査委員会を新設するとのことです。

記者会見する関電の八木会長(左)と岩根社長(NHKニュースより:編集部)

もっと過去にさかのぼり、この20人以外にも金品を受領していた人物がいたかどうかも、徹底的に調査すべきです。細心の神経と注意が必要な原発を抱いた企業であるし、料金の認可を伴う電力業界です。これまでに金品を受領していた人物は、金額に換算した全額を返済するほか、今後、盆暮れの挨拶の品、昇進祝い、訪問時の手土産などの全面的な禁止を宣言すべきです。

関電以外の電力会社の実態も、自発的ないし経産省の指導の下で洗い直さなければなりません。金品の受領は調査済み、金品の受領を内規で禁止済み(3日付朝日新聞)などと、電力会社は記事で答えています。今回の不祥事は電力業界の隠蔽体質の一端です。第三者による再調査を望みます。

社会的に許容される儀礼的なものまで禁止するのはどうか、という反論もあるでしょう。そこまで徹底しなければ、業界あげて、懸命に社会の信頼回復に努めているという姿勢を印象付けるのは難しい。

ついつい便宜を図る恐れ

もちろん、今回の不祥事の本質は金品の受領禁止ではありません。「賄賂性があったかどうか」「金品を受領した見返りに、元助役や地元企業側に便宜を図っていたことはないか」「公共料金として支払われたおカネの一部が関電の役員、社員に還流していたと解釈できるかどうか」「関電と地元との不透明な関係によって原発安全性が損なわれていたのではないか」など多岐にわたります。

原子力事業本部を担当していた元副社長と現職の常務の2人が、それぞれ1億円を超える金品を受けとっていました。2人の金額は突出しており、地元企業に便宜を図ったのではないかと疑われても、仕方がありません。贈収賄罪(贈った元助役は死去)が成立するのか調べが必要です。

仕立て券付きスーツ生地が計75着も関電トップ、役員らに贈られていたというのにも驚かされました。1着50万円相当で、社会的儀礼の範囲と考え、仕立ててしまい、返品していないケースが多いようです。ということは、関電ばかりでなく、この程度の贈り物は常態化しているのでしょう。仕立て券は発行した紳士服店に持ち込めばおカネに替えてくれるので、現金と同じものともいえる。

菓子箱の底の金貨に賄賂性

報告書によると、社長にと持参した菓子折りの底に10枚の金貨(1枚15万円相当)が入っていた。元助役側は賄賂性を認識していたから、そんな手を使ったのでしょう。政界でも似た話がありました。

すそ野が広く、納入業者、下請け業者が多い大企業では、社会的儀礼として、金品が贈られることは常態化しているでしょう。禁止の対象にすることないにしても、許容限度を超えた金品を受け取っていると、判断力が鈍くなり、企業に損害を与える可能性があるでしょう。

とにかく「社会的儀礼」を装い、賄賂性が疑われる工作資金が発注者側にわたる。そのような手口が使われないように、金品の受領は全面的に禁止する。そのことを電力業界として誓う。もちろん公益企業でもない企業間で、取引の潤滑油として贈答品を使うのは、その限りではありません。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2019年10月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。