原発水没を教訓にしなかった北陸新幹線

2019年11月01日 06:00

「まさか」が大事故を招く

集中豪雨をもたらした台風19号を忘れたかのように、秋晴れの日も戻ってきました。私の目に焼き付いて離れないのは、北陸新幹線の多数の車両が整然と並んで水没していた光景です。水没する前に、なぜ車両基地から退避させなかったのか。JR東日本の危機管理意識を検証する必要があります。

NHKニュースより:編集部

10編成120車両(うちJR東分は8編成)が水没し、床下のモーターや座席は水浸しになり、廃車にするしかないとしたら、1両3億円として、360億円の損害です。決算上は減価償却(使用年数に応じた目減り分の計上)しますので、JR東分は118億円とのことです。基地の設備、システムの損傷はどうなのか。私が関心を持つのは、損害額の評価より、なぜ水没事故を招いたかです。

「車両基地は洪水浸水想定区域に指定されていなかったので、まさか浸水するとは考えなかった」「隣接する千曲川の堤防がまさか決壊するとは考えなかった」「予報では19号の直撃コースではなかったので、まさか記録的な豪雨に見舞われるとは考えなかった」。まさか、まさかです。

わずかなことの差が招く惨事

「まさか、まさか」で、すぐ思い起こすのは、2011年の東日本大震災です。1000年に1度という規模の津波が福島第一原発にも襲来し、全電源が水没し、原発の機能がマヒしました。その教訓の一つが「非常用の電源を高台に移設しておけば、これほどの惨事にはならなかった」です。

震災に先立つ08年、社内の安全担当部門が経営トップに「最大の津波は15・7㍍」という予測値を示しました。予測値の確率、巨額の対策費、原発に対する信頼性への影響などが脳裏をよぎったのでしょう。さらに想像すれば、「まさかそんなことは直ぐには起きまい」と、考えたに違いない。

政府の原発事故調査委員会に加わった柳田邦男氏は、こう指摘しています。「鋭いリスク感覚があれば、完全な対策は緊急には無理にしても、せめて予備電源の高台への移設、配電センターや重要建屋の水密化をしておくべきだった」と。

次元は異なっていても、北陸新幹線の水没事故と相似形をなす部分があるように思います。車両基地に近い千曲川の決壊などの水害ついて、「東北や長野県で記録的な豪雨が降ったのは、海面水温の上昇が続き、水蒸気が大量に入り込んだ。長野県には、日本海から湿った風が吹き込み、雨量を増やした可能性がある」(中村尚・東大教授/気象変動科学、読売新聞)と、指摘しています。

虚を突かれ間に合わず

異常気象がもたらす最悪の事態を想定し、車両を基地から移動させ、高台にある線路上か駅に避難させておけばよかった。「浸水想定区域外」「直撃コース外」「崩壊はないと信じた堤防神話」の思い込みがあり、急な浸水に虚を突かれ、いざ避難させようとしても間に合わなかったか。「基地の頭脳部分は高い場所に置いておこう」ということにも、思いが及ばなかったか。

システムや機械に詳しい知人の指摘も紹介しておきます。「何か起きた時、臨機応変に運行状況を変えられるシステムの導入が必要だ。車両をバックさせるのに、運転プログラムを入れ替えないと、対応できないようになっているようだ。手動で車両を動かせる訓練もしているのだろうか」

クリントン政権の副大統領で、環境重視派だったアル・ゴア氏は言います。「人類とって最も深刻な事態は気候変動の危機だ」「世界各地で豪雨、洪水、干ばつ、熱波といった極端な気象が発生する頻度が高まっている」(日経10/31、グローバル・オピニオン)と。

ですから「数十年に一度の豪雨」「いまだかつてないスーパー台風」の襲来が毎年、起きる。国(気象庁)や自治体の情報はあまり当てにならなくなる。「想定外」も想定し、危機管理のレベルを高めておく。それができていなかった典型的なケースが北陸新幹線の水没であったと考えます。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2019年10月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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