戦時賠償:韓国は日本に「ドイツに倣え」と言うが…

長谷川 良

ドイツ外務省(Wikipedia=編集部)

ギリシャ政府はドイツに対し、第2次大戦時の損害賠償を要求、同国議会の委員会の計算によれば、その額は2900億ユーロになるという。欧州の経済大国ドイツにとってもそれは巨額であり、到底支払いできない。ドイツ通信(DPA)によれば、ドイツ外務省は今月18日、「大戦中の損害賠償問題は解決済みだ。ギリシャ政府と戦時の賠償問題で交渉する考えはない」と支払い交渉を拒否したばかりだ。

ドイツ政府はこれまで「賠償問題は戦後直後、解決済み」という立場を堅持してきた。日本は戦後、サンフランシスコ平和条約(1951年)に基づいて戦後賠償問題は2国間の国家補償を実施して完了済みだが、第1次、第2次の2つの世界大戦の敗戦国となったドイツの場合、過去の賠償問題は日本より複雑だ。ドイツの場合、国家補償ではなく、ナチス軍の被害者に対する個別補償が中心だからだ。

ギリシャではドイツに対して戦後賠償を要求する声が依然強いが、ポーランドでもドイツに対して戦後賠償金要求の声が出てきている。ワシチコフスキ外相は2017年9月4日、ドイツに対し、第2次世界大戦時のナチス・ドイツ軍のポーランド侵攻で1兆ドルを超える被害があったとし、賠償金を暗に請求。ドイツ側はポーランドが戦後、賠償請求権を放棄したとして、その請求を同じように拒否している、といった具合だ。

ギリシャの膨大な戦後賠償要求のニュースは日本にも大きく報道されたが、韓国ではどうだっただろうか。なぜならば、韓国は日本の過去問題を追及する際、常に「ドイツに倣え」と掛け声を挙げ、ドイツの過去問題への対応を高く評価してきた経緯があるからだ。

韓国ではドイツの戦時の賠償問題について果たして客観的に理解しているのだろうか、という懸念すら湧いてくる。ドイツは過去の賠償問題ではギリシャやポーランドから賠償請求を受けてきた。過去問題は解決済みではないのだ。

ドイツにとって過去問題は政治的にはフランスとの関係だが、損害賠償問題はバルカン諸国や旧東独諸国で常にくずぶってきた厄介なテーマだ。例を挙げる。ヨアヒム・ガウク独大統領(当時)は2014年3月7日、第2次世界大戦中にナチス・ドイツ軍が民間人を虐殺したギリシャ北西部のリギアデス村(Ligiades)の慰霊碑を訪問し、ドイツ軍の蛮行に謝罪を表明したが、同大統領の演説が終わると、リギアデスの生存者たちは「公平と賠償」と書かれたポスターを掲げ、「大統領の謝罪はまったく意味がない。われわれにとって必要なことは具体的な賠償だ」と叫び出した。

驚いたことは、前独首相のゲアハルト・シュレーダー氏(在任1998年10月~2005年11月)が退任後の17年9月に訪韓し、文在寅大統領と会見する一方、「従軍慰安婦」が共同生活を送る施設「ナヌムの家」(京畿道広州市)を訪問し、そこで日本の歴史問題への対応を批判したことだ。

ナヌムの家で元慰安婦らと面会したシュレーダー氏(Korea.netより編集部引用)

シュレーダー氏は生存者と会い、「残酷な戦争の犠牲になった方々に対し、日本が謝罪できれば歴史に対する責任意識があることを表明するものと言えるが、まだ勇気を出すことができないでいるようだ。被害者が望んでいるのは復讐や憎悪によるものではなく、日本が歴史的にあったことを認め謝罪することだけだと聞いた」とし、それが実現することを願うと伝えたというのだ。

日韓両外相(岸田文雄外相と尹炳世韓国外相=いずれも当時)は2015年12月28日、慰安婦問題の解決で合意に達し、両政府による合意事項の履行を前提に、「この問題が最終的、不可逆的に解決することを確認する」と表明した。この歴史的事実ですら、シュレーダー氏は無視しているわけだ。そのディメンツ(認知症)気味のシュレーダー氏の言動を歓迎し、ホストの文在寅大統領はいつものように、「歴史の過去問題の清算では日本はドイツに倣うべきだ」と檄を飛ばしたわけだ。

歴史の過去問題ではドイツはそれでもラッキーだ。ドイツの隣国はポーランドやチェコなど東欧諸国だが、韓国ではないからだ。ギリシャやポーランドは国内の経済問題が厳しくなれば、ドイツに過去問題を突きつけることもあるが、両国も欧州連合(EU)加盟国だ。EUの盟主ドイツに対して過去問題で関係を悪化させる愚策は犯さない。その点、日本は厳しい。日本の隣国は韓国だからだ。国を挙げて反日を掲げ、地域の安全問題を無視して日本を批判する隣国と接しているからだ。

韓国はドイツに対してもう少し学習し、「正しい歴史認識」を知る必要があるだろう。その一方、日本の過去問題への解決努力に対しては公平な評価を下すべきだ。文大統領よ、ドイツは戦時問題では依然、さまざまな困難を抱えていることを忘れないでほしい。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年10月21日の記事に一部加筆。