メキシコの新麻薬王:米政府が情報提供にかけた懸賞金は11億円!

2019年10月17日 06:00

「麻薬王」ことエル・チャポに終身刑の判決が7月に言い渡された。その後、彼は脱獄が絶対に不可能とされているコロラド州フローレンスにある刑務所ADXに収監された。次の「麻薬王」になるだろと米国麻薬取締局(DEA)が見ているのがネメシオ・オセゲラ・セルバンテス(通称エル・メンチョ、53歳)である。

懸賞金がかけられた「新麻薬王」エル・メンチョ(Univisionより引用)

エル・メンチョは現在メキシコで最も凶暴性が高いとされているカルテル「ハリスコ・ヌエバ・ヘネラシオン(CJNG)」のリーダーである。彼はカルテルが蔓延るミチョアカン州のティエッラ・カリエンテ出身で、幼少の頃は家庭が貧困でアボガドの生産を手伝っていた。

90年代から麻薬の販売に従事するようになり、1994年には米国の北カリフォルニアの裁判所でヘロインの販売の罪で実刑3年の判決が言い渡された。服役を終えるとメキシコに戻りハリスコ州の二つの自治体の警官として働くようになった。しかし、麻薬との縁を切ることは出来ず、カルテル・ミレニオに加わった。当時のミレニオはエル・チャポのカルテル・シナロアと同盟のような関係を結び、麻薬の販売以外にシナロアの為のシカリオ(暗殺者)の任務も果たしていた。
(参照:es.insightcrime.org

しかし、ミレニオのリーダーナチョ・コロネルが亡くなり、もう一人のリーダーオスカル・オルランド・ナバが逮捕されたことでミレニオは2つのグループに分裂して双方が争いを繰り返すようになった。最終的にエル・メンチョをリーダーとする勝ち残ったグループが現在のCJNGの始まりである。それが2009年であった。

エル・メンチョの指揮のもとCJNGはハリスコ,コリマ、グアナフアトの3つの州を基盤に拡張して行ったのである。彼らの販売の主要麻薬はメタンフェタミンであった。縄張り争いの直接のライバルとしてはロス・セタスとロス・カバリェロス・テンプラリオスの2つがある。2013年にはライバルのロス・カバリェロス・テンプラリオスに協力していた連邦警察の警官を数人ほど暗殺したのもエル・メンチョの指令のもとであったという。

ロス・セタスは特殊部隊を辞めた隊員が創設したということもあって、CJNGと同様に凶暴なカルテルのひとつだとされていた。しかし、リーダーが続々と逮捕されて2012年頃から衰え始めて二分したが、メキシコ北部では依然勢力を振るっている。

ミチアカン州だけで見ると、CJNGとロス・テンプラリオスの縄張り争いは熾烈である。(参照:es.insightcrime.org

CJNGが凶暴で残虐性に満ちているのは2015年にはロケットランチャーでメキシコ空軍のヘリコプター1機を打ち落とし、また同年15人の警官を殺害したということでも分かる。また斬首や心臓を身体から取り出したり、女性や子供を平気で殺害し、人に爆弾をつけて爆破させるといった冷血極まりない犯罪も実行して来た。(参照:univision.com

CJNGはメキシコ31の自治州にメキシコシティーを加えたテリトリーで現在22の自治州に勢力を張っている。更に米国では、ロサンジェルス、サンディエゴ、エル・パソ、ラレード、ヒュストン、マイアミ、オルランド、ニューヨーク、デンバー、アトゥランタ、シカゴを麻薬ビジネスの拠点にしている。組員は5000人以上と推測されている。それに付随して麻薬密売業者や彼らを防御する警察や行政の関係当局にいる協力者などもいる。

エル・メンチョの息子エル・メンチートはシナロアと協力関係にあったようだ。ところが、2014年にグアダラハラで息子は警察に逮捕された。シナロアが陰で糸を引いて逮捕を容易にしたと見られていた。その報復だったのか、エル・メンチョはエル・チャポの二人の息子を誘拐したことがあった。その1週間後に釈放されたが、それは2016年の夏であった。(参照:es.insightcrime.org

メキシコのカルテルで現在米国に最も多く麻薬を持ち込み多額の金額を扱っているのがCJNGだと指摘しているのは米国DEAからエル・メンチョを逮捕する為に編成された特別捜査班のカイル・モリーである。
(参照:infobae.comunivision.com

モリーはエル・メンチョがハリスコ、コリマ、ミチョアカンの3つの州を股にかけて密かに隠れ住んでいると推測している。それを黄金の三角地帯と呼んでいる。彼は一定の場所に長期間留まることはないと見られている。

「彼は非常に賢い人物で、ミスを殆どしない。エル・チャポが数十年掛けて得たものをエル・メンチョは数年で達成している」とモリーは語っている。また市街で不必要な危険な動きは一切しないタイプだとも指摘している。それは現在のシナロアのリーダーのサンバダ(エル・マーヨ)にも似ているという。

エル・マーヨはエル・チャポが逮捕された後のシナロアを仕切っているが、もう71歳でその後継者に適切な人物がいないことからシナロアはこれから分裂するか縮小して行くと見られている。

モリーはエル・チャポとエル・メンチョを比較して一つ例を上げている。

「エル・チャポはレストランに入ると、そこで食事をしている全てのお客から携帯電話を取り上げて(誰も外部に通報できないようにして)、食事したあと全てのお客の食事代も支払って出て行く。エル・メンチョはそのようなことはしない。山間であろうが、牧場であろうが、住むところはどこでも構わない。人気の少ない場所を好んで選ぶ傾向がある。それが彼を捕まえることを難しくさせている」と語っている。

エル・メンチョは人通りの多い市街には絶対に姿を見せないということで、レストランなどに入ることは絶対にない。しかも、彼の顔は殆ど知られていないということで捕まえることを尚更困難にしている。

更に、彼の強みは麻薬の消費者ではなく、身体は頑強で、元警官だったということもあって軍人の規律の様なものを守っているという点をモリーは挙げている。また「エル・チャポは凶暴であったが、エル・メンチョは別のレベルにある」と指摘した。
(参照:univision.com

モリーをリーダーとする特別捜査班はエル・メンチョを逮捕する為に編成されたグループである。その為にFBI(連邦捜査局)、ICE(移民執行局)、USマーシャル(連邦保安官)が協力している。また、メキシコの警察と軍隊も肩を並べて彼らに協力しているそうだ。

「土曜、日曜を含め365日彼を捕まえるための活動を我々はしている。彼は凶暴で力をもっている。我々の市街にたくさんの毒を盛る麻薬のリーダーを潰すのは米国市民の為だ。同様に我が国の南部の隣人メキシコ人の為にもだ」とモリーは語っている。

というのも、米国で毎日142人が麻薬の常習で死亡しているという悲惨な現状を前にしているからだ。一度彼を捕まえる寸前までいったことがあるそうだ。しかし、「逮捕しないことには意味がない」とモリーは切り捨てた。
(参照:univision.com

米国政府は彼の逮捕が如何に重要かというのを示すべく、逮捕に結びつく情報提供者には1000万ドル(11億円)の懸賞金を提供するとした。またメキシコ政府も3000万ペソ(1億6000万円)を用意している。
(参照:univision.comes.insightcrime.org

麻薬王はまずコロンビアのパブロ・エスコバルに始まって、その次がメキシコのエル・チャポそして今、同じくメキシコのエル・メンチョにバトンタッチされつつある。

パブロ・エスコバルは映画化された。その主人公をスペインの俳優ハビエル・バルデムが演じた。エル・チャポも彼の人生の映画化を希望してハリウッドの俳優ショーン・ペンと彼の隠れ家で会ったことが彼の逮捕の動機を作ってしまった。エル・メンチョは彼の性格からそのような落とし穴には一切はまらないであろう。

白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家

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貿易コンサルタント、国際政治外交研究家

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