世界経済の低成長、低インフレはなぜ?

日経電子版に「先進国が患う長期停滞に克つには(大論戦)」とあります。大論戦というので目を通したのですが、専門家が専門領域の枠組みから抜け出せない論戦に感じました。この論戦記事のリードには

「日米欧で『長期停滞論』が再び注目を集めている。各国は金融緩和や財政出動を繰り出すが、物価は低いままで、成長力もかつての勢いを取り戻せない。各国は21世紀の長期停滞に克(か)てるのか。投資の姿はどう変わるのか。専門家に聞いた。」

とあります。そして各界のコメントの後、記事の最後に「需要不足か技術の限界か 見方二分」とあります。見方二分とありますが、私はどちらも違うという立場を取ります。

はむぱん/写真ACからの写真(編集部)

まず、国家にとっての成長の尺度はGDPであることが多いかと思います。この論戦の前提もGDPです。GDPは国内総生産であって海外との関係は貿易収支(輸出-輸入)は反映されますが、海外投資は反映されません。日本企業の多くは地産地消という発想のもと、海外に現地法人を作ったり海外企業を買収して企業活動を進めていますが、その海外部分はGDPとは別物になります。

よって世界経済がリーマンショック前がGDP2.7%成長、その後が2.0%となっているのは計算手法と企業の経済活動が不一致を起こしていると考えられます。事実、2.0%しか成長していなくても世界がどん詰まりを起こしているわけでもないし、雇用が悪化したわけでもなく、人は足らず、企業はそれなりに成長しているのです。

むしろ、世界的な金融緩和で企業の資金調達がたやすくなり、大型買収が促進されたのがこの10年だとみています。これにより世界中の企業で弱肉強食化が進み、効率化や研究や投資に回せる資金が増え、より新しい技術や製品が生まれてきたのです。

日本がGDPの計算の枠組みの中で大きな成長することはあるのか、といえばYESともNOともいえます。あくまでも国内経済に限って言えば少子高齢化と「技術向上による消費削減圧力」がかかることがGDPを増えなくさせる最大の要因と考えています。技術向上による消費削減圧力とは例えばカメラ、音楽デバイスと携帯を持っていた人がスマホ一つで足りるようになったことでいろいろなものを買う必要がなくなったことがあります。また百均に出店するために企業が創意工夫をして様々な機能を簡素化し、100円で売れるようにしたこともあるでしょう。

一方、GDPが増える方策としてはGDP=G+I+C+EX-IMの法則からすればG(政府支出)を増やすことでI(企業投資)とC(消費)を誘発することがあります。例えば今年は政府が大型補正予算を組み、国土強靭化対策を行います。これだけではGだけの支出になりますが、コンパクトシティを作るとなるとIとCを誘発することが可能ではないでしょうか?つまり、政府支出が人々のスタンダードを変えるような仕組みを作ればGDPは論理的には増やすことは可能かと思います。(当然ながら財政の部分は痛むはずですが。)

次にインフレ率目標の2%ですが、世界の主要先進国が設定した数字であります。ところが多くの国は到達できません。なぜか、といえば上述のように企業が生み出す製品やサービスがより便利なものになるのですが、その変化は指数関数的減衰(要は漸減)していると考えられるからではないでしょうか?

中央政府は2%という硬直的目標を持っているのですが、企業成長と消費者の満足度が国家全体の成長とともに緩やかな変化になるのにインフレ目標という硬直的数値のまま放置されているともいえるのです。それゆえ、1%成長であって実質的には誰も困らないとも考えられないでしょうか?

金利を下げれば消費を誘発できるか、といえば上述の論理が正しければその効果は限定的です。それでも下げ続けた結果、マイナス金利となり欧州の一部では住宅ローンまでマイナス、つまり、家を買ってローンを組めばお金が得するというバカげた経済となっているのです。多分、ラガルド新ECB総裁はマイナス金利を止める(というか、タブー化する)とみています。

私が日経のこの論戦に参戦するならば「新常態(ニューノーマル)」はインフレ率にも経済成長率にも当てはまるのではないか、と考えています。

ところで冒頭GDPは海外からの所得収支が反映されないと申し上げました。GNIという計算方法であればこれを拾うことが可能です。ただし、日本のGNIを見ると2010年ぐらいから伸びが止まっています。ここは留意して考察すべき点だと思います。日本企業は海外で十分な成功を収めていないと数字は語っていることになりそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年12月10日の記事より転載させていただきました。