カタルーニャの独立支持派による州政府は「カタルーニャ共和国」の建国への夢を捨てきれないようである。(参照:cronicaglobal.elespanol.com)
「カタルーニャ・デジタル共和国」のネット上での建設を密かに展開させていたカタルーニャ州政府の企みを断つ為に政府は急遽勅令を発動した。政府が今回の決定を下したのは、スペイン憲法155条に規定されている通り、国家統一を損ねる自治州の独立への動きは憲法違反になるからである。また、憲法2条にあるスペインは一つの国家であると謳われているからでもある。(参照:elpais.com:elconfidencial.com)
カタルーニャ・デジタル共和国の構想は既に2013年から存在していた。そのプロジェクトが具体化したのは昨年10月であった。このデジタル共和国にはブリュッセルに逃亡しているプッチェモン前州知事が打ち立てた共和国委員会が柱になっている。
(参照:lavanguardia.com)
目的はネット上でカタルーニャ共和国を建設して登録者は自らのネット上での身分証明番号が付与され、行政からのサービスや情報の提供が発信される。また、オンライン投票も可能となる。特に、外国に住んでいるカタラン人には投票が容易になる。この構築の為に参考にしたのはエストニア共和国のデジタルガバメントである。
カタルーニャ州政府のプランは、先ずはネット上でカタルーニャ共和国を継続させる。そして、それはカタルーニャ共和国を建国できるまでの基盤になるものだとしたのである。
また州政府はその為に最初は100万人の登録者が記録されることを望んだ。登録には10ユーロ(1180円)が必要で、ネットで立ち上げてから最初のひと月に5万人の登録が合った。そのあと3万人が追加されて10月末の時点で81,132人が登録されているという。当初目標の100万人には程遠い数字である。ということで、現時点ではニュースレターというレベルでの活動しかしていない。
政府が勅令を閣議で急遽決定して発動した理由の説明がない。カタルーニャ州政府が何かをしでかそうとしていたのか? それに対して、カルメン・カルボ副首相は「市民の安全保障を考慮して今アクションを起こすことに決めた」「それを今実行しない場合は政府が機能するようになるのは11月10日の総選挙の後になる。だから出来るだけ早い方が良い」と記者会見で説明しただけであった。
サンチェス首相はラジオ放送「オンダ・セロ」につい最近出演した際に、「独立主義者にとってオフ・ラインであれ、オン・ラインであれ、独立はありえないということを断言する」と語って、カタルーニャの独立への動きに対してそれが如何なる手段においても阻止する決意を表明したのである。
更に、「(カタルーニャ)州政府は市民のデーターを利用してオンラインの世界から国家に侵入するためにデジタル共和国を武装しようとしている」「法治国家は現社会においてもオンラインのそれにおいても公平に振る舞う」と明白に主張してカタルーニャだけを特別に冷遇しているのではないことを表明したのである。問題は法の盲点を利用して非合法なプロジェクトを前進させようとしていることにあるとしている。
首相の発言に対して、司会者から「そのネットを閉鎖するという意味か?」と尋ねた。首相はそれに答えて「スペインの民主主義に基づいてデジタル共和国を建設しようとしているカタルーニャ州政府の強度の悪用をコントロールすることを意味するものだ」と述べた。
今回の政府の勅令にはネットのサーバーはEU圏内に所在していることということを義務づけた。カタルーニャ州政府のlarepublica.catのサーバーはカリブ海のネイビス島になっていることから政府がコントロールできないところにある。
また、首相は州政府がさらにネット上で大きな前進を図ろうとするのであれば、治安安全法または憲法155条を適用して州政府の機能を停止させる手段もあるとした。治安安全法の中にはカタルーニャ自治警察もスペイン内務省の管轄に入れる構想もあるようだ。
サンチェス首相が常に口にしているのは現在の自治州制度をより発展させた連邦制度の確立であるとしている。しかし、現在のスペインの自治州制度は既に連邦制度になっているという意見もある。例えば、教育や医療や保健衛生において自治州が管理しているというのは連邦制度の実施を具体化させたものである。但し、連邦制度として改善が必要であるという意見で共通しているのは上院議会を各自治州の代表が集まった議会にすることだ。現在の上院はまだそこまで行っていない。
この政府の勅令発動の動きに対して、カタルーニャ州政府デジタル長官ジョルディ・プッチュネロは「デジタル155条が適用された。国家によるクーデターだ」と位置付けた。憲法155条を適用して自治州の機能を停止できると謳われていることを皮肉ったものである。
即ち、今回の勅令によって、カタルーニャ・デジタル共和国のサーバーはネイビス島からEU圏内に変えることが義務付けられたことになる。ということで、違法行為が見つかればスペインは法的にそれを合法化できるように変更を州政府に要求することができるようになる。それに従わない場合はそれを停止することもできるということである。
例えば、つい先日起きたカタルーニャの抗議デモの暴徒化に関係している独立派組織民主 ツナミに関係しているデーターや情報を発信しているプラットフォームGithubに対し、それを抑制するようにスペイン治安警察が要請したという出来事もあった。
(参照:elmundo.es)
今後もカタルーニャの独立への動きは政府によって厳しくコントロールされて行くことになる。
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白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家