GSOMIA廃棄を主張も未練たらたらの文大統領、日本は“毅然”貫け!

高橋 克己

同盟関係にある米国の国防トップから「終了されて利益を得るのは中国と北朝鮮だ」と説得されてなお日韓GSOMIA廃棄を翻意しないことが、韓国にとってどういう意味を持つのか? このまま期限の22日が過ぎるなら、2019年11月15日は韓国がその意味の重大さを思い知る歴史的な日になろう。

16日朝、前日の文大統領とエスパー米国防長官との会談の様子を、東亜日報を除く韓国紙の日本語電子版はこもごも取り上げた。が、文政権へのスタンスによって各紙その論調に違いがある。朝鮮日報と中央日報はそれぞれ社説で文大統領の対応を痛烈に批判し、残された時間での翻意を促した。

エスパー米国防長官と握手する韓国の文在寅大統領(韓国大統領府FBより:編集部)

配信専門の聯合ニュースは、青瓦台(大統領府)の高報道官が公表した文氏とエスパー氏の発言を要約して論評を交えずに伝えた。ハンギョレは高報道官と青瓦台関係者の発言内容を以下のように引用しつつ、婉曲ながら日本の態度軟化への期待を滲ませる論調だ。(以下一部を捨象し要約。太字は筆者)

「文大統領はGSOMIAに対する我々の基本的な立場を説明した。さらに文大統領は、韓米日間の安保協力も重要だとし、持続的な努力を傾けていくと述べた」と伝えた。これに対しエスパー長官は共感を示し、「事案が円満に解決できるよう日本にも要請する」と述べた。

大統領府関係者は「エスパー長官が日本にも韓日関係を改善するため積極的に努力することを求めると述べた」とし、「米国が仲裁者として新しい案を出すわけではない」と説明した。「まだ数日残っている。完全に終了が決まったかのように見るのは正しくないと思う」とし、「日本の立場に変化があることを期待する」と述べた。

「・・日本にも要請する」とのエスパー発言だが、日韓GSOMIAが米韓同盟を介して米国に直接関係する事案である一方、日本の対韓輸出管理強化は専ら日本の内政問題。米国が日本に政策変更を迫るということは日本への内政干渉になる米国が韓国の期待するような動きをすることはまずなかろう

その意味で、朝鮮日報の社説「斧で自分の足を切る“GSOMIA敗着”」は、こう書いて青瓦台の脛の真新しい傷に触れ実に峻烈だ。

今年8月に韓国大統領府がGSOMIA終了の決定を下すと、米国は予想以上に大きく反応した。“米国と調整した”という韓国大統領府の説明も米国は“うそ”と一蹴した。

“うそ”をついたのは、康京和外相を差し置いて青瓦台で外交を操る金鉉宗国家安保室第2次長。この6日、午前にスティルウェル国務次官補が、午後にはエイブラムス在韓米軍司令官が各々70分ずつ金次長と会談したことが、米国が外交部でなく青瓦台の彼を本件のキーマンと見ていることの証左だ。

同社説もこう書いている。

外交部と国防部はGSOMIA終了に反対しているようだ。しかし青瓦台は曺国政局から国民の目をそらさせる反日カードとして破棄を強行し、逆に自らの手足を縛る結果を招いた。手をつけられないほど波紋が広がると、破棄撤回の大義名分を探すため物乞いでもするかのように日本に対話を求めた。文大統領が国際会議の会場で安倍首相の手を取り、10分間ソファーに座らせ安保室長がその様子を撮影し「対話を行った」と宣伝した。韓国国民が恥ずかしく感じるほどだった。

中央日報の社説「GSOMIA延長して韓米同盟の正常化を=韓国」も具体的な脅威を挙げて強く文政権を批判している。

同盟の危機は我々が自ら招いた面がある。GSOMIAは韓日間の協定だが、中国を牽制する米国のインド太平洋戦略の基盤となる。韓国政府が延長しなければ、米国はインド太平洋戦略に参加するという韓国の言葉を信頼しないだろう。韓米同盟の価値もそれだけ落ちる。

米国防長官は「GSOMIA終了で喜ぶのは中国と北朝鮮」とし「戦時状況で米韓日が適時に情報を共有するうえで重要だ」と述べた。・・東海から浸透する70隻にのぼる北朝鮮潜水艦を韓国軍だけで防ぐのは難しい。日本が探知した情報を韓国海軍が直ちに受けようとすればGSOMIAが必須。終了すれば日本が探知した情報を米国を経由して受けるしかない。その時は北朝鮮潜水艦は去った後だ。

1000発にもなる北朝鮮の弾道ミサイルへの対応も同じだ。ミサイルは数分以内に韓国に落ちるが、日本が先に探知することもある。情報を韓日がGSOMIAを通じてリアルタイムで共有してこそ防ぐことができる。有事の際、米軍と国連軍の増援兵力と物資も後方基地の在日米軍基地を通じて入ってくる。これにも韓日米の迅速な軍事情報交換が必要。

韓国政府が安保問題を徹底しないのは北朝鮮と中国を意識しているからだ。何よりも韓米同盟を立て直さなければならない。その試金石がGSOMIA終了の撤回だ。

朝鮮日報も中央日報とほぼ同じ主旨の文言で青瓦台批判の社説を結んでいる。

GSOMIA破棄が“敗着”であることはすでに誰の目にも明らかだが、それでも韓国大統領府は態度を改めず意地をはり続けている。米国は激怒しているが、韓国大統領府の鄭義溶安保室長は「韓米同盟とは全く関係がない」と強弁している。彼らは一体何を期待しているのか

“敗着”とは囲碁用語で「負けの決め手となった布石」をいう。「彼らは一体何を期待しているのか」と朝鮮日報が書く「彼ら」とは青瓦台を牛耳る“パルゲンイ”、すなわち“左派”を指すに違いない。在日評論家の河信基が書いた『朴正熙』(筆者は最上の朴正熙伝記と思う)にはこういう描写がある。

「お前は北朝鮮の元山出身だったな、家族はどうしている?」

(正熙が妻に)家族のことを聞くのは初めてだった。

「パルゲンイ(赤)に土地も家も没収されて、ばらばらですよ。弟が少し前にこちらに逃れてきました」

「パルゲンイは嫌いか。もし俺がパルゲンイだったらどうする?」

「悪い冗談ははやめて下さい、貴方は満州軍出身でしょう。パルゲンイの世界で生きてゆける場所なんてありませんよ。・・今国会で反民法が問題になっていますけど、北朝鮮での旧親日派追及はあれどころではありませんよ」

その「彼ら」が期待していることは、米国と日本が激怒して韓国に対する極めて強い行動、米国なら在韓米軍撤退や膨大な駐留費用負担や経済制裁、日本なら金融での更なる制裁などに及ぶ事態であるに違いない。そうなれば韓国世論を焚き付けて、中国との連携強化や北との統一促進に繋げ易くなる。

反日の陰に隠れているが元から韓国には反米の素地がある。終戦直後、南北の統一と独立とを目指した「建国準備委員会」や後身の「人民共和国」を米軍政のホッジ中将らに潰された上(実態は左右の抗争で纏まらなかった)、サンフランシスコ平和条約への参画も米国に阻まれたからだ。

この両紙の報道を受けて、保守派は大規模な反文在寅デモを打ち、政権打倒とGSOMIA延長を残された期間に叫ぶことだろう。あとは「韓国が終了を強行すれば、最も厳しいレベルで文在寅政権を批判する声明を出す方針」と報じられる米国に任せて、日本はこれまで通り毅然とした態度を貫けば良い。

高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。