元事務次官息子殺害事件:DV対応の現実

2019年12月17日 11:30

昨日12月16日に懲役6年の判決が出た、元事務次官が息子さんを殺害してしまった事件ですが、
「娘は絶望して自殺した」元農水次官はなぜ息子を殺害したのか?法廷で明かされた家族の苦悩(FNN.jpプライムオンライン)

父親の供述を全面的に信用するとすれば、殺された息子さんを家族で支え続けた結果、娘さんは自殺し、奥様はうつ病になられ、両親は相当ひどい暴力をふるわれていたとのことで、これほど痛ましい事件になってしまったこと、長年家族問題に関わっている身として胸がふさがれる思いです。

ANNニュースより

そしてこの事件は、現場に関わる人間としては決して珍しい話しではなく、同じことがまたどこで起きてもおかしくない状況にあると思っています。

今日は、現在日本の家庭内暴力対策はどうなっているのか?
私たちの活動から見えている現実から2つの課題をお伝えしたいと思います。

1)家族内での抱え込み

これは多くの方が指摘されていますが、まずこのような問題に対して、家族だけで対応しきれるものではありません。

どこかに相談し、適切に関わって貰う必要があるのですが、このご家庭のように、両親のどちらかが地位のある人、著名人、もしくは警察官など、家族の問題まで自分の社会的立場に関わるような仕事をしている人や、他人に迷惑をかけてはいけないと責任感の強い人は、特に外部に相談することを嫌います。

また、誰にもバレないように、バレないようにという世間体第一の姿勢をとるような御家庭だと、当事者はそれを見抜き、事態はますます悪化していくというパターンになります。

この事件、供述の中で「どこかに相談した」という話が一向に出てこないということは、「家族でなんとかしなくてはならない」と必死になっていたのではないかと推察されます。

2)支援を求めても何もしてくれない

では、ご家族が支援を求めた場合にどうなるでしょうか?
私は、「誰かに相談する」という啓発ももちろん大事ですが、今の日本は、相談先の対応があまりにお粗末で、人手不足や研修不足など大きな課題があると思います。

例えば、夫婦間のDVの場合よく言われるのは「シェルターなどへの一時避難」がありますが、このシェルターというのが、カーテンで区切られただけの共同生活で、携帯も使わせてもらえない、という現実の生活に即していない様なところもあり、実際には使えないというケースも多いのです。

また、私も一度相談に付き添ったことがありますが、折角決意していっても、市区町村の方で、あぁでもないこうでもないと要件を問われ、あげ句、担当者不在で「今日は無理です」と言われてしまい、その後、結局決心が揺らぎ元に戻ってしまったという苦い経験があります。

それ以来、私はよほど生活に困窮している人でない限り、行政のシェルターを頼ることはやめました。
あまりに対応が呑気すぎ、危機感がなく、話しにならないと温度差をヒシヒシと感じたからです。
それからは、ウィークリーマンションか、ビジネスホテル、シェアハウスに緊急避難して貰ったり、お金に困窮していた仲間には、子連れでうちに避難して貰ったこともあります。

また、今回のように相当深刻な暴力があったり、自傷他害の恐れがあるケースは、当事者を治療に繋げるべきであり、病院などに入院するよう説得を試みる必要があります。

しかし、この当事者への介入が殆どの自治体で機能していません。
ギャンブル依存症の場合も、DVによって家族からお金を巻き上げているようなケースがありますが、ご家族は、精神保健福祉センター、保健所、警察、弁護士とありとあらゆるところに相談に行くも、「本人がその気にならなければどうにもならない」「本人を連れてこい」といった返事が殆どで、家族は相談疲れから、人間不信、相談機関不信に陥り、孤独感を強め、助けを求めることをあきらめていくケースが、本当にとてつもなく多いのです。

暴れたり、物を投げつけたり、大声でわめきちらすため警察を呼んでも、警察は殆どの場合説教で帰ってしまいます。
中には、警察が誓約書を書かせるなど、バカバカしい対応をするケースもあります。
23条通報で措置入院の対応をとって貰えることなど殆どありません。

私が考えるに、こういったケースは保健所が動いて、本人に会いに行き、粘り強く交渉して入院に繋げるべきだと思います。
第三者が介入に入ると当事者の対応も全く違ってきます。

今回のケースは、息子さんが発達障害とのこで主治医がいたようですが、この主治医に暴力のことを相談していたのか?
相談していたとしたら、なぜ同居させたのか?なぜ家族の安全確保に努めないのか?疑問ですが、往々にして、家族支援は犠牲にされ、当事者の面倒を見る人の役割を強いられる、それが日本の現状です。

ギャンブル依存症の場合、それでもなんとか当会にたどり着いてくれた方々には、地元の仲間に動いて貰ったり、私がかけあったりしますが、そうするとですね、しぶしぶ動いてくれる行政もあり、「なんで個人が相談に行った時にさっさとやらないの?」と腹が立って仕方がないです。

あと、特に東京都なんかは、区と都で押し付け合って機能しないのと、私が行った方が早いので、当事者に会いに行くのですが、相手がですよ、柳刃包丁を振り回しているようなケースでは、さすがにこんなおばちゃん一人では危ないじゃないですか。

なのでご家族も私の身を心配して「警察に同行して貰いましょう」と提案してくれますが、これもまた一筋縄じゃいきません。

すでに何度も出動して貰っていて、実情がわかっていても「あいつには何を言ってもどうしょうもないよ。」などと警察官が言い出す始末で「じゃぁ、ちょっと刺されてきたら、動いてくれます?」と、ブチ切れたことがあります。

この時は、警察を説得するだけで3時間かかりましたが、なんとか同行して貰い、介入に成功して、本人に入院して貰うことができました。

このように自己責任論の強い日本では「家族が問題を抱え込み、周囲に助けを求めない、相談しない。」という問題点がしばしば指摘されますが、実際には「相談しても解決しない」というケースも多々あるのです。

日本はメンタルヘルスの問題に対する支援者、それも重篤な家族の悲劇に介入できるような支援者が本当に少なく、家族間で起こる悲劇はあとを絶ちません。
もっとこういった問題に予算をさき、介入者と受け入れ先の病院等を育てていく必要があると思います。

暴力に支配されたご家族の悲劇を繰り返さないためにも、この事件を一個人の話とせず、社会全体の問題として、迅速に対応して貰える再発防止策を検討して欲しいと思います。


田中 紀子
公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表
国立精神・神経医療センター 薬物依存研究部 研究生
競艇・カジノにはまったギャンブル依存症当事者であり、祖父、父、夫がギャンブル依存症という三代目ギャン妻(ギャンブラーの妻)です。 著書:「三代目ギャン妻の物語」(高文研)「ギャンブル依存症」(角川新書)「ギャンブル依存症問題を考える会」公式サイト

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公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表

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