聖母マリアは無原罪で生まれたか?

2019年12月10日 11:30

12月8日は聖母マリアの「無原罪の御宿り(無原罪懐胎)」でローマ・カトリック教会の祝日だった。カトリック教国のオーストリアでは祭日で休みの日だが、今年は日曜日と重なった。振替休日制度がないオーストリアでは、国民は1日、休日を失ってしまった。

オーストリアのローマ・カトリック教会のシンボル、シュテファン大聖堂横のクリスマス市場の風景(2019年11月27日、ウィーンで撮影)

本題に入る。プロテスタント教会や正教会では聖母マリアを「神の子イエスの母親」として尊敬するが、「無原罪の懐胎説」を信じていない。一方、カトリック教国のポーランドでは聖母マリアを“第2のキリスト”と見なすほど聖母マリア信仰が活発だ。すなわち、聖母マリアの無原罪懐胎の是非でキリスト教会ではコンセンサスがないのだ。ちなみに、マリアは父ヨアキムと母アンナの間に生まれている。

ローマ・カトリック教会には聖母マリアに関連した大きな祝日が2回ある。8月15日の「聖母マリアの被昇天」と、12月8日の「聖母マリアの無原罪の御宿り」の日だ。

前者はローマ教皇ピウス12世(在位1939~58年)が1950年、世界に宣布した内容だ。同12世が聖母マリアの霊肉被昇天の教義を突然言い出したのではなく、第1バチカン公会議(1869~1870年)から高位聖職者の間で教義化への動きはあった。現代の信者たちにとって死者が霊肉とも昇天するといったことは考えられない。キリスト教会の中で東方正教会はマリアの肉身昇天ではなく、霊の昇天と受け取り、マリアの昇天を教義とは受け取っていない。

「聖母マリアの無原罪の御宿り」は10世紀ごろから伝えられていた。1708年にクレメンス11世(在位1700~21年)が世界の教会で認定し、1854年、ピウス9世(在位1846~78年)によって正式に信仰箇条として宣言された。「マリアは生まれた時から神の恵みで原罪から解放されていた」という教えだ。その結果、聖母マリアは罪なき神の子イエスと同じ立場となり、「第2のキリスト」という信仰告白が生まれてくる一方、キリストの救済使命の価値を薄める危険性が指摘されてきた。中世のトマス・アクィナスらスコラ学者は聖母マリアの無原罪説を否定した。

キリスト教会はカトリック教会でもプロテスタント系教会でも聖書が聖典だが、その聖書の中には聖母マリアの無原罪誕生に関する聖句は一切記述されていない。「神と人間との間の仲保者もただ1人であって、それはキリスト・イエスである」(テモテへの第1の手紙第2章5節)と記されている。聖母マリアを救い主イエスと同列視する教義(無原罪の御宿り)は明らかに聖書の内容とは一致しないのだ。

イエス自身は母マリアに対してかなり厳しい言葉を発している。イエスが群衆に福音を述べている時、弟子が「お母さんが外で呼んでおられます」と言ってきた。その時、イエスは「私の母、私の兄弟とは誰のことか。見なさい、ここに私の母、兄弟がいる。神の御心を行う人こそ、私の兄弟、姉妹、また母なのだ」(マルコ福音書第3章)と返答している。

ガリラヤのカナの婚礼では、葡萄酒を取りに行かせようとした母マリアに対し、イエスは、「婦人よ、あなたは私と何の係りがありますか」(ヨハネ福音書第2章)と述べ、親族の結婚式のために没頭するマリアに不快の思いすら吐露している。イエスと母親マリアの母子関係は決して良好ではなかったことが推測できるわけだ。

だから、「聖母マリアの無原罪の御宿り」を信じるためには、①聖書を放棄する、②聖母マリアを第2のキリストに引き上げる、の2通りしかないことになる。カトリック教会が聖書に記述されていないマリアの神聖化に乗り出した背景には、キリスト教社会で長い間、神は父性であり、義と裁きの神であったが、慰めと癒しを求める信者たちは、母性の神を模索し出した。そこで母性の神を代行するとしてマリアの神聖化が進められていったことがある。換言すれば、聖母マリア崇拝は父性の神を補完する意味で生まれてきたわけだ。

まとめるならば、「必要は発明の母」という言葉があるが、信仰の世界にもそれは当てはまる。聖母マリアの神性化、第2のキリスト化、それを裏付けるために「聖母マリアの無原罪の御宿り」という教義は聖書とは無関係に教会側が必要に迫られて創作していったわけだ。

問題は、聖母マリアの神性化はイエスが結婚していれば必要なかったことだ。しかし実際は、イエスは結婚しなかったから、母性の代表として聖母マリアが信者の願いを成就するシンボルとして登場してきたのだ。ただし、聖母マリアが第2のキリストに引き上げられれば、イエスの十字架救済の価値を薄めるだけではなく、キリスト・イエスの降臨の意味すら曖昧にしてしまう。12月8日の「聖母マリアの無原罪の御宿り」は非常に危険を内包した祝日といえるわけだ。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年12月10日の記事に一部加筆。

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