カナダ総選挙にみたもの

日本国内では即位礼正殿の儀が注目されていましたが、カナダでは注目の総選挙が行われました。結果はジャスティン・トルドー氏率いる中道左派、自由党が過半数には届かないものの勝利し、トルドー氏が二期目の首相を務めることになりました。

ジャスティン・トルドー氏(公式ウェブサイトから:編集部)

ジャスティン・トルドー氏(公式ウェブサイトから:編集部)

今回の選挙の注目点はいくつかありますが、まずトルドー氏47歳と対抗馬の保守党党首、シーア氏40歳の戦いだった点が興味深いと思います。40代同士の戦いはなかなかないもので、カナダが若い人に権限移譲するスタンスが見てとれます。

これはカナダが人口の1%を毎年移民として受け入れるという、アメリカより強い移民導入策を持っており、比較的若い移民が流入していることが要因の一つではないかと考えています。通常の移民の要件はカナダに経済的便益をもたらすことを求められており、当然ながら現役層で将来有望な人が主体となります。(典型的な移民手段としては当地大学を留学生として卒業し、自動的に与えられるポスト グラデュエーション ビザで3年ほど働き、その間に移民権を申請するケースが目立ちます。)

次にトルドー氏の様々な醜聞にもかかわらず自由党が157席と保守党の121席に大差をつけたことには正直驚いています。世論調査ではかなりの接戦で選挙前日あたりでも「コイントスのような情勢」(TD Economics)と分析されるほどでした。事後の分析をするならば自由党の明白で受けの良い政策に対して保守党が何をどうしたいかはっきり打ち出せなかったことで国民の心に響かなかった点で消去法的選択だったように感じています。

なぜ、保守人気が出なかったかといえばトランプ大統領の間接的影響があるとみています。実はカナダはアメリカに対して心の底ではかなり冷たい意識を持っています。いわゆる反面教師的なところが歴史的にあり、その中でトランプ氏のような保守アメリカへの反発心があったのではないかと考えています。例えば、カナダで行われたサミットでトルドー氏の議長宣言をシンガポールに行く飛行機で聞いたトランプ大統領が袖にした一件がありました。あれはカナダ国民にアメリカへの冷たい意識を明白に打ち出させたようなものでした。

では過半数の170議席を取れなかった今後の政権運営はどうするのか、ですが、これもカナダらしいのですが、一応、野党、新民主党(24議席)や緑の党(3議席)にある程度接近するとは思いますが、積極的なアライアンスはしないとみられています。つまり連立政権にしないということです。現状の分析では議会運営は案件ごとに検討するだろう、とあり、政党政治の党利党略ではなく、より国民の声に沿った運営を目指すと見られています。

考えてみればアメリカは二大政党でどちらかしかなく、ねじれれば法案などが通りにくくなる仕組みです。ところが、過半を取らない自由党が政権運営をするにあたり、法案可決が妥当と判断できれば野党の賛意は取れると考えればそれは誰のための政治なのか、より明白であるとも言えます。

ただし、ドラスティックな政権運営はできません。個人的に予想されるのはとても良い国だけれど社会的変化は非常に緩慢でまるで「大河が流れるがごとく」という状態になるとみています。

個人的には半年ぐらい前から「政権交代あり」と見ていたので予想は完全に外れました。トルドー氏の数々の失敗を国民が許したのはハンサムで憎めない性格だからなのでしょうか?そうだとすればカナダ人はとても優しい国民性だということを改めて裏付けたように感じます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年10月23日の記事より転載させていただきました。