血気にはやるフェイスブックのリブラと対照的なアマゾン

2019年10月18日 06:00

15日、フェイスブックの暗号通貨リブラの管理団体であるリブラ協会が正式に発足した。しかし、その参加メンバーは、当初伝えられていた28団体から7団体減って21団体になってしまった。

FBが発表したリブラ専用ウォレット「カリブラ(Calibra)」の画面イメージ:編集部

今月初めにPayPalが抜け、さらに11日にはクレジットカードのVISA、Mastercard、ネット通販のeBay、オンライン決済プラットフォームのStripeとMercado Pagoの5社が、さらにリブラ協会の発足前日の14日にネット旅行予約のBooking holdingsが参加取り止めを表明した。

6月のリブラの発表直後から米国の議会、金融界、学者、G7財務大臣・中央銀行会議など様々な方面からリブラに批判の矢が雨あられのごとく降ってきていたが、先日VISA、MastercardなどのCEO宛にアメリカの2人の上院議員から書簡が送られ、リブラに参加すれば、暗号通貨事業だけでなくVISA等の本業の従来型の事業も規制当局の更なる監視の対象となるという脅しがトドメとなったのかもしれない。

フェイスブックにとって、これらの参加予定企業の脱落は大きな痛手であることは間違いない。何しろVISA、Mastercardなど誰でも知っている実績のある大企業がいなくなっただけでなく、これらの企業は、世界的な決済のネットワークを持っているので、これらと連携することでリブラを容易に世界に広げることができたはずだった。また、eBayやBooking Holdingsのような大きな顧客基盤を持つ企業が参加を見合わせたことで、これからはリブラ自身が顧客開拓を進めていかねばならなくなった。

今月23日にはフェイスブックのザッカーバーグ会長が米下院の金融委員会で証言することとなっているが、厳しい質問にさらされることは間違いない。いずれにしても、以前私が記事で述べたように今後リブラは潰されるか、仮に生き残るとしても規制でがんじがらめにされた使い勝手の悪いものになってしまうだろう。

リブラは、銀行口座を持てない人たちも金融サービスの恩恵を受けられるようにするという崇高な理想を謳っていたが、これだけではドル、ユーロ、ポンド、円などに代わる通貨になるための錦の御旗にはなりえなかった。

もちろんこれまでにフェイスブックが個人情報を売却したり、漏えいさせたりしたこともリブラにとって悪条件ではあったが、やはり通貨の発行を独占する国家と金融サービスの世界で強力な力を持つ銀行を敵に回したことが最大の敗因だ。

以前にも書いたように、アメリカはドルが世界の基軸通貨であることを利用して独占的に経済的利益を享受すると同時に、自国に刃向かう者には経済制裁を課しているが、リブラがその邪魔をすることは絶対に許せないはずだ。また銀行にとっても、銀行口座からリブラのアカウントに預金者の資金が移って、銀行のネットワークの外で送金や決済が起きてしまうことは、絶対に避けたいことであるのは言うまでもない。

フェイスブックはこうした状況を十分理解しないままに、血気にはやってリブラの創設をぶち上げて失敗したといえる。

一方、フェイスブックとは対照的な対応をしているのがアマゾンだ。6月初めにリブラの構想が発表された直後にメディアから質問を受けたアマゾンペイの幹部は、当面はリブラのような投機的なものは取り扱わないと言って、全く動くそぶりを見せなかった。もしアマゾンがこの時点で自前の貨幣構想を検討していると発表していたら、フェイスブック同様に潰されてしまっただろうが、賢明にもそのようなことはおくびにも出さなかったのだ。

Amazon.com公式FBより:編集部

私はもし将来、暗号資産が広く普及するようになるとしたら、現在その先頭を切る位置にいるのはアマゾンだと思っている。なにしろ実店舗こそまだ少ないが、ネット上では3億5千万点以上の商品を扱い、アマゾンで買えないものはほぼない状況にある。また、アマゾンプライムの会員数は1億人を超えている。

そして現在はまだ商品券的な性格しかないアマゾンギフト券だが、これは自分で使うこともできるし、他人に無償で、あるいは何かの対価として渡すこともできるので、その対象商品の広さを考えると商品券と言ってもかなり貨幣に近い性格を既に持っている。

そしてひとたびアマゾンがその商品とアマゾンギフト券の価格をドルや円ではない、例えばアマゾン・マネーという表示にしてアマゾン・マネーとドルや円との交換レートを随時発表するようにし、その有効期限を現在のアマゾンギフト券のように原則1年間ではなく20年間にすれば、まさにドルや円といった法定通貨やビットコインのような旧式で決済には不向きな暗号通貨に代わる第三の通貨が出現する。

もちろんそれでもアマゾン・マネーはアマゾンに出品している店以外では通用しないが、品目数が圧倒的に多いため利用者はアマゾン・マネーで何でも買えると感じるだろう。ちょうど金本位制の下で金の裏付けのある兌換紙幣が流通したように、アマゾンの商品がアマゾン・マネーの信用の裏付けになって人々の間を流通するようになるのだ。

現在の世界の通貨と銀行制度は、リーマンショック以後主要国の中央銀行による超金融緩和政策によって異常な状態が続いている。人類始まって以来、あるいは資本主義が始まって以来と言ってもよいが、お金を借りても金利を払わなくてよかったり、さらにはお金を借りると追加でお金をくれることが現実のものとなりつつある。

また、銀行に預金をすれば欧州の一部ではマイナスの金利が付いて預金者がお金を払わなくてはならないという異常な状況が既に生じている。そうした異常な金融環境の中で政府や企業や個人の債務がどんどん膨らんでいるが、いずれこうした不自然な状況は破綻する。そしてその時は銀行システムが崩壊の危機に瀕すると同時に、ドル、ユーロ、円といった法定通貨に対する人々の信頼も大きく揺らぐことになるだろう。

暗号通貨には当面手を出さないと言っているアマゾンだが、恐らく内部では自前の貨幣構想を着々と練っているに違いない。現在の異常な金融環境の下でアマゾンは、暗号通貨をローンチすべきタイミングを虎視眈々と狙っているのではなかろうか。

有地 浩(ありち ひろし)株式会社日本決済情報センター顧問、人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)
岡山県倉敷市出身。東京大学法学部を経て1975年大蔵省(現、財務省)入省。その後、官費留学生としてフランス国立行政学院(ENA)留学。財務省大臣官房審議官、世界銀行グループの国際金融公社東京駐在特別代表などを歴任し、2008年退官。 輸出入・港湾関連情報処理センター株式会社専務取締役、株式会社日本決済情報センター代表取締役社長を経て、2018年6月より同社顧問。著書に「フランス人の流儀」(大修館)(共著)。人間経済科学研究所サイト

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